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9 王都 3
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「ここが、王都……」
ゆっくりと二週間程かけて各地を回りながらカクル家一行は王都に辿り着く。と、言っても王都の中に入るまでがまた時間がかかるもので、何箇所にも渡る検問所を通らなければ事実王都には入ることさえ出来ない。
その昔、イリュアナ国の地にはベストク帝国と言う国があった。独裁者ベガスが起こした国で、ここまでの大国に至らせる為にかなりの強権政治を敷いてきた。が、それも長くは続かず、反旗を翻したイリュアナ国の初代国王に滅ぼされた。ここまでならば国中どこの学校でも習う事ができる歴史だ。イリュアナ国初代国王はベストク帝国の強権政治を嫌っていた。本来ならばベガスの血を引く血縁者は皆滅ぼされる様なところだが、初代国王はそうしなかった。ベガスの首だけを取り、残された王族男児は遥か遠くの僻地へと追放された。残された女子供は、イリュアナ国となった後に叙爵された貴族に嫁すことが許された。全てを排除するのではなく、共に生きる道を与えたのだった。
が、初代の思い虚しく、その後数年ベストク帝国の生き残りを名乗る者達からの反乱が後をただず、ベストク帝国王家直系者のみを残し他の子孫は国外追放。王都への侵攻を防ぐために何重にも渡る強固な大門と高い石造りの壁を設け身分の証明出来る者しか王都への入場も叶わなくなったのだ。
イリュアナ国王都への入り口は四箇所あり、それぞれが三つの頑丈な大門と高い石壁に守られている。平時の時には警備兵が常に駐屯し検問を行なっているだけだが、有事の際にはその門は閉じられ王都に住まう大勢の人々の守りの盾となるのだ。
その王都へ入る検問所を一つ一つ通るわけだが、国中から王都へ入る人々がくるのだ。混まないわけがなかった…
「凄いわ…お父様、人が溢れ返っているのを初めて見ました…」
まだ王都にも入る前からサラータは人と人種の多さに度肝を抜かれていた。
「そうだね。サラータは始めてだろうからね。」
両親は新婚旅行の際に、父は駆け出しの若者の時に王都には何度か来たことがあるらしい。だからこの賑わいにはある程度の耐性はある。が、時には常ならぬ人集りというものもあるもので、カクル家の特注馬車はそれは人目を引き、更なる人垣を生み出していた。検問を並んで待っている所からして、商人一行が運び入れる物は一般人よりもかなり多い。その商品や人間の検分も含めるとかなりの時間もかかる為、更に人目に晒される事になる。
馬車の窓から外を覗いては余りの人の多さについ、尻込みしてしまう。
「サラ、窓の布は下ろしておきなさい。」
そう言うなり、父ランドムは全ての窓を閉めてしまった。
「…外が見えないわ…」
人の多さに尻込みしていたサラータだが、外が見えないのは嫌らしい。
「サラの容姿は少し目立つからね?」
優しい父が説明してくれた所によると、サラータや父ランドムの外見だけならば隣国カコール皇国の王族に近しいらしい。幼い頃にそんな事を聞いたことがあるサラータだが、一般市民の自分には今そんな事を蒸し返されようが関係のない事だ。だが、これだけの人々の手前、女の身では要らぬ騒動に巻き込まれないとも限らない。避けて通れるものは避けた方が良いのである。
「だから、護衛が窓の外にへばり付いていたの?」
なんとも邪魔だと思っていた…馬車の外にいたカクル家の護衛達。どうしてだか、彼らは窓から離れずに見える景色を遮っていたから…
「そう…彼らは出来る護衛達だろう?私が信頼できる者を選んだからね。」
ニッコリと自信ありげに父は微笑む。サラータは納得までは出来なかったが、何しろ初めての王都である。無駄な諍いや、事件に巻き込まれるなんて恐ろしい事は遠慮したいので素直に父の言葉に従うのだった。
