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12、儚げな友人
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初めは違和感からだった。叔母に挨拶する為に足を向けた王城の中庭にいつもとは違う違和感があった。華やかな彩りの中に異質な存在が一つ…紳士の服装ではあるが男にしては明らかに線が細い。遠くから垣間見ることができた艶がある黒髪に縁取られた顔立ちはどちらかといえば女性を連想させた。目にした時は酔狂なご令嬢が男装を楽しんでいるかの様にも見えたのだが、今日叔母が出席している茶会を鑑みると耽美的な趣向の持ち主の集まりでは無い事は確かだった。
素性を確かめるか…
顔立ちに既視感を感じれども何処の誰かが分からない。王城であるのに誰が入城しているかも見分けがつかないなどとなってはここを護る騎士の名折れだ。
挨拶が終わればいつも決まって結婚相手の話になる叔母の元に長居はしたく無いので手短に済まそうと思いきや、思いがけずに実直に職務をこなそうとする職業病が、叔母に言わせれば悪い癖がムクムクと頭をもたげてきたのだ。
「叔母上…あそこに居る者は?」
この会場を取り仕切っているだろう叔母ならば素性を知っているに違いなかった。
その者は出席しているご婦人達よりも少しばかり背が高くほっそりとした身体付きだ。中肉中背と言えたらいい方で確かによく見ると青年に見えるのだが、同年代の成人男性よりは身長も外見から見える肉付きも見劣りするくらいの体型だった。顔立ちはまだ幼さが残るが中世的で整っており、不思議な色香もある。十分に魅力的な若者だろうと思われた。これが世間の雑談に頻回に持ち上がるアクロース侯爵家の次男というから驚きである。アランドのすぐ下の弟君で名をウリートと言ったか。ウリートの艶のある黒髪は綺麗に整えられて病弱故か白い肌が更に強調され陽に照らされた肌は輝く様であった。
挨拶を名目にウリート達の席に近づけば見知った令嬢達からも挨拶を受ける。ウリートと言えば、成程、社交界に慣れていないのが一眼でわかる程初々しい反応で、思わずクスリと笑いそうになる所、常日頃から鍛え上げてきたポーカーフェイスで乗り切った。
辿々しい中にも、しっかりと相手の目を見返し受け答えをする。社交界においてはあまりジロジロと人の挙動を注視すると非礼にあたることもあるが、ウリートからは一生懸命に受け答えしようとする誠実さが伺えて返って好ましく見えた。
億劫であるだけだった茶会の席に顔を出してこんなに晴れ晴れとした気分になった事は今までにない。新鮮な驚きを胸に秘めその場を離れようとしたところで、ウリートが倒れたのだ。メリール叔母とエリザ・トルフィー伯爵夫人の言う身体が弱いと言うことを目の前で見てしまったからには、無理をさせてしまったのではないかと罪悪感に襲われてしまった。
その謝罪のためにも後日アールスト侯爵家を訪れたのが、ここで得られたものは謝罪に対する赦しではなく、友人であった。
「友人か……」
ふむ、帰り道ヒュンダルンはゴーリッシュ家の馬車の中でもう一度そう呟く。
男たる者強くあれ、愛する者や婦女子を守る強く逞い紳士であれ、ゴーリッシュ家の男児達はこの様にして育てられてきた。だからだろう。か弱い者に庇護欲の様なものを感じてしまうのは。ウリートはヒュンダルンの周囲にいる逞しい騎士仲間とは全く違う。大の男が叩いても蹴飛ばしても体当たりしてもなんら響かない様な屈強な男達に比べたら……
なんと儚い……
儚くもひたむきで真っ直ぐなウリートは、自分には釣り合わない様な友人であろう。日々剣を突き合わせている様な友人達ばかりのヒュンダルンにとってウリートの存在は新鮮だった。
「儚い友人か……」
今までの粗野な男どもと同じ様な扱いはできないだろう。ウリートを見たら剣の手合わせも、馬も、ましてや酒を飲むことも難しいだろう。ウリートに合わせた穏やかな時間を過ごす、そんな友人関係になりそうである。
人付き合いに面倒さを覚えて極力異性とは近づきにならないようにして来たヒュンダルンにとって、気を使わなければならないウリートは面倒そのもののような存在である。にも拘らず何故だろうか嫌じゃない。友人といったら会える回数も増えるだろう……
