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47、ウリートの苦悩 *
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夕食の後はいつもの日課で少しだけヒュンダルンの部屋で過ごす。
「ウリート、疲れたか?」
日中、ライール副書記官長が見舞いと称して来訪していたため、少しばかり表情が沈んだ様に見えるウリートは疲れてしまったかの様にも見えた。
「あ、いえ…疲れてはいません。むしろ調子は良いです。」
毎日お気に入りのフルーツを入れてもらって、エーベ公爵家特性の栄養ドリンクを飲んでいるせいか、ウリートは日中は勉強に散歩にと身体を動かして活発に活動している。顔色もいいし、体調は本当に悪くはなさそうである。
スルリとヒュンダルンはウリートの隣に腰を下ろすと、ジッとウリートの顔を見つめて来た。
「大丈夫です!ほら!」
そんなヒュンダルンにアピールする為に、ウリートはソファーからピョンと立ち上がってクルクルと回ってみせた。急に動いても目眩はないし、体幹もブレない。
ね?と言う様に小首を傾げてヒュンダルンを見つめてくるのだが、やはり何か引っかかるのだ。
「ライール副書記官長の面会を許可しなかったほうが良かったか?」
もしや、何か気に触る事でも?
「いいえ!訪問してくださったのは嬉しかったです。」
「そうか?何やら先程は思い詰めていた様な顔をしていた。」
俺の気のせいであればいいのだが、気のせいでなければなんとかしたい。
「………」
「ウリート?」
ヒュンダルンはそっと、立ったままのウリートに手を伸ばす。ヒュンダルンより、ずっと小さく柔らかい手、あの時、氷の様に冷えていた手は今はホカホカと子供の様に暖かい…
「……恥ずかしいのですが…」
「うん?」
「今日は、セージュが来なかったので…」
いつもならばヒュンダルンが帰宅する前に必ずセージュはウリートの顔を見に来るのだ。が、昨日と本日に限っては来訪も無く手紙さえ送ってこなかった。昨日夕食後に来たアランドに聞いた所、アクロース侯爵邸に帰ってきており普段とは変わらず過ごしていると言う。健康優良児であったセージュが体調不良などでは無くて良かったが、家にいる時ならば毎日の様に顔を合わせていた手前、1日でもその顔が見えないと何故だか落ち着かない。
もしかしたら、ここでお世話になっているから、本当は目上の家への訪問なんて気がひけて来難いのかもしれない。あんなに家族大好きでウリートにもベッタリだったセージュなのだ。ウリートは自立を目指しているのだから本来ならばこれでいいはずなのに、もし、セージュの方に我慢させているのだとしたら……幼い頃からきっとウリートが知らない所でセージュだって我慢を強いられて来ているはずで、更にウリートがここにいる事でまだ我慢しているとしたら……こんなことを考え始めると、どうしても止まらない。ので、何もすることがない時には自然とその事について考えてしまっていた。
ヒュンダルンはそっとウリートを引き寄せた。
「では、浮かない顔をしていたのは弟に会えていなかったからか?」
ウリートにべったりのセージュならば呼んでやれば手紙一つで今すぐにでも飛んでくるだろうに。
「あと、僕ももうそろそろ、ここに居る理由もない様な気がして……」
この頃は本当に嘘みたいに体調がいい。食事量も増えたし、体も軽い。だからまた以前の様にアクロース侯爵邸から王城に通う事も考えなくては……
「おや、そんな寂しい事を言うのだな……先生?」
「ヒュンダルン様?」
家庭教師の練習や真似事をする時にヒュンダルンはウリートを先生、と呼ぶ。
「今は俺の先生ではなかったか?」
「え。あの?」
先生って…もしや、あの、閨教育の?
「そう、それだ。俺は将来侯爵家を背負わなければならないからな。今ぶつかっている問題は大いに問題なんだ。」
「はい…もちろん、理解しています。けれどもお子様を授かる為には、閨は女子の方が……」
言いかけた所で、ヒュンダルンにグイッと引き寄せられ、ウリートはヒュンダルンの膝の上。
「知っているか、ウリート?我が国は同性婚も認められている。」
ゆっくり近付いてくるヒュンダルンに、ウリートはいつもの条件反射で瞳を閉じた。
軽く、お互いの体温が分かるくらいの触れる様なキスをして、ヒュンダルンはそっと唇をウリートから離す。
「でも、お子が……」
「子ならば、親戚筋から養子を貰えばいい。」
実際エーベ公爵家に産まれたヒュンダルンもゴーリッシュ侯爵家へと養子に出ている。高位の貴族家に嫡子となる男児がいなければ、その親戚にあたる家々では、自分達の子供を召し上げて貰おうと子供の教育には非常に熱心になると言う。
「だから、何も心配することはないんだ。」
次に重なるヒュンダルンの唇は、遠慮なくウリートの柔らかな唇に優しく吸い付いてくる。
「ん……」
ヒュンダルンにとってはいつもの復習…ウリートにとってももう何度もしているキスならば復習とも言える。お互いの将来のためなのだけれども、この先はどの様にして答えたらいいか、いつもわからない…
「ウリート、疲れたか?」
日中、ライール副書記官長が見舞いと称して来訪していたため、少しばかり表情が沈んだ様に見えるウリートは疲れてしまったかの様にも見えた。
「あ、いえ…疲れてはいません。むしろ調子は良いです。」
毎日お気に入りのフルーツを入れてもらって、エーベ公爵家特性の栄養ドリンクを飲んでいるせいか、ウリートは日中は勉強に散歩にと身体を動かして活発に活動している。顔色もいいし、体調は本当に悪くはなさそうである。
スルリとヒュンダルンはウリートの隣に腰を下ろすと、ジッとウリートの顔を見つめて来た。
「大丈夫です!ほら!」
そんなヒュンダルンにアピールする為に、ウリートはソファーからピョンと立ち上がってクルクルと回ってみせた。急に動いても目眩はないし、体幹もブレない。
ね?と言う様に小首を傾げてヒュンダルンを見つめてくるのだが、やはり何か引っかかるのだ。
「ライール副書記官長の面会を許可しなかったほうが良かったか?」
もしや、何か気に触る事でも?
