7 / 46
7
しおりを挟む
「おや?いらっしゃい。」
蒼梧の部屋に行くまでに長い廊下を通っていく。久しぶりの蒼梧の親父さんに声をかけられてしまった。
「あ、こんにちは~お邪魔します!」
「楓くんにみそえちゃん久しぶりだね?今日はゆっくりしていけるのかい?」
「あ、俺はそのつもりです。」
「え~なら、楓泊まっていく?」
「ん~どうしよ?」
「あ、良いなぁ…男子ずるぅ…」
「みそえは暗くなる前に帰れよ?」
ただでさえみそえに何かあったら、多分冗談でなく大変なことになりそうだから。
「ん~もう、わかってるよ!早く遊ぼ?」
「もしかして、みそえはただの時間潰しとか?」
「はあ?蒼梧が寂しがってるから、楓ときたんでしょ?ほら!さっさと行く!」
「なんだ、みそえちゃん。そのまま家に住んじゃえば良いのに。」
ニコニコと悪気はないんだろうけどこの手の話は小さい頃から嫌って言うほど聞いてきたから、兄としては本当にそうなるかは分からないけど、望まぬ事を強制はしたくないわけなんだ。蒼梧の父親も柔和な雰囲気が評判の神主さんでその人柄は俺達兄妹もよく知っている。けど、こう言うのは、当人同士の合意が必要だもんな。
「やっだ~おじ様ったら、私きっとぐうたら嫁になりますよ?おば様のご飯美味しいし、食っちゃ寝しそう。」
「え、みそえそれは最低。」
「え~みそえ料理できるじゃん。」
実際嫁が食っちゃ寝宣言してきたら迎える方は困っちゃうだろう。実際みそえは家事全般できるんだけど。
(みそえ、兄はそんな嫁嫌かも…)
「ふふふ、それでも良いからお嫁においで。」
「蒼梧がそう言うなら考えま~す!」
「え~どうしようかなぁ…」
蒼梧はちょっと嫌そうな顔だ。
「ほら、もう行くぞ!」
一向に終わりそうに無い会話に区切りを付けるように蒼梧の部屋へと雪崩れ込んだ。
蒼梧の部屋でジュースを飲みながら一通りだべって、みそえを送り帰して夕飯を食べて、風呂に入ってまた蒼梧の部屋でくつろぐ。小さい頃から来慣れているこの部屋は非常に居心地がいい。
「よう蒼梧、寂しいのは治まりましたか?」
「あ?別の所が寂しいです。」
「それは違う機会に埋めろよな?」
マリカとの約束をすっぽかしたことを蒼梧はまだ根に持っている様子。
「楓達が急に来るって言い出したんでしょ~?」
「まあ、そうだけどさ。」
「あんまり、楓らしくは無いよね?どした?」
小さい頃ならいざ知らず、物心ついたと言うより、あの夢を見だしてから自分から進んで蒼梧の家、神社には行こうとしなかったから。
「ん~~?」
(ここまで来たら、もののついでか?)
「蒼梧んとこにさぁ…神社の歴史書みたいなのある?」
「家系図?」
「う~ん。違うんだよなぁ。」
「何について知りたいんでしょうね?このお坊ちゃんは?」
ドサッと蒼梧が上に乗って、人の顔の上から覗き込んできた。
「重ぇよ…蒼梧太った?」
「……身長だろ?」
(去年から5センチ伸びてるんだっけ?)
「あ、やっぱ楓の眼は綺麗だな。」
俺の前髪を掻き上げて蒼梧は更に距離を縮める。
「あ?」
(男に何言ってやがる?)
確かに俺の瞳は他には無い濃い紫色をしている。この神社に嫁ぐ者の証だとか小さい頃はそれで散々揶揄われても来た。嫁ぐったって、女の場合だろ?それも昔の話だ。今じゃあ由緒ある神社の後ろ盾的な家だって減る一方で、紫の瞳の子供は今や我が家の俺だけだ。
「ど?楓嫁いでくる?」
「………どつき回されたい?」
背丈は蒼梧の方が上。ガタイも上。けど、やる気はこっちが上。
少しだけ青筋立ててギッと睨みつける俺に、蒼梧がたまらず吹き出した。
「くっくっくっ……楓この手の冗談ほんとに嫌いな?」
「わかってるならやるなよな………」
付き合うイコールもしかしたらあの紫の瞳の少女の様になるのかも、と言う不安が拭いきれない俺としては、異性であろうと、同性であろうと付き合う気が起こらないんだって……
蒼梧の顔面を平手で押し返してゴロンと蒼梧のベッドに寝転び直す。蒼梧はそのまま親父さんに聞いてくると部屋を出て行った。
(どうして……)
どうして?
