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52、アランドの本心 3
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「全く、お前ときたら…やっぱりか…」
ウリートの部屋のドアを開け、今まさに出て行こうとした所で、セージュは自分よりも更に引き締まった腕に羽交締めにされた。
「兄様!?」
ガッチリとセージュをホールドしているのは、律儀に毎日ウリートの顔を見に来ているアランドだ。
「ウリー、騒がせて済まなかったな。」
アランドのガッチリホールドを抜けようと、ウリートの手を掴んでいない方の手で持ってセージュも応戦するのだが、いかんせんアランドも流石は騎士団長であってびくともしない。
「セージュ。ウリーの腕が折れる。いい加減離しなさい。」
つい、アランドの手から逃れようとするセージュは力が篭るのだろう。知らず知らず握りしめていたウリートの腕をセージュは急いで離した。暴れようとするセージュを抑えながら、アランドは目的を達成させる。
「ヒュンダルン、悪いがウリーの腕を見てくれないか?この馬鹿は力だけはあるんでね。」
「ああ、どれ?ウリート腕を見せて……」
掴まれたウリートの腕はうっすらと赤くなってはいるが骨には異常なさそうだ。ヒュンダルンはそっと痛めたウリートの手首を撫でる。
「放っせ!兄上!!何故止める!?」
「当たり前だろう。ここは公爵家だぞ?お前、私が止めようとしなかったら何をしていた?」
「……ぐっ!?」
セージュは言葉に詰まった。なんとしても、例えゴーリッシュ騎士団長を切り捨ててでもウリートを連れ返そうとしていたからだ。
「セージュ、気持ちは分からなくも無いが。お前が暴走してくれると、我が家にも累が及ぶんだ。どう言うことだか分かるな?」
侯爵家の者が公爵家で無茶を犯す、それは即ち王家に連なる世の理に反する事で、個人のみではなく、アクロース侯爵家だとてただでは済まなくなる。ひいてはアクロース侯爵家の者であるウリートにもその罰が行くのだ。
「…………それでも……では!なぜゴーリッシュ騎士団長はウリーを解放しない!?」
苦しい姿勢であるだろうにセージュの声は響き渡った。
「あんな、あんな…いかがわしい真似までウリーにさせて…!」
いかがわしいと言うところだけは声量を落としてくれた…
「だから、それは…」
友情の一環であって…と、ウリートがいくらそう説明したところでセージュは納得しないだろう。
「2人には2人にしか分からない営みがあるんだ。セージュ、お前はまだ成人しておらず、そんな駆け引きはわからないかもしれないがな?」
暴れようとすればギリギリと容赦なくセージュを締め上げて行くアランドは口調だけは優しくそう説いていく。
「何が、2人の営みだ!恋人でも、婚約者でも、ましてや夫婦でも無いのに!!」
セージュの疑問にウリートも思わず頷いてしまった。そう、恋人でも、婚約者でも無い、そして夫婦なんてもっての他で…
「ほう?セージュ、お前は夫婦の営みを知っているのか?」
「何を!?今、そんなことを言っている場合じゃ無いだろ!?離せ!!」
「そうか、お前ももう15だものな?知識は勿論あるな?」
「何の話をしているんだ!」
「ウリーがされそうになっていた事だよ?分かるな?」
「当たり前だろうが!?だから止めてるんだろうが!!」
「そうか、良かった。」
そう言ってアランドは最高の笑顔で微笑む。腕は今もセージュを締め上げていて、暴れる末弟を抑えながら、表情は何故だかすっきりと、晴れ晴れとした良い笑顔なのである。
「兄様?」
どこから手をつけていいのやら…荒事には全く縁の無いウリートであるからこの兄と弟を目の前にしてはただウロウロとするしかなかった。時々ヒュンダルンに視線を送って助けを求め様にも、ヒュンダルンはただ頷くのみで止めに入ろうとはしない。
「そう言うわけだ。ヒュンダルン、騒がせて悪かったな?」
「何がどう言うわけだ?ウリートは納得していないぞ?」
ウリートどころかまだアランドの腕の中にいるセージュも納得などしていない。
「分かっている。今日の所は悪いが帰らせてくれ。大切な用事ができてしまったからな。」
「大切ね………」
チラリと、ヒュンダルンはまだアランドの腕の中で暴れるセージュに視線を落とす。
「活きが良すぎやしないか?」
いい加減諦めればいいものを、何がそうさせるのかセージュは諦めることを知らないらしい。
「可愛いだろう?」
アランドはセージュをホールドしていない方の手でセージュの頭をぐりぐりと撫でくっている。
「キモいな!撫でるな!」
アランドやセージュはウリートの頭を撫でるし、セージュだってウリートから頭を撫でられるのが好きなくせに、アランドからの行為には全面抗議のようだ。
「兄様…?」
「こうしてるとセージュも年相応の子供に見えるな?ウリー…」
アランドにとってはウリートもセージュも大切な兄弟で、可愛い対象なのだとはわかるのだが。ウリートの前でこんなにも執拗にセージュに絡んでいる所を見たことがないのでウリートは呆気にとられ、ただ戯れ合う兄弟を見つめるしか無い。
