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「じゃあ、これ頼むわ。」

 担任から預かるのは刀貴への2日分のプリントだ。勿論、学校帰りに寄るつもりでいたけど、公然とした理由もできた。


 刀貴が待つ家に行く。はっきり言って、浮かれてる……ウキウキした気分ってこういうもんなんだな。お付き合いとは無縁の生涯を送るもんだと思っていたから、非常に新鮮。だから、自分を抑えることって良く分からなくても仕方がない…


「ねぇ、みそえ?楓、何かあった?」

「え?何かって何?」

「君達双子でしょ?いつもとの違いとか分かる?」

「え~?楓でしょ?良く寝れたって言ってたし、体調バッチリなんじゃない?」

 
 双子といえども24時間一緒にいるわけじゃないから細かい変化云々なんてみそえだって把握しているわけじゃない。


「ふ~~~ん。良く、眠れたねぇ?それにしてもはしゃぎすぎじゃない?」

「そう?何?蒼梧。楓が元気じゃダメなの?」

「ん~にゃ、ちゃう。元気はいい事。でも何かあったのかは気になるね。」

「やだ、蒼梧ってそういう勘いいよね。何何?楓は知らない内に、私達が知らない扉でも開けましたか?」

「ふはは…ありえる~」

「秘密って言ったら、絶対に私や楓よりも蒼梧の方が多いからね?」


 今日だってまたどこぞの女子との密会連絡でもしてるのだろう、連絡がバシバシきてる。  


「俺のは先行投資。」

「何それ?」

「将来に生かすって事で…」

「うっさんくさ~……」

 
 みそえが盛大に嫌な顔をした所で、蒼梧はみそえと別れを告げる。どうやらこれから女子との待ち合わせの様子。


「本当、おさかんだ事…」

 
 憎まれ口を叩く割にはみそえはこの帰り道が嫌いじゃない。今日は楓矢がいないだけいつもよりは静かだが、蒼梧は自分に用事があっても必ずみそえを家の側まで送っていく。昔からの習慣で、いつも帰る時には破られたことがないくらいには3人の中では常識的な事。


「もう、皆んな自分勝手ね~。」


 楓矢もいない、蒼梧も…いずれはみんなそれぞれ離れていく様になるだろう。でもなんでか、みそえには大人になっても自分達は一緒にいる様な、そんな変な確信で一杯だった。
 






「おーい?こんちは~?」

 チャイムを鳴らし、勝手知ったる玄関を少し開けて中に呼びかける。刀貴には居ないときでも勝手に入ってきていい様に、昨日の時点で鍵まで渡されていたけれど、流石に他人様の家に家主がいない状態で入った事が無ければ躊躇もする。


 そして、昨日の今日で、照れ臭い………


「お帰り。楓矢。」


 バスルームの方から声がして、濡れたままの髪の刀貴がひょっこりと顔を出す。


「何?風呂入ってたん?」

 
 頬が火照るのを隠そうとしてわざといつも通りに振る舞う。


「そう、少し外出してたから。」

「ふ~~ん?これ、担任から預かって来た。」


 訪問にはちゃんとした理由があるんですよ、と何故かそんな理由を前面に押し出してしまう。


「ありがとう。楓矢……お帰り。」


 刀貴のは着衣し終わったラフな格好で、穏やかにニッコリ笑って、両手を広げてベタな出迎え方をしてくる。今まで友人にでもそんな事をされたら、なんじゃそりゃと華麗にスルーする所…なのに、吸い寄せられるみたいに自分から向かって行っちゃうから不思議だ。


「ん…ただいま……」

「ずっと、こうやって迎え入れたかったんだ。自分の、自分達の家に…帰ってきてくれたらって…」

 
 軽く抱きしめながら、そんな事を言う。愛する者を何度も自分の手で殺め、一度として叶わなかった小さな幸せ、ささやかな望み…
 長い間待ってて貰っていた身としては、それがくだらない願いじゃない事を骨身に染みて知っているから無碍にはできそうにもない。


「ちゃんと帰ってくるよ。これからはさ?いつでも来れるし。」


 ぎゅうっと力強く抱きしめて、刀貴は答える。だからこっちも背中に両手を回して逃さないくらいの力加減で抱きしめ返した。


"好いた方に触れるのを許してもらえる"


 ゆうらの歓喜の声を今めいいっぱい堪能してる。
 















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