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28、限界 1

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 今までが嘘の様な日々だった…楽しい事が続いていて、夢がどこまでも叶う様な気になって、この日々が永遠と続いていく様な錯覚さえ起こしていた。

 だから、油断していたんだと思う…



 ここ数日、ウリートは体調も良くヒュンダルンの手が空いている時には毎回城へ登城していた。自宅にいる時にも図書室に篭り自習をし、茶会であった友人の令嬢達に初めて手紙を書くと言う快挙を成し遂げた。これはヒュンダルンとの間で交わしている日程調整の様な内容となってしまっている手紙では無い。久しぶりに会った茶会の席で様子がおかしかった友人を心配しての手紙だ。3通の手紙を認め終えて彼女達がどんな風に受け取ってくれるか、今からドキドキしながらその晩は早めにベッドに横になったのである。

 夜ふかしする所を見つかれば、セージュが五月蝿いのだ。セージュは監視員の如くにウリートの部屋の灯りが消えているのか確認にくる。果てにはウリートが寝付くまで側を離れようとしない事があるので夜の活動は早々に切り上げる事にしている。少しでも夜更かししようものならば見張っているだけでは飽き足らず、セージュもウリートのベッドに入り寝かしつけようとする徹底ぶり。そこでウリートも寝てしまえばいいのだが、いくら兄弟と言えども身体の大きなセージュが一緒では寝にくい…なのでセージュを言い聞かせるという押し問答が始まるわけだ。あまりこれも長引くと今度は長兄アランドが訪室してくる始末…騎士団長でもあって腕に自信があるアランドに見つかれば、体格の良い騎士候補のセージュとて子猫の様に首根っこをムンズと掴まれウリートが休めないと言う理由で寝台から引き摺り下ろされて行く。

 なんとなく、ウリートはこの瞬間が好きじゃない。自分よりも大きく育って立派になってきたセージュが少しだけ情けなく見えてしまって可哀想だから…だから早く休むに越した事はない。
 
 それと自分も少しだけ疲労は感じていた。連日の様に部屋から出て活動し、今まで以上に勉強の為に使う時間が多くなっていたから。

「ふう…」

 寝具の中でウリートはため息をつく。身体に感じる疲労感から素直に出てきたものだ。その疲労に素直に身を任せれば直ぐにでも寝入ってしまいそうになる。

 労働後の良い疲れとはこういうもの?

 家庭教師に教えを請うたことはあるがまだ実際には誰かに教えた試しがない。ただ座って仕事をするだけが家庭教師としての運動量なら日々ウリートが活動している位の量だろう。

「この位なら、大丈夫かな……」
 
 この位ならまだいける、大丈夫、だって日々楽しいんだ。友に会える事も、勉強も、手紙を書くのだって。

 どんどん自分が一般的な貴族に近付いている様に感じられて嬉しさの方が疲労よりも大きい。

 だから、いけなかったのかもしれない…


 翌日のウリートは朝から充実していた。少しだけだるさがあったが、抜け切らない疲労分だろうといつもの笑顔で家族に挨拶をしてアランドと共に王城に赴いた。書庫の中には早朝であるにも拘らず既に何名かの先客がいたがウリートは静かに会釈だけで挨拶をしていつもの様に古語の本を開き出す。

 そうすれば…

「今朝も早いですね?」

 ほら、ライーズ副書記官長が声をかけてくれる。

「おはようござます。ライーズ副書記官長。」
 
 サイラス・ライーズ副書記官長は穏やかな方だと思う。

 ウリートと共に静かに座って古語の本を開く、お互いに読んでいる物は違うが古語であるからわからない事があれば質問し合い返答する、これの繰り返しだ。時には翻訳の解釈について二人で話し合う事もあった。こんな時、アランドは何も言わずにただ古語について語る二人の話を聞いているだけだ。ライーズ副書記官長は古語について博識でお互いに熱の入った良い対話ができているのではないだろうか。

「ウリート!」

「!?」

 古語の勉強に励んでいると就業前のヒュンダルンが声をかけてくれた。そしてライーズ副書記官長との古語の時間は今日はこれで終了となる。ここからはヒュンダルンとの時間だ。

「ヒュンダルン様、おはようございます。」

 逞しいヒュンダルンが現れると何故だか周囲の雰囲気が変わる気がする…アランドも交代、とばかりに目配せのみでヒュンダルンとの挨拶を交わし書庫を出ていくのだ。

「…おや、良いですね!名前で呼び合っているのですか?」

 少しの変化であろうにライーズ副書記官長は直ぐに気がついた様だ。

「はい、友人なので!」

 胸を張ってウリートは答える。

「友人か…ならば私達も古語を学び合う友人ではありませんか?ではぜひ私の事もサイラス、と。」

 和やかな笑顔でライーズ副書記官長は言う。

「え…?」
  
 古語を学び合う友人…そうか、何かを一緒にする様な仲ならばそれはもう友人でいいのか……ライーズ副書記官長はそう言いたい?

「失礼、ライーズ副書記官長…」

 ウリートが友人の理解を深めようとしていた所にヒュンダルンの少し低くなった声がそれを遮った。











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