ゆっくりと二週間程かけて各地を回りながらカクル家一行は王都に辿り着く。と、言っても王都の中に入るまでがまた時間がかかるもので、何箇所にも渡る検問所を通らなければ事実王都には入ることさえ出来ない。
その昔、イリュアナ国の地にはベストク帝国と言う国があった。独裁者ベガスが起こした国で、ここまでの大国に至らせる為にかなりの強権政治を敷いてきた。が、それも長くは続かず、反旗を翻したイリュアナ国の初代国王に滅ぼされた。ここまでならば国中どこの学校でも習う事ができる歴史だ。イリュアナ国初代国王はベストク帝国の強権政治を嫌っていた。本来ならばベガスの血を引く血縁者は皆滅ぼされる様なところだが、初代国王はそうしなかった。ベガスの首だけを取り、残された王族男児は遥か遠くの僻地へと追放された。残された女子供は、イリュアナ国となった後に叙爵された貴族に嫁すことが許された。全てを排除するのではなく、共に生きる道を与えたのだった。
が、初代の思い虚しく、その後数年ベストク帝国の生き残りを名乗る者達からの反乱が後をただず、ベストク帝国王家直系者のみを残し他の子孫は国外追放。王都への侵攻を防ぐために何重にも渡る強固な大門と高い石造りの壁を設け身分の証明出来る者しか王都への入場も叶わなくなったのだ。
イリュアナ国王都への入り口は四箇所あり、それぞれが三つの頑丈な大門と高い石壁に守られている。平時の時には警備兵が常に駐屯し検問を行なっているだけだが、有事の際にはその門は閉じられ王都に住まう大勢の人々の守りの盾となるのだ。
その王都へ入る検問所を一つ一つ通るわけだが、国中から王都へ入る人々がくるのだ。混まないわけがなかった…
「凄いわ…お父様、人が溢れ返っているのを初めて見ました…」
まだ王都にも入る前からサラータは人と人種の多さに度肝を抜かれていた。
「そうだね。サラータは始めてだろうからね。」
両親は新婚旅行の際に、父は駆け出しの若者の時に王都には何度か来たことがあるらしい。だからこの賑わいにはある程度の耐性はある。が、時には常ならぬ人集りというものもあるもので、カクル家の特注馬車はそれは人目を引き、更なる人垣を生み出していた。検問を並んで待っている所からして、商人一行が運び入れる物は一般人よりもかなり多い。その商品や人間の検分も含めるとかなりの時間もかかる為、更に人目に晒される事になる。
馬車の窓から外を覗いては余りの人の多さについ、尻込みしてしまう。
「サラ、窓の布は下ろしておきなさい。」
そう言うなり、父ランドムは全ての窓を閉めてしまった。
「…外が見えないわ…」
人の多さに尻込みしていたサラータだが、外が見えないのは嫌らしい。
「サラの容姿は少し目立つからね?」
優しい父が説明してくれた所によると、サラータや父ランドムの外見だけならば隣国カコール皇国の王族に近しいらしい。幼い頃にそんな事を聞いたことがあるサラータだが、一般市民の自分には今そんな事を蒸し返されようが関係のない事だ。だが、これだけの人々の手前、女の身では要らぬ騒動に巻き込まれないとも限らない。避けて通れるものは避けた方が良いのである。
「だから、護衛が窓の外にへばり付いていたの?」
なんとも邪魔だと思っていた…馬車の外にいたカクル家の護衛達。どうしてだか、彼らは窓から離れずに見える景色を遮っていたから…
「そう…彼らは出来る護衛達だろう?私が信頼できる者を選んだからね。」
ニッコリと自信ありげに父は微笑む。サラータは納得までは出来なかったが、何しろ初めての王都である。無駄な諍いや、事件に巻き込まれるなんて恐ろしい事は遠慮したいので素直に父の言葉に従うのだった。
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