「いいえ!訪問してくださったのは嬉しかったです。」
「そうか?何やら先程は思い詰めていた様な顔をしていた。」
俺の気のせいであればいいのだが、気のせいでなければなんとかしたい。
「………」
「ウリート?」
ヒュンダルンはそっと、立ったままのウリートに手を伸ばす。ヒュンダルンより、ずっと小さく柔らかい手、あの時、氷の様に冷えていた手は今はホカホカと子供の様に暖かい…
「……恥ずかしいのですが…」
「うん?」
「今日は、セージュが来なかったので…」
いつもならばヒュンダルンが帰宅する前に必ずセージュはウリートの顔を見に来るのだ。が、昨日と本日に限っては来訪も無く手紙さえ送ってこなかった。昨日夕食後に来たアランドに聞いた所、アクロース侯爵邸に帰ってきており普段とは変わらず過ごしていると言う。健康優良児であったセージュが体調不良などでは無くて良かったが、家にいる時ならば毎日の様に顔を合わせていた手前、1日でもその顔が見えないと何故だか落ち着かない。
もしかしたら、ここでお世話になっているから、本当は目上の家への訪問なんて気がひけて来難いのかもしれない。あんなに家族大好きでウリートにもベッタリだったセージュなのだ。ウリートは自立を目指しているのだから本来ならばこれでいいはずなのに、もし、セージュの方に我慢させているのだとしたら……幼い頃からきっとウリートが知らない所でセージュだって我慢を強いられて来ているはずで、更にウリートがここにいる事でまだ我慢しているとしたら……こんなことを考え始めると、どうしても止まらない。ので、何もすることがない時には自然とその事について考えてしまっていた。
ヒュンダルンはそっとウリートを引き寄せた。
「では、浮かない顔をしていたのは弟に会えていなかったからか?」
ウリートにべったりのセージュならば呼んでやれば手紙一つで今すぐにでも飛んでくるだろうに。
「あと、僕ももうそろそろ、ここに居る理由もない様な気がして……」
この頃は本当に嘘みたいに体調がいい。食事量も増えたし、体も軽い。だからまた以前の様にアクロース侯爵邸から王城に通う事も考えなくては……
「おや、そんな寂しい事を言うのだな……先生?」
「ヒュンダルン様?」
家庭教師の練習や真似事をする時にヒュンダルンはウリートを先生、と呼ぶ。
「今は俺の先生ではなかったか?」
「え。あの?」
先生って…もしや、あの、閨教育の?
「そう、それだ。俺は将来侯爵家を背負わなければならないからな。今ぶつかっている問題は大いに問題なんだ。」
「はい…もちろん、理解しています。けれどもお子様を授かる為には、閨は女子の方が……」
言いかけた所で、ヒュンダルンにグイッと引き寄せられ、ウリートはヒュンダルンの膝の上。
「知っているか、ウリート?我が国は同性婚も認められている。」
ゆっくり近付いてくるヒュンダルンに、ウリートはいつもの条件反射で瞳を閉じた。
軽く、お互いの体温が分かるくらいの触れる様なキスをして、ヒュンダルンはそっと唇をウリートから離す。
「でも、お子が……」
「子ならば、親戚筋から養子を貰えばいい。」
実際エーベ公爵家に産まれたヒュンダルンもゴーリッシュ侯爵家へと養子に出ている。高位の貴族家に嫡子となる男児がいなければ、その親戚にあたる家々では、自分達の子供を召し上げて貰おうと子供の教育には非常に熱心になると言う。
「だから、何も心配することはないんだ。」
次に重なるヒュンダルンの唇は、遠慮なくウリートの柔らかな唇に優しく吸い付いてくる。
「ん……」
ヒュンダルンにとってはいつもの復習…ウリートにとってももう何度もしているキスならば復習とも言える。お互いの将来のためなのだけれども、この先はどの様にして答えたらいいか、いつもわからない…
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