思考を巡らすヒュンダルン自身が驚く事に、ウリートの友人という立場に物凄く満足している様なのだった。
「悪くはないな……」
アクロース侯爵家の次男で友人・同僚であるアランドの病弱な弟、そんな者に頼られる友人と言うのも。
素性を確かめるか…
顔立ちに既視感を感じれども何処の誰かが分からない。王城であるのに誰が入城しているかも見分けがつかないなどとなってはここを護る騎士の名折れだ。
挨拶が終わればいつも決まって結婚相手の話になる叔母の元に長居はしたく無いので手短に済まそうと思いきや、思いがけずに実直に職務をこなそうとする職業病が、叔母に言わせれば悪い癖がムクムクと頭をもたげてきたのだ。
「叔母上…あそこに居る者は?」
この会場を取り仕切っているだろう叔母ならば素性を知っているに違いなかった。
その者は出席しているご婦人達よりも少しばかり背が高くほっそりとした身体付きだ。中肉中背と言えたらいい方で確かによく見ると青年に見えるのだが、同年代の成人男性よりは身長も外見から見える肉付きも見劣りするくらいの体型だった。顔立ちはまだ幼さが残るが中世的で整っており、不思議な色香もある。十分に魅力的な若者だろうと思われた。これが世間の雑談に頻回に持ち上がるアクロース侯爵家の次男というから驚きである。アランドのすぐ下の弟君で名をウリートと言ったか。ウリートの艶のある黒髪は綺麗に整えられて病弱故か白い肌が更に強調され陽に照らされた肌は輝く様であった。
挨拶を名目にウリート達の席に近づけば見知った令嬢達からも挨拶を受ける。ウリートと言えば、成程、社交界に慣れていないのが一眼でわかる程初々しい反応で、思わずクスリと笑いそうになる所、常日頃から鍛え上げてきたポーカーフェイスで乗り切った。
辿々しい中にも、しっかりと相手の目を見返し受け答えをする。社交界においてはあまりジロジロと人の挙動を注視すると非礼にあたることもあるが、ウリートからは一生懸命に受け答えしようとする誠実さが伺えて返って好ましく見えた。
億劫であるだけだった茶会の席に顔を出してこんなに晴れ晴れとした気分になった事は今までにない。新鮮な驚きを胸に秘めその場を離れようとしたところで、ウリートが倒れたのだ。メリール叔母とエリザ・トルフィー伯爵夫人の言う身体が弱いと言うことを目の前で見てしまったからには、無理をさせてしまったのではないかと罪悪感に襲われてしまった。
その謝罪のためにも後日アールスト侯爵家を訪れたのが、ここで得られたものは謝罪に対する赦しではなく、友人であった。
「友人か……」
ふむ、帰り道ヒュンダルンはゴーリッシュ家の馬車の中でもう一度そう呟く。
男たる者強くあれ、愛する者や婦女子を守る強く逞い紳士であれ、ゴーリッシュ家の男児達はこの様にして育てられてきた。だからだろう。か弱い者に庇護欲の様なものを感じてしまうのは。ウリートはヒュンダルンの周囲にいる逞しい騎士仲間とは全く違う。大の男が叩いても蹴飛ばしても体当たりしてもなんら響かない様な屈強な男達に比べたら……
なんと儚い……
儚くもひたむきで真っ直ぐなウリートは、自分には釣り合わない様な友人であろう。日々剣を突き合わせている様な友人達ばかりのヒュンダルンにとってウリートの存在は新鮮だった。
「儚い友人か……」
今までの粗野な男どもと同じ様な扱いはできないだろう。ウリートを見たら剣の手合わせも、馬も、ましてや酒を飲むことも難しいだろう。ウリートに合わせた穏やかな時間を過ごす、そんな友人関係になりそうである。
人付き合いに面倒さを覚えて極力異性とは近づきにならないようにして来たヒュンダルンにとって、気を使わなければならないウリートは面倒そのもののような存在である。にも拘らず何故だろうか嫌じゃない。友人といったら会える回数も増えるだろう……
思考を巡らすヒュンダルン自身が驚く事に、ウリートの友人という立場に物凄く満足している様なのだった。
「悪くはないな……」
アクロース侯爵家の次男で友人・同僚であるアランドの病弱な弟、そんな者に頼られる友人と言うのも。
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