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 ガタッ……ン…

「はっ……」

 自分の身体の揺れで机を揺らし、その音で目が覚める。寝ぼけた頭で周りを見渡せば、今は昼休みでここはガヤガヤと賑やかな教室の自分の席で、見慣れたいつもの景色だった。

「お~~楓、どしたー?」

 間が伸びたような声をかけてきたのは、同じ私立高校に通う俺の幼馴染の桐矢蒼梧(きりやそうご)。こいつはゲームをしながら目線も上げずに声だけかけてくる。

「…夢、見てた……」

 何だよ、いつもの夢……学校ではほとんど見ないんだけどな……

「なに~昨日寝てねぇの?」

「ん~~あんまり…」

「何?エロゲ?」

「…アホか……」


 大学までエスカレーター式の私立高校2年になる宝利楓矢(ほうりふうや)には悩みがある。成績とか、友情とか、恋愛関係とかのこの年頃特有の青春まっしぐらな健全な悩みでは無い。


(女に関わるものなんて今は胸糞悪くて見たくも無い…)


「アホはないっしょ~?楓だって彼女の1人や2人欲しいだろ?」

 
(嫌、お前の感覚がおかしいんだよ。何だよ、1人や2人って……)

 蒼梧はちょっと女関係で感覚がバグってる奴だ。家は由緒正しき伝統ある神社だっていうのに、本人は見た目も行いもチャラチャラしてる。小さい頃から知っているこっちにとっては、こんな見た目でも気の良い奴なのはよく知ってるんだが、それでも街中で連れ歩く女の子達がいつも違うとか、特定の彼女を作らないとかそんなの聞くと普通の恋愛って何?ってなる。
 所詮は彼女いた事なしだから、俺が知らないのも無理ないんだけど。

「いらねぇ…」

 不貞腐れた様にまたうつ伏せて惰眠を貪ろうとする俺にまだ言い足りないのか今日はしつこい。

「楓も顔は良いんだからな。本気になれば直ぐにでも彼女できるだろうにさ…」

「だから、いらんって……」

 本気で要らない…だからと言って男が好きなわけじゃ無い。ただ、女を今は見たくないだけだ。

「また、夢見が悪かった?」

「……ん……」

 蒼梧にちゃんと話したことすら無いことだが、時折俺は不眠になる。時期とかきっかけとかは定まってないから対処のしようもないんだけど、ある夢を見て夜眠れなくなるからだ。

「パピーに相談する?」

「要らんって……」

 パピーってのは蒼梧の父親で現在の神主。相談事ならさあ御座れって人でいろんな方面の方々から信頼を受けているらしい…が………

 俺は苦手だ…神主してる蒼梧の親父、本当にいい人の一言に尽きる。人の悩み相談を請け負うのだって時には自分の気持ちもキツくなるだろうに、いつもニコニコと相談者の話し相手になってきた人。
 同じくチャラチャラ見える蒼梧も意外と面倒見が良くてお人好し。本人達の中身を知ったら苦手だと言う人の方が居ないんじゃないかと思う位いい人達。

 でも、俺が苦手なのはその人間性じゃない。なんて言うのか、自分達を取り巻いている環境とか、シチュエーションとか偶然とか?俺がいる現在の状況が良くない気がする。
  
 正確にいえば最悪ではない、かな。だって俺は紫の瞳を持って産まれて来たけど、女じゃないって所は一番の幸運だから……






 この地方には古い古い地元に伝わる習わしがある。紫の瞳を持って産まれた女児は神主の嫁に捧げ出す事………

 昔からこの地を守り、栄えさせて来た神社に供物を捧げるのは当たり前のことだったのかもしれない。今日までその神社は残り、その風習も今に残り伝えられているのだからあながち悪いものでなかったのかもしれない。
 その習わしの中心にどっぷりと浸かっていて離れたくても、逃れたくても出来ない様な者達でない限りきっとそれは有難い風習だったんだろう。

 神社と密接な関係を持つ家、宝利家はその筆頭にいる様なものだ。代々昔からこの地に住み、神社を裏で支える家の一つだった。

 神社を支える家となるべく起こる事象、紫の瞳を持つ女児が多く産まれたからだ…


 昔からの風習が現代でどこまで通じるのか知らないが昔の習わしに習ってしまうと、今世で紫の瞳を持って産まれた楓矢が次期神主蒼梧の嫁候補対象になる事になる。


(だから、俺、心から男でよかったわ。いい奴だけど、こんなチャラチャラした奴の嫁になんて絶対になりたくない。浮気も遊びもしまくりだろうしな~あーヤダヤダ……
あ、とするとこいつの元にはみそえ双子の妹が嫁ぐ事になる?それはそれで嫌だぞ、おい……)


「……の、宝利君…?…あの、大丈夫?」

「……?」

 うつ伏せたまま惰眠を貪っている所へ遠慮がちな低い声。

「あの、もしかして具合悪い?」

 ガタイも身長も羨ましいほどに整って、ついでに顔も良いというクラスメートの山手とうきが心配そうに屈んで覗き込んできてた…

「あ?」

「えーと…次現国でしょ?宿題ノート提出する様に言われてるから…」

 山手は俺が体調不良なのかと少しだけ心配そうな目線をメガネ越しに寄越してくる。

「あー大丈夫。単に寝不足なだけだから…」

 差し出すノートを受け取りながらポソリと山手は聞いてくる。

「エロゲ?」

「ふはは…!」

 隣で聞いていた蒼梧がここぞとばかりに笑い出す。

「だから、ちげーって…」

 ただでさえも寝不足とその他の疲労で怠いのに、これ以上付き合ってなんかいられない………









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