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84、約束 1

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 もう、多分心の中では降参している。あの瞳で見つめられ、可愛らしく自分の為に身を立てたいと言われて、断れる男がいるならば見てみたい。

 本当に、見てみたい…………








「宜しかったですね?ウリート様。」

「うん!」

 喧嘩していたはずなのに何故かあの後ヒュダルンの快諾があって、今王城に向かう馬車の中だ。いきなり遺跡を見せろとはかなりの職権濫用だろうと、ヒュンダルンは一筆認めてくれ、それを担当官に渡してくれたのだった。その後に日程調整をして、本日は遺跡調査の担当者と共に面会をする予定であった。

 古語の勉学に深みをつける為に発掘現場を見てみたい。いずれはこれから教えていくであろう若い生徒達に、夢と希望を与えられたら…

 夢も希望もなく、ただベッドの中で空を見つめ、星空を見つめ、苦しい呼吸を整えるのに必死だった幼い日々が、ウリートの目の前にパァ…っと広がっていく。当時と比べたら、今が何と素晴らしい事か…生きている事に、学び続けられる事、それもやりたい事を追いもとめられる喜びと、心から人を愛する奇跡の様な体験もして………
愛する人の隣を歩む事を許してもらえた……

 チラリ…と横を向けば、ヒュンダルンは目を瞑ったままじっと座って、今日もウリートと共に王城の面会に付き添ってくれると言うのだ。

 ヒュン、感謝してます、心から……

 ヒュンダルンに会わず、エーベ家で療養させてもらっていなかったら、もしかしたら、もう息は無かったかもしれないのだから。

 ジッと、ヒュンの陽に焼けた小麦色の肌と整った顔立ち、陽に当たってキラキラと光る赤茶の髪を見てると、胸がキュウッとなる程愛しさが湧き上がってくる。この胸の苦しさは病気の時の物より甘い…甘くていつ迄でも感じてしまいたくなる…

 こっちを、見てくれないかな?

 毎日、毎日、もう見飽きたって言うくらいヒュンの深い緑色の瞳を見てるのに…見つめられるのは少し照れるけれど、見てもらえないのは寂しいなんて…どんどん、我儘になっていくみたいで、自分に呆れるけれど…

「どうした?ウリー?」

 休んでいるんだろうと思っていたヒュンダルンにはウリートが見つめている事がわかっている様で、逆に声をかけられてしまった。

 ゆっくり開けた瞳で見つめ返してくれる…

「…愛してます、ヒュン…」

 素直に、本当に素直に言葉が出てくる。押し止めようとすると、多分苦しくなるだろうから、伝えた方が楽だと思う。

 そっと、ヒュンダルンの耳に触る…そこにはウリートの色を模したイヤーカフが光っていて…

 あぁ、この人は自分のものだって…物凄い優越感と、安心感と、愛しさと…

「どうしましょう?胸が破裂するかも…」

 愛してる以外、なんて言ったら良いのか分からず思わず苦笑してしまった…

「………ウリー…どうして、こんな所馬車の中でそんな事を言うんだ……」

 物凄く、ヒュンが険しい顔になってしまった…胸の内を吐露すべき場所は選んだほうが良いのですね?

「俺だって、愛しているよ、心から……」

 でも直ぐに優しい笑顔でそう言って、優しいキスを降らせてくれた…

 嬉しい…こんなにも心が満ちる………

「あぁ、くそっ…!馬車の中じゃ無かったら…!王城行きなんて、やめておけば良かった…書簡でやり取りする事だって可能なのに…失敗した…!」

 ギュムゥッとウリートを抱きしめながら、ヒュンダルンはブツブツと独りごちる。

 そう、ここは馬車の中でした…目の前には目を瞑り、何も聞こえない、聞いていない風のマリエッテが座っておりました……

「ご、ごめんなさい!変な事を言いました!」

 マリエッテが聞いていたと思ったら急に顔中に熱が集まってきて、今、真っ赤になっていると思う…………

「聞いておりません。」

 聞いてるじゃないか!

「見てもおりませんから。」

 だから、聞こえてるじゃない!

 ウリートは自分の行動が本当に信じられない。

 なんだろう、ヒュンしか見てない、見えていない、そんな感覚に少し怖くなる。

「………ウリー、約束、覚えているな?」

「はい、勿論です。」

 王城に行く前にヒュンと約束した事がある。遺跡発掘現場に入る時、また多くの人々と関わりになるだろう事は目に見えている。それは致し方ないのだが、関係なく、しつこく、ウリートの気持ちも考えないで寄ってくる者達には遠慮はいらない、という事だった。現場が現場なので、必ず護衛が付くが、不躾な輩達はどんな身分でもどの様な理由があっても全てこの護衛や憲兵に差し出してしまえというのだ。その後の事は如何様にもできるから心配しないでいい、と言うのだから、ヒュンは随分と心配性ですね?



















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