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18 覚醒

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 最初に目が覚めた時、そこは真っ暗で……手足は鉛の様に重くて動かないし、身体中に変な物がくっ付いている感覚しか解らなかった。ただ眠くて、眠くて…ここにどうしているのかも解らなかったけど、そのままに目を閉じた……

 また、目が覚めた…まだ、暗い…?ここ、どこ?少し、首を動かして…チリっとした痛みが走った。

 そうだ……首…重い手を動かして、首まで持って来る。触った指先にはガーゼの感触。痛むのが怖くて、それ以上強くは触れなかった。

「羽織……?」

 心配そうな光君の声…?右を向けば、真剣そうな光君の顔…

「光……君…?」

「そうだ、分かるか?」

「うん…ここ…どこ?」

 傷はそんなに痛まないけど、身体が怠くて話すのもしんどい…

「病院だ…覚えてるか?」

 病院?倒れでもした……?や……首の傷は…自分でやったんだ…

 ボヤッとした頭が覚醒するのと同時に、何が起こったか思い出して来た…!

「首……」

 噛まれてない…?上書きされてない…!?

 急に落ち着きがなくなった羽織の手を光生が握る。

「大丈夫だ、首の傷は綺麗に縫ってもらっている。他に身体に傷はなかった!その首の傷も数日後には抜糸で終わりだ。」

 噛まれてない…!?

 安堵にジワッと涙が出て来た…

「他も無事だよ?何も心配する事はない。」

 光生はスルリと羽織の下腹部を撫でる。

 暖かい、手…いつもの羽織が大好きな手…でも今日は少し震えてる?
 
 光生の大丈夫って言葉に更に涙が出た。口に当てられた酸素マスクのせいか光生の匂いがいつもより感じられなくて…不安でしょうがなかった。

「羽織……何が…あった?」

 光君の真剣な顔、深い色をした瞳は今日は少し赤い気がした。手も震えてた……

 光君も、怖かったの…?僕がどうにかなっちゃうと思った?ごめん…ごめんなさい……ごめん………

「ごめん…ごめんね…?心配させて、ごめんなさい…」

 それしか口から出てこなくて…申し訳なくて…自分の夫で主人であるこの人をこんなに苦しめるなんて、自分は馬鹿な事をしたと心から思った。

「いいから!お前が無事だったんだから、目を覚ましたんだからそれで良いから…!」

 抱き締める代わりに、ギュウッと手を握り返してくる、光君。

「もう少し、眠れ?ここにいるから…」

 今日はいつからここに居て、いつもいつまで居たんだろう、と家に残されている他の妻達の心配をしてしまうが光生に言われた様にまた襲ってくる眠気に身を任せた。

 次に目を覚ましたらまた、暗くて、まだ光君の匂いがした。病室の入り口付近に白衣を着た人達…先生?看護師?病院のスタッフに向かって光君が頭を深く下げているのが見えた。

「羽織をどうか、よろしくお願いします。もう少し時間を頂いてこの件を片付けますから、どうか…」

「ちょ、光生さん!困ります…!こんな所お母様にでも見られたら…お叱りを受けてしまいますから…」

「母はもう帰りましたし、父も母と共にしか来ませんので、お願いするならば今だと思っています。」

「分かりました、分かりましたから!もう、頭を上げてください…!」

 光君が頭を下げてる?α性できっとこの病院も光君が経営者になるんでしょう?人の上に立つのが当たり前なのに、なのに…?

「光君…?」

「!……羽織!目が覚めたか?」

「家に、帰ってる?」

 目を覚ますたびに光君いるし…

「泣いてるのか?痛むのか?」

 知らず、涙が溢れてたよ…?光君、必死すぎるでしょ?αなのに、Ωの僕のためにそこまでする?
 ナースコールを押しそうになってる光君の手を止めた。

「もう、痛くないよ。ほら動かせるし、少し起きてもいいのかな?」

「出血が…多かったから少し安静にと。」

「うん、分かった。もう少し寝とく…」

「羽織……」

「……ん?」

「言いたくないかもしれないが、覚えている事があるか?」

「……見たことが無いαの男が三人いた…」

「αの…男?」

 それも羽織は三人と言ったか?ただでさえΩにとってαは時には驚異の対象にもなる。だからΩに対する扱いは慎重を期して行うべきなのに、なのに三人に囲まれたのか?

 いつも冷静な光生の顔に深く眉が寄せられている。

「番を……書き換えられるか…試すって…言われて…」

 笑顔で話せてるかな?あの時の絶望感は、きっとΩにしか分からないと思う…目の前が霞んでるけど、光君許して…

「なんて、事を……」
 
 光生の顔色が悪くなる。番となっている者を強制的に手籠にする事は法律上禁止されている。普通の恋愛とは違い、αとΩの繋がりは精神的にも肉体的にも強固でどちらも依存している場合が多く、強制的に事に及ぶ事で特にΩは精神崩壊を侵しかねない程のダメージを受けることもあるからだ。

「噛み跡は、無かった!」

 光生はハッキリと羽織に告げる。

「うん…知ってる。光君見た時分かったから、大丈夫…」

 いつの間にか光生に握りしめられていた手が、更に握り込まれる。

「一つ罠を仕掛けようと思っているんだが、羽織…やってくれるか?」

「罠…?誰に?」

「未だ分からない犯人にだ……」

 表情一つ変えずにキッパリと言い切った光生を羽織が驚いた様に見つめる。

「身近な…人…?」

 ここに来るのはごく近しい身内のみ……このままここで羽織が手を貸すというのなら、ここに来ている人の中に今回の発端になった人がいるという事で、光生はそれを疑ってる事になる。

「多分………だから…これからそれを確認する。羽織、良いか?」

「それは、光君の?」

 本当は疑いたく無い。みんな親族か家族だし……けど、光君の命令なら…喜んで………
 僕は君の番だから……
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