上 下
92 / 112

93、初遺跡 4

しおりを挟む
「随分と遅かった様だが?」

 チクリとヒュンダルンは棘を指す。ライーズ副書紀官長がもっと早くに来ていれば、ウリートは自警団員に絡まれなくて済んだのにと…

「申し訳ありません。後で報告にあがるとおもいますが、昨日窃盗に入られた様でして…その確認作業を優先してしまいました…」

「窃盗?」

 アランドが食いついてきた。

「はい。アクロース第3騎士団長。」

「盗まれたものは?」

「大した物では…と言いたい所ですが、昨日出土したのは、小さめの装飾品の類ですね。土まみれですけれどもかなり状態も良く、宝石類も欠けずに残ったままでしたし…」

「知っている者は?」

 その場からアランドに誘導されて遺跡の中に入っていく。見学がてら、状況を把握しようと言うつもりらしい。

「昨日遺跡にいた者達は知っているのではないでしょうか?形としては綺麗に残っていたものですから、かなり騒ぎになっていましたし。」

「昨日の入場者を全てリストアップしておく様に、騎士から自警団員に至るまで全てだ。」

 アランドは側近の騎士に指示を出す。大きな破損もなく残っていた物ならばその価値たるや想像が出来ないほどのものになる事もあり得る。ただの小銭欲しさで売り払われでもしたら、発掘作業員達はどれほど嘆くだろうか。

「小賢しいな…だが、捨てて置けない。ウリー悪いが私はこの場の指揮に戻る。ヒュンダルンは警備担当なのでこのまま一緒にいてもらいなさい。」

「了解だ。ライーズ副書紀官長殿、窃盗に気がついたのは?」

 キリッと引き締まったヒュンダルンの顔が働く騎士の顔になる。

 格好いい………

 などと思っていても、顔に出してはいけないだろう。

「それがつい先程…私が掘り当てた現場にもいましたので保管にも関わっておりましたから。アクロース侯爵子息様がこちらに来られるまでに昨日出土した物の確認をしようと思いまして、盗難に気がついた次第です。」

 見せてくださろうとしたのですね? 

「なるほど…では、その発掘に関わった者で保管方法を知っていた者達をまずは重要参考人とするか……」

「そう、なるでしょうね?」

 犯人の目星がつくのだというのに、何故だかライーズ副書紀官長の顔色はよろしく無い。そしてヒュンダルンも凛々しいというより、怖いほど硬い表情をしている。

「ヒュン?」

 なんだか周囲に緊張感が………

「あ、ご安心ください。アクロース侯爵子息様。あくまでも参考人と言う域からでないでしょうし、直ぐに釈放されると思いますから。」

「え?ライーズ副書紀官長様?」

 何が?

「………ライーズ副書紀官長を、拘束せよ。」

「!?」

 ヒュンダルンから聞き間違えだと思いたい様な命令が部下の騎士達に飛ぶ。

「ヒュン!!」

 ビックリして、ウリートは目の前で起こっている拘束劇を黙って見ているなんて出来なかった。

「ヒュン!どう言うことです!?ヒュン!!」

 どうしてライーズ副書紀官長様が?

「アクロース侯爵子息様。致し方ないのです。あの出土品に一番近かった者の一人が私ですからね?私の疑いが晴れるまでは拘束されても仕方ないのです。」

 犯人が分からない以上、重要参考人という事になるのだそうだ。

 だけれども…

 ヒュンダルンを見つめると、断固たる決意のもと、ヒュンダルンは自分の職務を遂行しているに過ぎない。その決意と覇気がありありとウリートにでさえも手にとる様にわかるのだ。

「…………」

「感謝します。アクロース侯爵子息様。ここで騒ぎを起こしてはますます私も疑われる事になりますので…賢明なご判断ですよ?」

 少し困った様に微笑みながらライーズ副書紀官長は連行されて行く。

 ギュウッと知らず知らずウリートはヒュンダルンの制服を握りしめていた。

「大丈夫だ、ウリー。腹立たしくても一晩位で出てくるだろう。全く、こんな日に窃盗が見つからなくても良かっただろうに…」

 ウリートの柔らかな髪を撫でながらヒュンダルンは軽い口調でそう言ってくれる。
 
 ライーズ副書紀官長は庶民の出だ。貴族家ではないはずで…何かあれば後ろ盾となる者達がいないのでは……

「副書紀官長は優秀な男だ。国にとっても失うのは損失が大きい。この様な事はまあまあ起こるものだ…………幻滅したか………?」

 先程まで雄々しく指示を出していたヒュンダルンが、少し弱音を吐く…目の前でウリーの友人であるライーズ副書紀官長を捕まえろと命令を出したのだから…

「………いえ…」

「それは良かった。ウリー、俺は騎士団長だ。今後…お前を傷つける事があるかも知れない……」

 許せよ、とヒュンは言わない。ちゃんとそれだけの覚悟をしているから……

「いいえ、今日の事は僕の心が甘かったのです。何もないとライーズ副書紀官長様を信じていますが…こんな事は初めてでしたし、動揺してしまいました………」

「分かっている。お前に見せて、すまなかった…」

 落ち着こうと目を瞑るウリートにヒュンダルンは優しく温かなキスを送る。大丈夫だと、慰めてくれている様なキスを…
















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

転移したら獣人たちに溺愛されました。

なの
BL
本編第一章完結、第二章へと物語は突入いたします。これからも応援よろしくお願いいたします。 気がついたら僕は知らない場所にいた。 両親を亡くし、引き取られた家では虐められていた1人の少年ノアが転移させられたのは、もふもふの耳としっぽがある人型獣人の世界。 この世界は毎日が楽しかった。うさぎ族のお友達もできた。狼獣人の王子様は僕よりも大きくて抱きしめてくれる大きな手はとっても温かくて幸せだ。 可哀想な境遇だったノアがカイルの運命の子として転移され、その仲間たちと溺愛するカイルの甘々ぶりの物語。 知り合った当初は7歳のノアと24歳のカイルの17歳差カップルです。 年齢的なこともあるので、当分R18はない予定です。 初めて書いた異世界の世界です。ノロノロ更新ですが楽しんで読んでいただけるように頑張ります。みなさま応援よろしくお願いいたします。 表紙は@Urenattoさんが描いてくれました。

処理中です...