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65、自分の気持ち 1

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「ウリート様!しっかりとなさいませ!ご婚約者の件、このマリエッテはお聞きした事もございません!ゴーリッシュ騎士団長様がそう仰ったのですか?」

「だって、とても楽しそうで…お二人はお似合いだった…」

 だから本来の婚約者同士はああいうものだと、ヒュンダルン様の普段を知っている騎士もそう言っていたし……

「ウリート様……婚約と言うものは似合いかどうかで決めるものではありませんでしょう?それに…」

 知っている…貴族は政略結婚が主だ。

「ゴーリッシュ騎士団長様がそんな事納得なさる筈が無いんです。はぁぁぁ…ウリート様…良いですか……?」

 マリエッテは大きなため息を吐き切った後、正面からしっかりとウリートの目を見つめて聞いてくる。

「マリエッテが質問いたします。正直にお答えくださいませ?」

「う、うん。」

「ゴーリッシュ騎士団長様のご婚約を祝ってあげられないと、喜べないとおっしゃいましたね?」

「うん…」

「婚約される方全員、妬ましく羨ましいからですか?」

「……違う、と思う……」

「大切なウリート様の心が捻くれていなくてよろしゅうございました…では、ゴーリッシュ騎士団長様が、何方かの婚約者になる事がお嫌なのでございますね?」

 ズキズキ、ズクズク胸の奥が痛む様な気がする…

「マリエッテ…ここが痛い………」

 ヒュンダルン様と誰かが一緒にいる所を見るだけで、痛くて、苦しい……

「……身体にも病はございますでしょう?ウリート様、心にも病がございますのよ?」

 マリエッテは優しく諭す様にウリートに伝えた。

「それを世間では、恋の病と申します。特効薬などございません。それを落ち着けるには、苦しくなるお相手に正直にお話になる事だと、マリエッテは考えます。」

 恋の……病……?僕が、ヒュンダルン様に!?

「だって…!…友人って…僕、友人って言ってて…!」

「しっかりなさって下さいませ!ウリート様!アクロース侯爵家を出て、ご結婚されるご覚悟がおありだったのでしょう?ならばそれが恋愛だったとしても問題無い事ですわ。世の中には友人から恋人にだってなる人々もいますもの。変な事ではありません。」

「そ、そうかもしれない…けれど、それはヒュンダルン様がどう思っているか…だって、友人だって……」

「ですから、正直にゴーリッシュ騎士団長様にお話くださいと、マリエッテは申し上げました。ウリート様…ゴーリッシュ騎士団長様は人の心を無碍になさるお方だと思われますか?」

 それも、他でもないウリート様の本心を…

 ヒュンダルンはウリートに優しかった…初めての友人に浮かれていたけれども、本当に、色々心を砕いてくれて側に居ようと、寄り添ってくれていた。
 きっとどんな話であっても、ウリートの話ならば真剣に聞いてくれるだろう事が分かってしまうほどに、向き合ってくれる人だ…
 
「マリエッテ……どうし、よう…?」

 産まれて初めて気が付いてしまった、自分の心に……心も頭もグルグルする………

「踏ん張って下さいませね…ウリート様…これも代わって差し上げる事ができませんの…大丈夫ですから、お話ししてみましょう?ね?」

 もう、頭が沸騰しそうだ。鏡を見なくてもきっと真っ赤になっているのだろう顔を両手で隠して、必死に落ち着こうと深呼吸する。

 コンコンコン!

「マリエッテ!ウリートはどうだ?」

 言付けをが終わって引き返してきたヒュンダルンが馬車に戻ってきたのだ。

 ビックゥゥ!!

 面白いほどにウリートは反応している。

「ウリート様、開けますよ?」

 フルフルフルフル、首を振って涙目になって今は駄目だと一心不乱に伝えているウリートの心情もわかるのだが、これはエーベ公爵家の馬車である。そしてその馬車の外で待ちぼうけを喰らわされようとしているのはその家の高位貴族…心の中で土下座でウリートに謝ってマリエッテは静かに馬車の戸を開ける。

「ウリート!」

 マリエッテの開けたドアからヒュンダルンは急いで乗車してきた。

「具合が悪いのか!?」

 ただ今は顔を見られたくなくて蹲っているだけなのだが、ヒュンダルンは直ぐにウリートを抱き起こしてウリートの顔を見た瞬間に、逸早く屋敷に帰る様にと御者に命令したのである。

「ゴーリッシュ騎士団長様?」

「熱がある…我慢するなとあれ程言っているのに…」
 
 違う理由で赤面していたウリートだが、どうやら熱くなってしまった所は顔面だけでは無かった様で…本当に発熱しているのだった。

「苦しくは無いか?」

 真面にヒュンダルンの顔が見れないウリートはただヒュンダルンの腕の中でコクコクと頷く。

「ウリート様…!」

 ここ最近体調が良かった事への油断と自分を責め、先程あったことからもマリエッテは不安顔である。

「邸に着いたら直ぐに医官を呼ぶ様に!」

 自分のことの様にウリートの心配をするヒュンダルンは、ウリートをそのまま横抱きにして馬車をエーベ公爵邸へと急ぎ向かわせた。

 だから馬車の足元に、装飾の綺麗な見慣れない箱が置いてあったとしても、その事に誰も気にもしなかった…














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