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93、初遺跡 4
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「随分と遅かった様だが?」
チクリとヒュンダルンは棘を指す。ライーズ副書紀官長がもっと早くに来ていれば、ウリートは自警団員に絡まれなくて済んだのにと…
「申し訳ありません。後で報告にあがるとおもいますが、昨日窃盗に入られた様でして…その確認作業を優先してしまいました…」
「窃盗?」
アランドが食いついてきた。
「はい。アクロース第3騎士団長。」
「盗まれたものは?」
「大した物では…と言いたい所ですが、昨日出土したのは、小さめの装飾品の類ですね。土まみれですけれどもかなり状態も良く、宝石類も欠けずに残ったままでしたし…」
「知っている者は?」
その場からアランドに誘導されて遺跡の中に入っていく。見学がてら、状況を把握しようと言うつもりらしい。
「昨日遺跡にいた者達は知っているのではないでしょうか?形としては綺麗に残っていたものですから、かなり騒ぎになっていましたし。」
「昨日の入場者を全てリストアップしておく様に、騎士から自警団員に至るまで全てだ。」
アランドは側近の騎士に指示を出す。大きな破損もなく残っていた物ならばその価値たるや想像が出来ないほどのものになる事もあり得る。ただの小銭欲しさで売り払われでもしたら、発掘作業員達はどれほど嘆くだろうか。
「小賢しいな…だが、捨てて置けない。ウリー悪いが私はこの場の指揮に戻る。ヒュンダルンは警備担当なのでこのまま一緒にいてもらいなさい。」
「了解だ。ライーズ副書紀官長殿、窃盗に気がついたのは?」
キリッと引き締まったヒュンダルンの顔が働く騎士の顔になる。
格好いい………
などと思っていても、顔に出してはいけないだろう。
「それがつい先程…私が掘り当てた現場にもいましたので保管にも関わっておりましたから。アクロース侯爵子息様がこちらに来られるまでに昨日出土した物の確認をしようと思いまして、盗難に気がついた次第です。」
見せてくださろうとしたのですね?
「なるほど…では、その発掘に関わった者で保管方法を知っていた者達をまずは重要参考人とするか……」
「そう、なるでしょうね?」
犯人の目星がつくのだというのに、何故だかライーズ副書紀官長の顔色はよろしく無い。そしてヒュンダルンも凛々しいというより、怖いほど硬い表情をしている。
「ヒュン?」
なんだか周囲に緊張感が………
「あ、ご安心ください。アクロース侯爵子息様。あくまでも参考人と言う域からでないでしょうし、直ぐに釈放されると思いますから。」
「え?ライーズ副書紀官長様?」
何が?
「………ライーズ副書紀官長を、拘束せよ。」
「!?」
ヒュンダルンから聞き間違えだと思いたい様な命令が部下の騎士達に飛ぶ。
「ヒュン!!」
ビックリして、ウリートは目の前で起こっている拘束劇を黙って見ているなんて出来なかった。
「ヒュン!どう言うことです!?ヒュン!!」
どうしてライーズ副書紀官長様が?
「アクロース侯爵子息様。致し方ないのです。あの出土品に一番近かった者の一人が私ですからね?私の疑いが晴れるまでは拘束されても仕方ないのです。」
犯人が分からない以上、重要参考人という事になるのだそうだ。
だけれども…
ヒュンダルンを見つめると、断固たる決意のもと、ヒュンダルンは自分の職務を遂行しているに過ぎない。その決意と覇気がありありとウリートにでさえも手にとる様にわかるのだ。
「…………」
「感謝します。アクロース侯爵子息様。ここで騒ぎを起こしてはますます私も疑われる事になりますので…賢明なご判断ですよ?」
少し困った様に微笑みながらライーズ副書紀官長は連行されて行く。
ギュウッと知らず知らずウリートはヒュンダルンの制服を握りしめていた。
「大丈夫だ、ウリー。腹立たしくても一晩位で出てくるだろう。全く、こんな日に窃盗が見つからなくても良かっただろうに…」
ウリートの柔らかな髪を撫でながらヒュンダルンは軽い口調でそう言ってくれる。
ライーズ副書紀官長は庶民の出だ。貴族家ではないはずで…何かあれば後ろ盾となる者達がいないのでは……
「副書紀官長は優秀な男だ。国にとっても失うのは損失が大きい。この様な事はまあまあ起こるものだ…………幻滅したか………?」
先程まで雄々しく指示を出していたヒュンダルンが、少し弱音を吐く…目の前でウリーの友人であるライーズ副書紀官長を捕まえろと命令を出したのだから…
「………いえ…」
「それは良かった。ウリー、俺は騎士団長だ。今後…お前を傷つける事があるかも知れない……」
許せよ、とヒュンは言わない。ちゃんとそれだけの覚悟をしているから……
「いいえ、今日の事は僕の心が甘かったのです。何もないとライーズ副書紀官長様を信じていますが…こんな事は初めてでしたし、動揺してしまいました………」
「分かっている。お前に見せて、すまなかった…」
