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62、嫉妬 2

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「あの………もしかして、ですけれど……」

「はい…」

「貴方様は、あの、書庫の妖精と、言われていた方では?」

「はい……」

「うわぁ!やっぱり!貴方のお噂も聞いております!あの、自分はエリックと申しまして!あの、エリーとお呼びください!」

 初対面のウリートの手を握りしめる勢いで若い騎士エリックは話し始めた。城内で噂されていた書庫の妖精と目の前で会話する事ができたなんて、仲間に自慢し放題だと、エリックはすっかりと浮かれてしまっていた。



 
 ウリートの視線の先にはヒュンダルンと並ぶ1人の綺麗な令嬢がいた。クリーム色の髪が陽に反射してキラキラと輝いていて、ウリートが持っていない美しさを持っている令嬢だ。顔の造形は見えないけれども、時々口元に手を当てて笑っているんだと言うことは良くわかった。

 談笑する事などよくある事だろう?だって、ここは王城で貴族ならば誰でも国王のために馳せ参じる義務があるのだから…だから………


「あの!書庫の妖精様!あの、是非とも、是非とも、お名前を!!」

 グイッと引かれる感覚があって、ウリートは我に帰る。

「あ…!」

 体制が崩れたのでここからはもう令嬢の姿は見えないけれども、まだ立ち話をしているのだろうヒュンダルンの姿は見て取れた。

「団長が気になりますか?あちらも婚約者様と楽しくお話をしているのでしょう。後で団長の執務室にお連れします。ですから、どうか僕に貴方様のお名前をお教えください…!」
     
 書庫の妖精の噂は城のほぼ全ての人々が知る所だろうに、この騎士はどうしてもウリート本人から名前を聞き出したい様だ。

「婚約者……?」

 ヒュンダルン様の?

「あ、はい。そうでしょうね?」

 そうか…そうだった…だからしてたんだった。今後に不安があるからって…
 あの方と………するのかな…?僕にしていた様な事を………

 それは当然の事だ。政略結婚であっても心を通じ合わせる夫婦もあるし、心が通じていなくてもそんな関係を持つことなんて珍しくもないんだろうから。

 でも………


「あの…!大丈夫ですか?」

 そっと頬に触れる手の感触があった。エリックと名乗った騎士はウリートの様子を心配してくれている様だ。

 視界が霞んできているウリートにはエリックの表情がよく見えない。きっとちゃんと断って、ここから離れる事が正解なんだと頭ではわかっているのに、視線はどうしてもヒュンダルンと令嬢の方へと吸い寄せられてしまう。

 見たくないのに…

 この場から走り去ってしまいたいのに、何故だか足も動かないんだ。

「エリック・ローガン!!」

 凛とした声の後に、思い切り鈍いゴッという音が響く。

「痛って~~~~」

 どうやら思い切りゲンコツを落とされた様で、エリックはその場にしゃがみ込んでしまった。そして、周りには結構な人数の人が集まっている事に気がつく。書庫の妖精ウンタラが聞こえたのか、ウリートを見ようと集まってきた者達らしい。

「痛って…何すんで……!?」

 痛む頭を抑えながらエリックはゲンコツで殴った相手を仰ぎ見て、固まった……

 輝きを控えめにした絹の様な金の髪に、赤い瞳。どこかで会った様な気がする紳士にウリートはそっと庇われている。

「何をしたと思う?」

「ひっ!申し訳、ありませ…!!」

「ここにいる騎士達は暇なのか?」

 威圧的な言葉と嫌味なのに、それさえも清々しく聞こえてくるほどいい声をしていた。

「とんでもございません!殿下!!」

 殿下……?

 周りにいた者達が一斉に最上級の騎士の礼をとった。

 今までヒュンダルンの事が気になって仕方がなかったのに、急に頬を叩かれたかの様に目が覚める。見た事がある様な気がしたのもそのはずで、先程まで謁見室で目の前にしていた国王陛下に良く似ているのだ。

「暇ではないならば、ここにいる者達は何をしているのだ?」

「きゅ、休憩中でありました!」

「そうか、では、休憩は終わりだ、行け!」

「「「はっ!」」」

 鶴の一声、行けと言われて一斉に騎士達は散って行った。

「ウリート・アクロース?」

「…はい…!」

 ヒュンダルンとそう変わらないくらいの年であろうか…王妃殿下とよく似た赤い瞳は国王陛下と同じ様に何を考えているのか悟らせてはくれない。

「私と来なさい。」

 颯爽と肩に羽織るマントを翻してウリートにそう命令した。

 行かなければ、ならないやつですよね…

 エーベ公爵夫妻に挨拶しなければならないと思っていたし、ヒュンダルンと令嬢の事が何故か非常に気にもなるが、一国の王太子に逆らう様な地位も、度胸も、不作法もウリートは持ち合わせてはいなかった。

 ヒュンダルン様…後ほどお会いした時にはちゃんと笑えるだろうか…

 その場から無理矢理足を引き剥がし、ウリートは王太子に付いていく。
 












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