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54、王城への招待

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「そういえばマリエッテ、先程アランドが言っていたな?」

「はい。手紙にございますね?」

 お茶の用意と共にマリエッテはアランドから預かった手紙も持ってきていた。

「こちらに。」

 恭しく差し出された手紙にはヒュンダルンが思っていた通りに王家の紋章付きだ。

「何方からです?」

 手紙と聞くと友人から来た物だと思っている節があるウリートは、ワクワクした可愛らしい顔を向けてくるではないか。しかし、申し訳ないがこれはそんなに楽しい手紙ではないだろう。手紙の裏には鮮やかな朱の封蝋がされている。間違えなく王家の、それも私事の手紙の様であった。

「王家……ですか?」

 手紙を覗き込んできたウリートが流石に封蝋の印には気がついたのか、不思議そうに見つめている。

「開けるぞ。」

 中には、なんて事ないウリートへの体調の伺いと、王城への招待が書いてあった。

 王家直々の招待状では出席しないわけには行かないだろう。

「ウリートと俺への招待だな。一度、揃って顔を見せにこいと書いてある。」

「陛下の前に、僕も出るのですか!?」

 本来ならば社交界に出ている歳で既に挨拶くらいは済ませているべきなのだが…ウリートの場合その社交界にも出ていなかったのだから国王への挨拶も未だに成されていなかった。

「そう御所望だからな。」

 少々面倒くさいと言う雰囲気を隠そうともしないヒュンダルンをウリートは真剣な顔で見つめ返す。

「ヒュンダルン様…僕、夜会は……」

 産まれてから一度もパーティーらしいものにウリートは出席した事が無い。ダンスも習えなかったし、例えダンスを踊らなくても一晩夜会会場にいる自信はないに等しい。しかし、国王陛下からの勅命であれば行かないわけには行かないだろう。行かなければアクロース侯爵家はどんなお咎めがあるのか………

 ウリートの表情を見ていて、何を考えているのかヒュンダルンには大体察しがついてしまった。今日王家から寄越された手紙は極々私的な時に出される物である。そこには公的な権力も何も本来ならば発生はしない。本当に一個人としての親愛の手紙と言っても良いほどのものだ。けれどもヒュンダルンには面倒くさいのだ。ウリートと2と指定されていることからも、国王が何を言いたいのか粗方わかってしまったから。きっと、裏で叔母上が干渉しているのだろうし………

 いずれは2人で挨拶を、とも思っていたのだが…それはおいおい先の事だろうと踏んでいたのだが…さて…どうしたものか……

「ウリート。これには特に罰則はない。噂を聞いた陛下がほんの少し興味をもたれただけだろうからな。」

「けれども、伺わなくてはならないでしょう?ヒュンダルン様のお名前もありますし、王家に対しての不義理は下々の者にも示しがつきませんから。」

 フッとヒュンダルンの顔が笑み崩れた。こんな時にもウリートは持ち前の真面目さを全面に打ち出して対応しようとする。だから、本気で可愛くて、心配にもなってしまう。

「可愛いな……」

「はい?」

「可愛いと言ったのだ。」

 つい、ポロリと出てしまった言葉をヒュンダルンは否定しない。

「僕が、ですか?」

 夜会に出ることも、ダンスもする事が出来ないだろう自分のどこに可愛いと思える要素があるんだろう?

 ウリートは首を傾げてしまう。いつもこの様な会話は苦手であって出来れば避けたいところ…

「そうだ、ウリートだ。自覚を持っていいぞ!」

 褒めてもらえるのは正直嬉しい、けれど、可愛い、と言われるのはどうしてもムズムズとくすぐったくなる。  

「王城へまた出向くことになる。陛下の前に出るのだとしたら、このくらいの事で恥ずかしがっていられないぞ。仕方ないな…耐性をつけておくか…」

「え?」

 あっという間もない程素早くヒュンダルンはウリートを自分の膝の上へと乗せてしまう。そして少しだけ目線が高くなったウリートに向かって、可愛い、を連発し出す。

「その表情も可愛いな…」
  
 可愛い攻撃だけだったなら、ウリートにもなんとか耐えられたかもしれない。それなのに、ヒュンダルンは可愛いの言葉と一緒に顔中にキスまでしてくる様に……………

「あ…の、あの!ヒュンダルン様!」

 可愛いと、陛下にお会いした時に言われるのですか?もしや、この様なキスもされるのですか?耐性をつけるとは、何に対してでしょう?

 謁見に対して聞きたいことは山程あるのに、ヒュンダルンはその質問を一つも言わせてはくれない。先程からのキスが本格的に口にされる様になってしまってはもう、話すどころでは無くなった……。



















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