落ち着こうと目を瞑るウリートにヒュンダルンは優しく温かなキスを送る。大丈夫だと、慰めてくれている様なキスを…
チクリとヒュンダルンは棘を指す。ライーズ副書紀官長がもっと早くに来ていれば、ウリートは自警団員に絡まれなくて済んだのにと…
「申し訳ありません。後で報告にあがるとおもいますが、昨日窃盗に入られた様でして…その確認作業を優先してしまいました…」
「窃盗?」
アランドが食いついてきた。
「はい。アクロース第3騎士団長。」
「盗まれたものは?」
「大した物では…と言いたい所ですが、昨日出土したのは、小さめの装飾品の類ですね。土まみれですけれどもかなり状態も良く、宝石類も欠けずに残ったままでしたし…」
「知っている者は?」
その場からアランドに誘導されて遺跡の中に入っていく。見学がてら、状況を把握しようと言うつもりらしい。
「昨日遺跡にいた者達は知っているのではないでしょうか?形としては綺麗に残っていたものですから、かなり騒ぎになっていましたし。」
「昨日の入場者を全てリストアップしておく様に、騎士から自警団員に至るまで全てだ。」
アランドは側近の騎士に指示を出す。大きな破損もなく残っていた物ならばその価値たるや想像が出来ないほどのものになる事もあり得る。ただの小銭欲しさで売り払われでもしたら、発掘作業員達はどれほど嘆くだろうか。
「小賢しいな…だが、捨てて置けない。ウリー悪いが私はこの場の指揮に戻る。ヒュンダルンは警備担当なのでこのまま一緒にいてもらいなさい。」
「了解だ。ライーズ副書紀官長殿、窃盗に気がついたのは?」
キリッと引き締まったヒュンダルンの顔が働く騎士の顔になる。
格好いい………
などと思っていても、顔に出してはいけないだろう。
「それがつい先程…私が掘り当てた現場にもいましたので保管にも関わっておりましたから。アクロース侯爵子息様がこちらに来られるまでに昨日出土した物の確認をしようと思いまして、盗難に気がついた次第です。」
見せてくださろうとしたのですね?
「なるほど…では、その発掘に関わった者で保管方法を知っていた者達をまずは重要参考人とするか……」
「そう、なるでしょうね?」
犯人の目星がつくのだというのに、何故だかライーズ副書紀官長の顔色はよろしく無い。そしてヒュンダルンも凛々しいというより、怖いほど硬い表情をしている。
「ヒュン?」
なんだか周囲に緊張感が………
「あ、ご安心ください。アクロース侯爵子息様。あくまでも参考人と言う域からでないでしょうし、直ぐに釈放されると思いますから。」
「え?ライーズ副書紀官長様?」
何が?
「………ライーズ副書紀官長を、拘束せよ。」
「!?」
ヒュンダルンから聞き間違えだと思いたい様な命令が部下の騎士達に飛ぶ。
「ヒュン!!」
ビックリして、ウリートは目の前で起こっている拘束劇を黙って見ているなんて出来なかった。
「ヒュン!どう言うことです!?ヒュン!!」
どうしてライーズ副書紀官長様が?
「アクロース侯爵子息様。致し方ないのです。あの出土品に一番近かった者の一人が私ですからね?私の疑いが晴れるまでは拘束されても仕方ないのです。」
犯人が分からない以上、重要参考人という事になるのだそうだ。
だけれども…
ヒュンダルンを見つめると、断固たる決意のもと、ヒュンダルンは自分の職務を遂行しているに過ぎない。その決意と覇気がありありとウリートにでさえも手にとる様にわかるのだ。
「…………」
「感謝します。アクロース侯爵子息様。ここで騒ぎを起こしてはますます私も疑われる事になりますので…賢明なご判断ですよ?」
少し困った様に微笑みながらライーズ副書紀官長は連行されて行く。
ギュウッと知らず知らずウリートはヒュンダルンの制服を握りしめていた。
「大丈夫だ、ウリー。腹立たしくても一晩位で出てくるだろう。全く、こんな日に窃盗が見つからなくても良かっただろうに…」
ウリートの柔らかな髪を撫でながらヒュンダルンは軽い口調でそう言ってくれる。
ライーズ副書紀官長は庶民の出だ。貴族家ではないはずで…何かあれば後ろ盾となる者達がいないのでは……
「副書紀官長は優秀な男だ。国にとっても失うのは損失が大きい。この様な事はまあまあ起こるものだ…………幻滅したか………?」
先程まで雄々しく指示を出していたヒュンダルンが、少し弱音を吐く…目の前でウリーの友人であるライーズ副書紀官長を捕まえろと命令を出したのだから…
「………いえ…」
「それは良かった。ウリー、俺は騎士団長だ。今後…お前を傷つける事があるかも知れない……」
許せよ、とヒュンは言わない。ちゃんとそれだけの覚悟をしているから……
「いいえ、今日の事は僕の心が甘かったのです。何もないとライーズ副書紀官長様を信じていますが…こんな事は初めてでしたし、動揺してしまいました………」
「分かっている。お前に見せて、すまなかった…」
落ち着こうと目を瞑るウリートにヒュンダルンは優しく温かなキスを送る。大丈夫だと、慰めてくれている様なキスを…
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