ウリートの部屋のドアを開け、今まさに出て行こうとした所で、セージュは自分よりも更に引き締まった腕に羽交締めにされた。
「兄様!?」
ガッチリとセージュをホールドしているのは、律儀に毎日ウリートの顔を見に来ているアランドだ。
「ウリー、騒がせて済まなかったな。」
アランドのガッチリホールドを抜けようと、ウリートの手を掴んでいない方の手で持ってセージュも応戦するのだが、いかんせんアランドも流石は騎士団長であってびくともしない。
「セージュ。ウリーの腕が折れる。いい加減離しなさい。」
つい、アランドの手から逃れようとするセージュは力が篭るのだろう。知らず知らず握りしめていたウリートの腕をセージュは急いで離した。暴れようとするセージュを抑えながら、アランドは目的を達成させる。
「ヒュンダルン、悪いがウリーの腕を見てくれないか?この馬鹿は力だけはあるんでね。」
「ああ、どれ?ウリート腕を見せて……」
掴まれたウリートの腕はうっすらと赤くなってはいるが骨には異常なさそうだ。ヒュンダルンはそっと痛めたウリートの手首を撫でる。
「放っせ!兄上!!何故止める!?」
「当たり前だろう。ここは公爵家だぞ?お前、私が止めようとしなかったら何をしていた?」
「……ぐっ!?」
セージュは言葉に詰まった。なんとしても、例えゴーリッシュ騎士団長を切り捨ててでもウリートを連れ返そうとしていたからだ。
「セージュ、気持ちは分からなくも無いが。お前が暴走してくれると、我が家にも累が及ぶんだ。どう言うことだか分かるな?」
侯爵家の者が公爵家で無茶を犯す、それは即ち王家に連なる世の理に反する事で、個人のみではなく、アクロース侯爵家だとてただでは済まなくなる。ひいてはアクロース侯爵家の者であるウリートにもその罰が行くのだ。
「…………それでも……では!なぜゴーリッシュ騎士団長はウリーを解放しない!?」
苦しい姿勢であるだろうにセージュの声は響き渡った。
「あんな、あんな…いかがわしい真似までウリーにさせて…!」
いかがわしいと言うところだけは声量を落としてくれた…
「だから、それは…」
友情の一環であって…と、ウリートがいくらそう説明したところでセージュは納得しないだろう。
「2人には2人にしか分からない営みがあるんだ。セージュ、お前はまだ成人しておらず、そんな駆け引きはわからないかもしれないがな?」
暴れようとすればギリギリと容赦なくセージュを締め上げて行くアランドは口調だけは優しくそう説いていく。
「何が、2人の営みだ!恋人でも、婚約者でも、ましてや夫婦でも無いのに!!」
セージュの疑問にウリートも思わず頷いてしまった。そう、恋人でも、婚約者でも無い、そして夫婦なんてもっての他で…
「ほう?セージュ、お前は夫婦の営みを知っているのか?」
「何を!?今、そんなことを言っている場合じゃ無いだろ!?離せ!!」
「そうか、お前ももう15だものな?知識は勿論あるな?」
「何の話をしているんだ!」
「ウリーがされそうになっていた事だよ?分かるな?」
「当たり前だろうが!?だから止めてるんだろうが!!」
「そうか、良かった。」
そう言ってアランドは最高の笑顔で微笑む。腕は今もセージュを締め上げていて、暴れる末弟を抑えながら、表情は何故だかすっきりと、晴れ晴れとした良い笑顔なのである。
「兄様?」
どこから手をつけていいのやら…荒事には全く縁の無いウリートであるからこの兄と弟を目の前にしてはただウロウロとするしかなかった。時々ヒュンダルンに視線を送って助けを求め様にも、ヒュンダルンはただ頷くのみで止めに入ろうとはしない。
「そう言うわけだ。ヒュンダルン、騒がせて悪かったな?」
「何がどう言うわけだ?ウリートは納得していないぞ?」
ウリートどころかまだアランドの腕の中にいるセージュも納得などしていない。
「分かっている。今日の所は悪いが帰らせてくれ。大切な用事ができてしまったからな。」
「大切ね………」
チラリと、ヒュンダルンはまだアランドの腕の中で暴れるセージュに視線を落とす。
「活きが良すぎやしないか?」
いい加減諦めればいいものを、何がそうさせるのかセージュは諦めることを知らないらしい。
「可愛いだろう?」
アランドはセージュをホールドしていない方の手でセージュの頭をぐりぐりと撫でくっている。
「キモいな!撫でるな!」
アランドやセージュはウリートの頭を撫でるし、セージュだってウリートから頭を撫でられるのが好きなくせに、アランドからの行為には全面抗議のようだ。
「兄様…?」
「こうしてるとセージュも年相応の子供に見えるな?ウリー…」
アランドにとってはウリートもセージュも大切な兄弟で、可愛い対象なのだとはわかるのだが。ウリートの前でこんなにも執拗にセージュに絡んでいる所を見たことがないのでウリートは呆気にとられ、ただ戯れ合う兄弟を見つめるしか無い。
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