(貴方は、こんな選択しかしないんだ……)
悔しそうな男の声だ……歯を食いしばって、必死で声を押し殺してる。
そっと目を開ければ見覚えのある男の後ろ姿。
あ、いつもの夢だな…
冷静に見てる俺とは明らかに感情の温度差がある男は、やはりその手に血濡れた刀を持っている。いつもと違う夢、今日は事が終わった後の様だった。
(どうして…?なぜ……?まだ、駄目なのか……)
泣きそうな男の声は震えていて、動かない骸をガッチリと抱きしめて、誰も聞く者はいないだろうに、一人呟く。
動かない身体…何を話しかけてもその身体は冷たく何も答えない。自分で触ってもいないのに、それがただの肉の塊の様に感じてくるのがすごく、生々しい。
(もう、いいって……なぁ、あんた…)
つい、夢だとわかるのに声がでる。
(…そんなになるほど、辛いんだろ?もう、止めよう…?)
夢なのだから、現実ではないのだから、ここで楓矢が止めようと声をかけたとしても何も変わりはしないのに。
(うん…もう十分だよ。あんた、よくやったよ…)
少女を切ること…これは決して良いわけじゃないけど、こんな夢はもう懲り懲りだし、この男の苦しそうな姿も見たくなかった。
(なぁ!もう、殺さなくて良いから!!)
だから、止めよう?こんな夢、もう見たくない…!!
(あんたも、幸せになって良いんだよ…)
いつもいつも、苦しそうな声しか出さないこの男についそんなに言葉が出てしまう。
(ゆうら……?)
え………?
男が初めて振り返る。痛ましいほどに顰め憔悴した顔には案の定静かな涙が頬を伝っていた。
この顔…知ってる………?
蒼梧の部屋に行くまでに長い廊下を通っていく。久しぶりの蒼梧の親父さんに声をかけられてしまった。
「あ、こんにちは~お邪魔します!」
「楓くんにみそえちゃん久しぶりだね?今日はゆっくりしていけるのかい?」
「あ、俺はそのつもりです。」
「え~なら、楓泊まっていく?」
「ん~どうしよ?」
「あ、良いなぁ…男子ずるぅ…」
「みそえは暗くなる前に帰れよ?」
ただでさえみそえに何かあったら、多分冗談でなく大変なことになりそうだから。
「ん~もう、わかってるよ!早く遊ぼ?」
「もしかして、みそえはただの時間潰しとか?」
「はあ?蒼梧が寂しがってるから、楓ときたんでしょ?ほら!さっさと行く!」
「なんだ、みそえちゃん。そのまま家に住んじゃえば良いのに。」
ニコニコと悪気はないんだろうけどこの手の話は小さい頃から嫌って言うほど聞いてきたから、兄としては本当にそうなるかは分からないけど、望まぬ事を強制はしたくないわけなんだ。蒼梧の父親も柔和な雰囲気が評判の神主さんでその人柄は俺達兄妹もよく知っている。けど、こう言うのは、当人同士の合意が必要だもんな。
「やっだ~おじ様ったら、私きっとぐうたら嫁になりますよ?おば様のご飯美味しいし、食っちゃ寝しそう。」
「え、みそえそれは最低。」
「え~みそえ料理できるじゃん。」
実際嫁が食っちゃ寝宣言してきたら迎える方は困っちゃうだろう。実際みそえは家事全般できるんだけど。
(みそえ、兄はそんな嫁嫌かも…)
「ふふふ、それでも良いからお嫁においで。」
「蒼梧がそう言うなら考えま~す!」
「え~どうしようかなぁ…」
蒼梧はちょっと嫌そうな顔だ。
「ほら、もう行くぞ!」
一向に終わりそうに無い会話に区切りを付けるように蒼梧の部屋へと雪崩れ込んだ。
蒼梧の部屋でジュースを飲みながら一通りだべって、みそえを送り帰して夕飯を食べて、風呂に入ってまた蒼梧の部屋でくつろぐ。小さい頃から来慣れているこの部屋は非常に居心地がいい。
「よう蒼梧、寂しいのは治まりましたか?」
「あ?別の所が寂しいです。」
「それは違う機会に埋めろよな?」
マリカとの約束をすっぽかしたことを蒼梧はまだ根に持っている様子。
「楓達が急に来るって言い出したんでしょ~?」
「まあ、そうだけどさ。」
「あんまり、楓らしくは無いよね?どした?」
小さい頃ならいざ知らず、物心ついたと言うより、あの夢を見だしてから自分から進んで蒼梧の家、神社には行こうとしなかったから。
「ん~~?」
(ここまで来たら、もののついでか?)
