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19 ルシュルト・クル 1

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「随分と盛況の様だね?」

 低く、でも心地よい声が辺りに通る…

「まさか、こちらにおいでになるとは…」

「今はお忙しいのでは?」

「それで、お相手の方はどなたですって?」

 ザワザワと人々の好き勝手な会話が辺りに広がっていく。それと同時に人垣がさっと左右に流れて行って、これまた正装で身を固めた紳士が二人側へと寄って来た。一人は先程ルシーを伴って消えて行ったハダートン卿だ。

 もう一人…この茶会では初めてお目にかかる。琥珀色の後ろ側が短髪の髪に薄紫の瞳……?外見の色だけならルシーに良く似ているけれど、少し身長は高いし、身体付きも当たり前だがこの紳士の方がガッチリとしているし、顔つきもルシーにより精悍さを増し加えたような方だ。

「これは殿下…本日お越しになるとは思いませんでした。」

(殿下!!?)

 未だにサラータの手を握っている侯爵がこちらへやって来た紳士をそう呼んで礼を取れば、カザラント子爵も礼を取っている。サラータも慌ててそれに倣った。

「アンクル卿……昼間からご盛んだね?」

 どうやらサラータの隣にいる侯爵はアンクル侯爵というらしい。

「恐れ多くも、美しく咲いている華を愛で逃す事がないように、と言うのが私の信条ですので…」

「ふむ。一理あるな…では、卿、私も今日は其方の信条とやらに乗るとしよう。レディ、お手を?」

(え………?私……?)

 ここにいる人々の中で一番驚いているだろうサラータは文字通り目を丸くする。

(なぜ………?)

 王族との面識も、なんなら御名も知らないような一般人に、殿下、と呼ばれた紳士は嬉しそうに手を差し出して来た。

「名は?」

「サ…サラータ・カクルにございます…」

「では、サラータ嬢。私にとっては久しぶりの茶会だ。暫く話し相手になってはくれないか?」

「わ、私が、ですか?」

 呆けたように、聞き返してしまったけれども、目の前の紳士はニッコリと柔らかな笑顔でサラータを見つめてくる。
 チラリ、隣にいるカザラント子爵キュリオを仰ぎみれば、真面目な顔をした彼は何度も肯き返してくる。

(行け、ということでしょうか…キュリオ様………) 

 一介の一般市民に、何をどうして殿下のお相手ができると思うのか…子爵の思惑など分かろうとも思わないが、他ならぬ殿下の所望にもまた、一介の一般市民が断ることなどできようはずも無く……

「よ、宜しくお願いいたします……」

 サラータは差し出された殿下の手に、震える自分の手をそっと委ねたのだ。その時の殿下の顔は心底嬉しそうに(表面上の事かもしれないが)も満足そうにも見えて、サラータは間違った判断をしなかった事が分かった。









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