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79、私の可愛い弟 1
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私の弟達はとても可愛い…可愛くて可愛くて、幼い頃から離れ難かったのを覚えている。
けれど直ぐ下の弟ウリートは何度も何度も生死を彷徨い、この世から離れて行こうとしていた。死というものをまだ良く理解できない弟達より、私は深く死を実感し離れて行こうとする恐怖を体験していた。
だから、私は弟を自分の物とする事に決めたのだ。
私が7つの時にウリートが産まれた。しかし、それまでの日は喜ばしいことばかりではなかった。
「とても弱い心音です…もしかすると、胎内で心臓が止まるかもしれません…」
何度か赤子を見にきている医師はある日母上にそう告げた。産まれ出る前に死んでしまうかもしれない…両親はそれを聞くと途端に顔色を無くし、母上は何日も泣いていた様に思う。
けれど、ウリーは頑張って産まれてきてくれた…産声こそ弱々しかったけれども、生きていて暖かく、母上の乳を強請って可愛らしく泣いていた。
ウリーは本当に可愛らしい顔立ちで、赤子の頃から家族や叔母上、使用人の心を掴んだ。けれど、何度も何度も熱を出し、その度に両親や使用人はウリーにかかりきりになった。寂しくなかったわけではない、幼い私だって寂しかった。けれども、寂しくてこっそり夜中に忍び込んだ母上の部屋で、母上が一人泣いているのを見ると、自分の寂しさなんて小さく見えた。
ウリーの体調は変わらぬまま、数年後にセージュが産まれた。ウリーの時とは違い逞しい子で、産声も力強く、抱っこした時点で蹴飛ばされる様な暴れん坊で…ミルクの匂いがして、柔らかくて…ウリーとはまた違う可愛さで、可愛くて仕方がなかった。
私の勉学が本格的に始まる頃、体調が良ければ、ウリーを連れて、よちよち歩きのセージュも一緒に、お散歩したり、広い庭で寝転んでおやつを食べたり、一緒に本を読んだり、ウリーの負担にならない様な遊びは兄弟皆んなで一通り出来たのではないかと思う。
楽しい時には楽しいけれど、一度ウリーが体調を崩すと、あっという間にその幸せは崩れてしまう物だといつも知らされる。
何度、今日が山場です、と聞いた事か…
どれだけ祈ったかわからない。泣き崩れる母上に抱きしめられて、自分は強くならなければと、何度も何度も自分に言い聞かせてきた。当時、ウリーにかかりきりになる両親と、使用人にセージュと共に放って置かれる事もしばしばで、寂しかったのも確かに覚えている。けれど、ウリーの部屋に見舞いに入るとウリーが薄らと目を開けて、私を見つけては微笑むのだ。まだ本を読めないセージュも側に来て、あの暴れん坊が大人しく絵の挿絵をじっと見つめている。ウリーと居たかったからだろうが、私だって同じだ。
自分が一番苦しいだろうに、私や、セージュを見つけては声も出せないのに、嬉しそうにただ笑う…まだきっと死というものを理解していないだろうその笑顔が、あまりにも儚くて、消えてしまいそうで、死ぬ、という事が現実に押し寄せてきて、物凄く、怖かった。
守らなければ、泣き崩れる母上の代わりに、立派にウリーや未だ寂しくて両親や私の後をひっきりなしに追いかけてくるセージュを守れる様な兄でありたい。
もし、もし……ウリーが天に召されるとしても、兄上は立派な方でしたとウリーに言われる兄でありたい。
私は不平不満を一切言わなくなった。寂しがるセージュの面倒も積極的に請け負った。だからどんどん私に懐くセージュが、他の者達によりいい笑顔で笑いかけてくれる姿が、本当に可愛くて仕方がなかった。
セージュはきっとウリーにかかりきりになる両親よりもずっと私と一緒の時間を過ごしている。
おおきくなったら、にいたまのおよめさんになる!
