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5 お祝いの準備 1
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現カザラント子爵家は代替わりしていて久しい。カクル家の隣家に住んでいるのは先代のカザラント子爵老夫妻だ。幼い頃から屋敷へと我が物顔で出入りして可愛がって貰っていたサラータとしては、是非とも直接お祝いを言わねば気が済まない。
先代カザラント子爵はモルト・カザラントという。幼い頃はモル爺モル爺とルシーと呼び合っていた。曲がりなりにも貴族の紳士を爺、呼ばわりするとは不敬罪で罰せられてもいいはずなのだが、このモル爺は大の子供好き。サラータの事も本当の孫の如くに可愛がり、爺呼ばわりを大層気に入って許してくれていた御仁だ。
「モル爺様!」
丁度サラータがバスケットに焼き立てパンと、搾りたて蜂蜜を入れて隣家を訪れた時に、モルト老は庭の手入れ中だった。
「おぉ!おはよう!サラ!」
ルシーも家族も親しい人々は皆サラータをサラと呼ぶ。
元気よく駆け寄ったサラはモルト老に先ずは挨拶をした。
「この度は、心よりお祝いを申しあげます。ルシーのご結婚が決まったのですって?」
挨拶が終われば、手に持っていたバスケットをモルト老に差し出しながらサラータは飛び跳ねる勢いだ。
「ホッホッホッサラは朝から元気だね。お祝いをありがとう。聞いたのかね?」
「ええ!ルシーから手紙が来ましたの!」
「ほう?あれは何と?」
「この度、結婚することになりました。つきましては祝いの席を設けたいと思いますのでご足労くださいって!」
「ほぅ…そんな事をねぇ?」
「えぇ!私、もう嬉しくって!久しぶりにルシーに会えますわ!ねぇ、モル爺様もいくのでしょう?」
「そうだね、私は親戚だからな。」
「嬉しい!モル爺様も久しぶりにルシーに会うのよね?楽しみだわ!」
「そうだね…あれも立派になった事だろう…さて、サラ。このバスケットの中身は何かね?」
「母が焼いた焼き立てパンと、ステラの養蜂場の搾りたての蜂蜜ですわ!」
「ほう!今朝のかね?」
「ええ、急いで走って買いに行ってきましたわ!」
「サラ、まさか、一人で行ったのではないだろうね?」
「え?だってすぐご近所ですもの。勿論一人で行きましたわ?」
ステラの養蜂場とはカクル家から臨む山側の手前に小高くなったなだらかな丘が見える。そこに養蜂場を構えているのだ。早い時間に行けば今朝取り立ての搾りたての蜂蜜を買う事ができると地元でも有名だ。
「サラ、駄目だよ?君はもう妙齢の淑女なんだからね。何かあってからでは遅いんだよ?必ず供をつけなさい、ね?」
供と言っても、サラータは一般市民だ。ここは田舎町で顔見知りも多く、少し裕福だからと言っても護衛や供を付けている者の方が少ないくらいだ。
「え…でも、こんな田舎で…?」
サラータがキョトンとしてしまっても仕方ないだろう。
「田舎でも、だ。もし、君に何かあったら、あれが怒り狂うだろうからね?」
あれ、とはルシーの事には違いないだろうが、サラータはルシーが怒っている姿など一度たりとも見たことはなかった。サラータの中のルシーはいつもフワリと笑顔が柔らかくて、優しくて、隣で見ているだけでホニャッとこちらも釣られて顔が緩んでしまいそうになる、そんな存在だったから。
「ルシーが怒る?嘘でしょう?」
「ホッホッ!あれは君の前では優しかったのかい?意外に怒らせると怖い者だよ?」
一緒に住んでいたモル爺が言うのだから間違いではないのだろうけど、どうしても信じきれないサラータは納得のいかない顔のまま、モル爺に促されて屋敷の中にいるカザラント老夫人に挨拶しに行ったのだった。
先代カザラント子爵はモルト・カザラントという。幼い頃はモル爺モル爺とルシーと呼び合っていた。曲がりなりにも貴族の紳士を爺、呼ばわりするとは不敬罪で罰せられてもいいはずなのだが、このモル爺は大の子供好き。サラータの事も本当の孫の如くに可愛がり、爺呼ばわりを大層気に入って許してくれていた御仁だ。
「モル爺様!」
丁度サラータがバスケットに焼き立てパンと、搾りたて蜂蜜を入れて隣家を訪れた時に、モルト老は庭の手入れ中だった。
「おぉ!おはよう!サラ!」
ルシーも家族も親しい人々は皆サラータをサラと呼ぶ。
元気よく駆け寄ったサラはモルト老に先ずは挨拶をした。
「この度は、心よりお祝いを申しあげます。ルシーのご結婚が決まったのですって?」
挨拶が終われば、手に持っていたバスケットをモルト老に差し出しながらサラータは飛び跳ねる勢いだ。
「ホッホッホッサラは朝から元気だね。お祝いをありがとう。聞いたのかね?」
「ええ!ルシーから手紙が来ましたの!」
「ほう?あれは何と?」
「この度、結婚することになりました。つきましては祝いの席を設けたいと思いますのでご足労くださいって!」
「ほぅ…そんな事をねぇ?」
「えぇ!私、もう嬉しくって!久しぶりにルシーに会えますわ!ねぇ、モル爺様もいくのでしょう?」
「そうだね、私は親戚だからな。」
「嬉しい!モル爺様も久しぶりにルシーに会うのよね?楽しみだわ!」
「そうだね…あれも立派になった事だろう…さて、サラ。このバスケットの中身は何かね?」
「母が焼いた焼き立てパンと、ステラの養蜂場の搾りたての蜂蜜ですわ!」
「ほう!今朝のかね?」
「ええ、急いで走って買いに行ってきましたわ!」
「サラ、まさか、一人で行ったのではないだろうね?」
「え?だってすぐご近所ですもの。勿論一人で行きましたわ?」
ステラの養蜂場とはカクル家から臨む山側の手前に小高くなったなだらかな丘が見える。そこに養蜂場を構えているのだ。早い時間に行けば今朝取り立ての搾りたての蜂蜜を買う事ができると地元でも有名だ。
「サラ、駄目だよ?君はもう妙齢の淑女なんだからね。何かあってからでは遅いんだよ?必ず供をつけなさい、ね?」
供と言っても、サラータは一般市民だ。ここは田舎町で顔見知りも多く、少し裕福だからと言っても護衛や供を付けている者の方が少ないくらいだ。
「え…でも、こんな田舎で…?」
サラータがキョトンとしてしまっても仕方ないだろう。
「田舎でも、だ。もし、君に何かあったら、あれが怒り狂うだろうからね?」
あれ、とはルシーの事には違いないだろうが、サラータはルシーが怒っている姿など一度たりとも見たことはなかった。サラータの中のルシーはいつもフワリと笑顔が柔らかくて、優しくて、隣で見ているだけでホニャッとこちらも釣られて顔が緩んでしまいそうになる、そんな存在だったから。
「ルシーが怒る?嘘でしょう?」
「ホッホッ!あれは君の前では優しかったのかい?意外に怒らせると怖い者だよ?」
一緒に住んでいたモル爺が言うのだから間違いではないのだろうけど、どうしても信じきれないサラータは納得のいかない顔のまま、モル爺に促されて屋敷の中にいるカザラント老夫人に挨拶しに行ったのだった。
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