「蒼梧んとこにさぁ…神社の歴史書みたいなのある?」
「家系図?」
「う~ん。違うんだよなぁ。」
「何について知りたいんでしょうね?このお坊ちゃんは?」
ドサッと蒼梧が上に乗って、人の顔の上から覗き込んできた。
「重ぇよ…蒼梧太った?」
「……身長だろ?」
(去年から5センチ伸びてるんだっけ?)
「あ、やっぱ楓の眼は綺麗だな。」
俺の前髪を掻き上げて蒼梧は更に距離を縮める。
「あ?」
(男に何言ってやがる?)
確かに俺の瞳は他には無い濃い紫色をしている。この神社に嫁ぐ者の証だとか小さい頃はそれで散々揶揄われても来た。嫁ぐったって、女の場合だろ?それも昔の話だ。今じゃあ由緒ある神社の後ろ盾的な家だって減る一方で、紫の瞳の子供は今や我が家の俺だけだ。
「ど?楓嫁いでくる?」
「………どつき回されたい?」
背丈は蒼梧の方が上。ガタイも上。けど、やる気はこっちが上。
少しだけ青筋立ててギッと睨みつける俺に、蒼梧がたまらず吹き出した。
「くっくっくっ……楓この手の冗談ほんとに嫌いな?」
「わかってるならやるなよな………」
付き合うイコールもしかしたらあの紫の瞳の少女の様になるのかも、と言う不安が拭いきれない俺としては、異性であろうと、同性であろうと付き合う気が起こらないんだって……
蒼梧の顔面を平手で押し返してゴロンと蒼梧のベッドに寝転び直す。蒼梧はそのまま親父さんに聞いてくると部屋を出て行った。
(どうして……)
どうして?
(貴方は、こんな選択しかしないんだ……)
悔しそうな男の声だ……歯を食いしばって、必死で声を押し殺してる。
そっと目を開ければ見覚えのある男の後ろ姿。
あ、いつもの夢だな…
冷静に見てる俺とは明らかに感情の温度差がある男は、やはりその手に血濡れた刀を持っている。いつもと違う夢、今日は事が終わった後の様だった。
(どうして…?なぜ……?まだ、駄目なのか……)
泣きそうな男の声は震えていて、動かない骸をガッチリと抱きしめて、誰も聞く者はいないだろうに、一人呟く。
動かない身体…何を話しかけてもその身体は冷たく何も答えない。自分で触ってもいないのに、それがただの肉の塊の様に感じてくるのがすごく、生々しい。
(もう、いいって……なぁ、あんた…)
つい、夢だとわかるのに声がでる。
(…そんなになるほど、辛いんだろ?もう、止めよう…?)
夢なのだから、現実ではないのだから、ここで楓矢が止めようと声をかけたとしても何も変わりはしないのに。
(うん…もう十分だよ。あんた、よくやったよ…)
少女を切ること…これは決して良いわけじゃないけど、こんな夢はもう懲り懲りだし、この男の苦しそうな姿も見たくなかった。
(なぁ!もう、殺さなくて良いから!!)
だから、止めよう?こんな夢、もう見たくない…!!
(あんたも、幸せになって良いんだよ…)
いつもいつも、苦しそうな声しか出さないこの男についそんなに言葉が出てしまう。
(ゆうら……?)
え………?
男が初めて振り返る。痛ましいほどに顰め憔悴した顔には案の定静かな涙が頬を伝っていた。
この顔…知ってる………?
15
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
王道学園のモブ
四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。
私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。
そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。
完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる