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23、騒ぐ心 2
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「では、こうしようウリート殿?」
「はい?」
この現状の打開策でもあるのだろうか、書庫の柔らかな椅子に座り一息ついたウリートに向かってヒュンダルンはある提案をする。ヒュンダルンは整った顔に柔らかな笑みを貼り付けて余裕がある大人の表情である。
「私達の距離をもう少し近づけないか?ん~そうだな?友人なのだから、気軽にヒュンと呼んでほしい。私の方もウリート呼ばせてもらおう。いいな、アランド?」
丁度二人の近くまで来ていたアランドに向かってヒュンダルンは了承を求めた。
「良いも悪いも、ヒュンダルン…ヒュンはお前の実家筋の親戚しか呼ばない愛称だろう?それをウリーに呼ばせるのか?」
ヒュンダルンがウリートを名前で呼ぶには良いが…友人ならば敬称を付けずに呼ぶ事は多々あるのだから。が、愛称となると極親しい間柄の者達が呼び合う名前と世間ではそれが常識だ。
「だから、私を使って良いと言う事だ…」
なるほど、この案にはヒュンダルンが1番納得が行く答えであった。誰とも知らない、いや誰かと知っていても、誰かがウリートの手に触れていたのが嫌だったのだから…ヒュンダルンの名前を使って周囲に牽制できるものならばこれほど良い案はない。そう思ったのだ。
「……ふむ…周りが騒ぎ立てるな?」
アランドとしてはウリートの環境をあまり変えず静かに過ごしてほしいと思っていたのだが…優しくウリートの髪を整えているアランドのその瞳はいつも優しい。
「不特定多数が寄ってくるよりは良いと思うのだが…」
アランドの危惧している通り別の意味で騒がれるかもしれない。けれどもウリートは友人だ。友人ならば困っている友を助けたとしても問題はないだろう。
「うむ…確かに…仕方なしか…」
やれやれとまだ言っているアランドからも了承は得られた様だ。
「許可が出た。では、ウリートこれから私の事はヒュンと呼んでくれないか?」
愛称……これは夫婦がお互いを呼ぶ時に、また親が子供を呼ぶ時や兄弟間で呼び合う時に使うものであって、友人には使わない。と、世間一般常識くらいはウリートも知っている。礼儀作法は披露する場所が無かっただけで一通り受けてきているのだから。なのでヒュンダルンから名前を使っても良いと言われた時も、いきなり愛称を呼べと言われたらかなりの違和感があった。
「え…と、あの…ゴーリッシュ騎士団長?」
仲良くなる友人がいる事がこんなに楽しい日々を過ごせるとわかってきた今日この頃。その友人が家族の様な存在になる事に驚きを禁じ得ないでいる。
「ヒュンだ、又はヒュンダルン。」
言ってごらん?と言う圧が強いヒュンダルンからの視線を受けて、ウリートはたじろぎ救済を求める視線をアランドへと流す。いつもウリートに優しい顔を向けるアランドはこの時は渋い顔で少しだけ頷いて了承の意を示す。
「では……ヒュンダルン様……」
ウリートにもここまでが精一杯だ。どう考えてもヒュンダルンは友人で寝食を共にする家族とは違うのだから。
「うむ。いいだろう。いいね?ウリートこれからは私の事をその様に名前で呼ぶ様に。」
ヒュンと呼ばなかった事に納得してくれないかと思ったヒュンダルンはアッサリと許してくれた。
「兄様…ゴーリッシュ騎士団長が本当の友人になってくれました…!」
アールスト侯爵邸に帰り晩餐を終え、ゆっくりとお茶を嗜んでいたウリートがしみじみとそんな事を言う。
家名ではなく名前で呼び合える本当の友人…ヒュンダルンはウリートが既に名前で呼び合っている兄の弟だから友人となってくれたんじゃないかという気持ちを完全に否定できなかったのだが、これで立場は兄アランドと同じものになったと言える。学校にも通えなかったウリートにとってヒュンダルンは名を許せる心からの友となった様でむず痒くて仕方がない。
「…そうだね。セージュがここに居なくてよかったよ…」
セージュは騎士養成所の関係で本日は外泊してくる。
「友人だったら、どんな事を相談してもいいですよね?」
家族の他に相談する者が欲しかった…職を見つけて結婚して家を出て…今が楽しくて忘れてしまいそうな目的を達成する為にはウリート一人での知識では限界があるだろうから。
「う~ん…そうだと思うが…相手が迷惑だと思わないものであれば、良いのか?」
アランドは友人との付き合いにそんな細かい事を考えたこともない。アランドは来るもの拒まず、去る者は追わずをモットーとしている…ウリート第一に動いている様なアクロース侯爵家の一員なので、友人との付き合いを真剣に考えたこともないのだ。
「では、確認しながらならいいですよね?」
心なしかウリートはウキウキとしていた。
「ウリー?何を相談したいんだ?」
座っているウリートの側まできたアランドは膝をついてウリートの視線としっかり合わせそう聞いてきた。
「…えっと…学問の事です…」
