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59、王への挨拶 4

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 王への謁見。平民にとってはこれ以上ない誉れ、一貴族にとってはそれは義務であり仕事の一つでもある。

 今日、ウリートは産まれて初めて貴族の義務を果たすのだ。何度か来た事がある王城といってもウリートが入ったことがあるのは庭園と、蔵書室くらいで…内部に入ればそれこそ重厚な造りに厳しい騎士達の規律ある態度が目に入って来る。ヒュンダルンが共にいるからだろうか、廊下を通り騎士達の前を通り過ぎるだけでガシャッと金属音を鳴らしながら上官に対する騎士の礼を取る音が聞こえてくる。
 実の所、一貴族として凛とした態度を取ろうとしていてるウリートだが、少しだけ手が震えている…

 緊張しないわけはない。そこを慮っての事なのかヒュンダルンも同席にての謁見だ。ヒュンダルンの用意した正装に身を包み、国王指定の時刻に訪れてみれば、広い謁見室には国王陛下夫妻にウリートの両親、ヒュンダルンに面影が似ている夫妻と、国王陛下の側に控えている貴族が一名、それに謁見室を守る護衛騎士達が待っていた。

「陛下にゴーリッシュ侯爵家ヒュンダルンがご挨拶申し上げます。」

 ヒュンダルンの男らしい低い声が謁見室に響く。悠々とした態度と礼で優雅に国王夫妻に挨拶を終えたヒュンダルンは、少し後ろに控えていたウリートに手を差し出した。

「こちらが、アクロース侯爵家御次男ウリート殿です。」

 ウリートは差し出されたヒュンダルンの手を当然のように取って前に進み出る。まず、国王陛下の前に出たことがないのだから、貴族の作法は心得ていても、ヒュンダルンにされればこれが礼儀と思うだろう。

 ほぅ……とため息の様なものが聞こえた気がしたのだけれども?

「お初に御目通りいたします。アクロース家次男ウリートにございます。国王陛下ご夫妻にご挨拶が遅れました事を心よりお詫び申し上げます。」

 ヒュンダルンの手を取りながらも、ヒュンダルンに倣い、ウリートは貴族の最高礼の礼を持って挨拶をした。

「うむ。ヒュンダルンは久しいな?なかなか顔を見せないのだから……アクロース家次男ウリート。顔を上げよ。」

「はい。」

 ゆっくりとウリートは国王に顔を向ける。

「ふむ…なるほど。これならば、気持ちはわかると言うものだ。なぁ、王妃?」

 国王陛下は40代だと聞いている。柔らかそうな表情と緑の濃い瞳を持つ。表情は優しいのだが、瞳にはただ優しいだけじゃない光を湛えているのは気のせいではないと思う。

「陛下、無粋ですわよ?」

 対する王妃殿下…歳の頃は国王陛下とそう変わらない様な外見だが、とても姿勢の良い、凛とした方…蜂蜜色の豊かな髪に落ち着いた赤い瞳。ジッとウリートを見つめて、力を抜く様にフッと微笑んだ。

「お二人の事はお二人がお決めになる事。それで問題ありませんわよね?エーベ公爵?アクロース侯爵?」

 王妃はパチンと持っていた扇を閉じた。王妃の言葉に同意を示す様に、両家の夫婦は黙礼を持って答えている。

「アクロース侯爵家ウリート殿…お身体は、如何?」

 ウリートは身体が弱く社交界にも出られない。そんな事情はとっくに把握済みで王妃は今日の体調を気にかけてくれているようだ。

「はい。ご心配ありがとう存じます。この所落ち着いておりまして、今日のこの日を迎える事が出来ました。」

 貴族であるならば、王への謁見が成人の証の様なものである。貴族の子息として何も出来ず役にも立たずと思っていたウリートとしては少しばかり感慨深い。

「まぁ、お可愛らしい事を…あらためてお祝い申しあげるわ、アクロース侯爵。そして日々楽しみですわね、ゴーリッシュ騎士団長?エーベ公爵夫妻もお忙しい事でしたわね?」

 王妃殿下はやっと成人した貴人としての祝いを述べてくれた。エーベ公爵家の内情もウリートが来てからの事を詳しく知っている様子でもあった。両家夫妻は王妃の言葉に礼を持って答えている。

「王妃は可愛らしい方には目がないからな…」

 やれやれ、と王がため息を吐く。

「陛下。アクロース侯爵家次男殿の素晴らしさは見目麗しさだけではないと家の者からも伺っておるのですよ。」
 
 静かに和やかに謁見が進む中、国王陛下の隣に立つ貴族がそう言葉を挟む。ほぼ白髪なのだろうか、灰色の髪を後ろに撫で付けた茶の瞳を持つ紳士だ。

「宰相殿だ。」

 貴族達の名前と顔が全く一致しないウリートにとってはそっと教えてくれるヒュンダルンの一言は有難い。

「ほう。宰相の家と言うと、養子に迎えるあの者か?」

「はい、陛下。アクロース侯爵子息殿。サイラスを知っているかね?」

 サイラス……ピクッとヒュンダルンの手が反応した様に思う。

「サイラス・ライーズ副書記官長様ですか?」

 こんな所でこの名前を聞くとは思わなかった…

「ほう!知っているのかね?」

 心なしか宰相は嬉しそうである。

「はい。良く蔵書室にてお会いしておりました。」

「既に顔馴染みと?」

 国王陛下も眉毛を上げた。

「はい。ライーズ副書記管長様の知識の広さには驚かされます。」

「何を言われる。アクロース侯爵子息殿もなかなかの博識と伺っておりますぞ、陛下。」

「ほう?どこに強いのだ?」

「確か、古語、と…」


















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