と、一緒に寝ていたある晩言ってくれた言葉に、不意に心を打たれてしまって、泣いてしまった。
「それって、大人になってもずっとって事だよ?セージュ……」
「うん、いーよ!」
自分よりまだまだ小さなセージュ…ほっぺたなんかフクフク、プニプニでマショマロでも隠しているのではないかと思うくらいに柔らかなセージュ…もう、ミルクの匂いはしないけど、シャボンと、暴れていたセージュの汗の匂いかな?大きく元気に育っている事がよく分かるセージュ…
だから、私は縋ってしまったのだ…いつ、失われるかもわからない、ウリーに対する喪失感を、セージュを抱きしめる事でいつもいつも、埋めていた様に思う。
大丈夫、一人じゃない、大丈夫、セージュがいてくれる…だから、ウリーにまだ素晴らしい兄上を見せてあげられると…
けれど直ぐ下の弟ウリートは何度も何度も生死を彷徨い、この世から離れて行こうとしていた。死というものをまだ良く理解できない弟達より、私は深く死を実感し離れて行こうとする恐怖を体験していた。
だから、私は弟を自分の物とする事に決めたのだ。
私が7つの時にウリートが産まれた。しかし、それまでの日は喜ばしいことばかりではなかった。
「とても弱い心音です…もしかすると、胎内で心臓が止まるかもしれません…」
何度か赤子を見にきている医師はある日母上にそう告げた。産まれ出る前に死んでしまうかもしれない…両親はそれを聞くと途端に顔色を無くし、母上は何日も泣いていた様に思う。
けれど、ウリーは頑張って産まれてきてくれた…産声こそ弱々しかったけれども、生きていて暖かく、母上の乳を強請って可愛らしく泣いていた。
ウリーは本当に可愛らしい顔立ちで、赤子の頃から家族や叔母上、使用人の心を掴んだ。けれど、何度も何度も熱を出し、その度に両親や使用人はウリーにかかりきりになった。寂しくなかったわけではない、幼い私だって寂しかった。けれども、寂しくてこっそり夜中に忍び込んだ母上の部屋で、母上が一人泣いているのを見ると、自分の寂しさなんて小さく見えた。
ウリーの体調は変わらぬまま、数年後にセージュが産まれた。ウリーの時とは違い逞しい子で、産声も力強く、抱っこした時点で蹴飛ばされる様な暴れん坊で…ミルクの匂いがして、柔らかくて…ウリーとはまた違う可愛さで、可愛くて仕方がなかった。
私の勉学が本格的に始まる頃、体調が良ければ、ウリーを連れて、よちよち歩きのセージュも一緒に、お散歩したり、広い庭で寝転んでおやつを食べたり、一緒に本を読んだり、ウリーの負担にならない様な遊びは兄弟皆んなで一通り出来たのではないかと思う。
楽しい時には楽しいけれど、一度ウリーが体調を崩すと、あっという間にその幸せは崩れてしまう物だといつも知らされる。
何度、今日が山場です、と聞いた事か…
どれだけ祈ったかわからない。泣き崩れる母上に抱きしめられて、自分は強くならなければと、何度も何度も自分に言い聞かせてきた。当時、ウリーにかかりきりになる両親と、使用人にセージュと共に放って置かれる事もしばしばで、寂しかったのも確かに覚えている。けれど、ウリーの部屋に見舞いに入るとウリーが薄らと目を開けて、私を見つけては微笑むのだ。まだ本を読めないセージュも側に来て、あの暴れん坊が大人しく絵の挿絵をじっと見つめている。ウリーと居たかったからだろうが、私だって同じだ。
自分が一番苦しいだろうに、私や、セージュを見つけては声も出せないのに、嬉しそうにただ笑う…まだきっと死というものを理解していないだろうその笑顔が、あまりにも儚くて、消えてしまいそうで、死ぬ、という事が現実に押し寄せてきて、物凄く、怖かった。
守らなければ、泣き崩れる母上の代わりに、立派にウリーや未だ寂しくて両親や私の後をひっきりなしに追いかけてくるセージュを守れる様な兄でありたい。
もし、もし……ウリーが天に召されるとしても、兄上は立派な方でしたとウリーに言われる兄でありたい。
私は不平不満を一切言わなくなった。寂しがるセージュの面倒も積極的に請け負った。だからどんどん私に懐くセージュが、他の者達によりいい笑顔で笑いかけてくれる姿が、本当に可愛くて仕方がなかった。
セージュはきっとウリーにかかりきりになる両親よりもずっと私と一緒の時間を過ごしている。
おおきくなったら、にいたまのおよめさんになる!
と、一緒に寝ていたある晩言ってくれた言葉に、不意に心を打たれてしまって、泣いてしまった。
「それって、大人になってもずっとって事だよ?セージュ……」
「うん、いーよ!」
自分よりまだまだ小さなセージュ…ほっぺたなんかフクフク、プニプニでマショマロでも隠しているのではないかと思うくらいに柔らかなセージュ…もう、ミルクの匂いはしないけど、シャボンと、暴れていたセージュの汗の匂いかな?大きく元気に育っている事がよく分かるセージュ…
だから、私は縋ってしまったのだ…いつ、失われるかもわからない、ウリーに対する喪失感を、セージュを抱きしめる事でいつもいつも、埋めていた様に思う。
大丈夫、一人じゃない、大丈夫、セージュがいてくれる…だから、ウリーにまだ素晴らしい兄上を見せてあげられると…
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