これは間違えではない。自分が家庭教師をする際に必ず必要になる知識だから。家を出る為、を強調したらきっと優しいアランドに悲しそうな顔をさせてしまうだろうから…
「はい?」
この現状の打開策でもあるのだろうか、書庫の柔らかな椅子に座り一息ついたウリートに向かってヒュンダルンはある提案をする。ヒュンダルンは整った顔に柔らかな笑みを貼り付けて余裕がある大人の表情である。
「私達の距離をもう少し近づけないか?ん~そうだな?友人なのだから、気軽にヒュンと呼んでほしい。私の方もウリート呼ばせてもらおう。いいな、アランド?」
丁度二人の近くまで来ていたアランドに向かってヒュンダルンは了承を求めた。
「良いも悪いも、ヒュンダルン…ヒュンはお前の実家筋の親戚しか呼ばない愛称だろう?それをウリーに呼ばせるのか?」
ヒュンダルンがウリートを名前で呼ぶには良いが…友人ならば敬称を付けずに呼ぶ事は多々あるのだから。が、愛称となると極親しい間柄の者達が呼び合う名前と世間ではそれが常識だ。
「だから、私を使って良いと言う事だ…」
なるほど、この案にはヒュンダルンが1番納得が行く答えであった。誰とも知らない、いや誰かと知っていても、誰かがウリートの手に触れていたのが嫌だったのだから…ヒュンダルンの名前を使って周囲に牽制できるものならばこれほど良い案はない。そう思ったのだ。
「……ふむ…周りが騒ぎ立てるな?」
アランドとしてはウリートの環境をあまり変えず静かに過ごしてほしいと思っていたのだが…優しくウリートの髪を整えているアランドのその瞳はいつも優しい。
「不特定多数が寄ってくるよりは良いと思うのだが…」
アランドの危惧している通り別の意味で騒がれるかもしれない。けれどもウリートは友人だ。友人ならば困っている友を助けたとしても問題はないだろう。
「うむ…確かに…仕方なしか…」
やれやれとまだ言っているアランドからも了承は得られた様だ。
「許可が出た。では、ウリートこれから私の事はヒュンと呼んでくれないか?」
愛称……これは夫婦がお互いを呼ぶ時に、また親が子供を呼ぶ時や兄弟間で呼び合う時に使うものであって、友人には使わない。と、世間一般常識くらいはウリートも知っている。礼儀作法は披露する場所が無かっただけで一通り受けてきているのだから。なのでヒュンダルンから名前を使っても良いと言われた時も、いきなり愛称を呼べと言われたらかなりの違和感があった。
「え…と、あの…ゴーリッシュ騎士団長?」
仲良くなる友人がいる事がこんなに楽しい日々を過ごせるとわかってきた今日この頃。その友人が家族の様な存在になる事に驚きを禁じ得ないでいる。
「ヒュンだ、又はヒュンダルン。」
言ってごらん?と言う圧が強いヒュンダルンからの視線を受けて、ウリートはたじろぎ救済を求める視線をアランドへと流す。いつもウリートに優しい顔を向けるアランドはこの時は渋い顔で少しだけ頷いて了承の意を示す。
「では……ヒュンダルン様……」
ウリートにもここまでが精一杯だ。どう考えてもヒュンダルンは友人で寝食を共にする家族とは違うのだから。
「うむ。いいだろう。いいね?ウリートこれからは私の事をその様に名前で呼ぶ様に。」
ヒュンと呼ばなかった事に納得してくれないかと思ったヒュンダルンはアッサリと許してくれた。
「兄様…ゴーリッシュ騎士団長が本当の友人になってくれました…!」
アールスト侯爵邸に帰り晩餐を終え、ゆっくりとお茶を嗜んでいたウリートがしみじみとそんな事を言う。
家名ではなく名前で呼び合える本当の友人…ヒュンダルンはウリートが既に名前で呼び合っている兄の弟だから友人となってくれたんじゃないかという気持ちを完全に否定できなかったのだが、これで立場は兄アランドと同じものになったと言える。学校にも通えなかったウリートにとってヒュンダルンは名を許せる心からの友となった様でむず痒くて仕方がない。
「…そうだね。セージュがここに居なくてよかったよ…」
セージュは騎士養成所の関係で本日は外泊してくる。
「友人だったら、どんな事を相談してもいいですよね?」
家族の他に相談する者が欲しかった…職を見つけて結婚して家を出て…今が楽しくて忘れてしまいそうな目的を達成する為にはウリート一人での知識では限界があるだろうから。
「う~ん…そうだと思うが…相手が迷惑だと思わないものであれば、良いのか?」
アランドは友人との付き合いにそんな細かい事を考えたこともない。アランドは来るもの拒まず、去る者は追わずをモットーとしている…ウリート第一に動いている様なアクロース侯爵家の一員なので、友人との付き合いを真剣に考えたこともないのだ。
「では、確認しながらならいいですよね?」
心なしかウリートはウキウキとしていた。
「ウリー?何を相談したいんだ?」
座っているウリートの側まできたアランドは膝をついてウリートの視線としっかり合わせそう聞いてきた。
「…えっと…学問の事です…」
これは間違えではない。自分が家庭教師をする際に必ず必要になる知識だから。家を出る為、を強調したらきっと優しいアランドに悲しそうな顔をさせてしまうだろうから…
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