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20、混乱
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ノレッタが部屋から去って暫く経つと、今度は赤の城の中が俄然明るく、騒がしくなった。日の出はまだ遠くであるのに、休んでいた者全員が起こされたのではないかと言うくらいのざわつきである。
「用意が整った者から騎馬にて待機!!動ける者は獲物を持て!!!」
城内の遠くの方で起こっていたざわつきがフリージアの部屋の方にまで聞こえてくる。
「妃殿下の守りを固めろ!ノレッタ頼んだぞ!!」
普段聞き慣れない、気迫漲る戦士の声だ。
守りを固める?敵襲?あそこのオアシスが?
窓から見えるオアシスの灯りには以前変化はない。けれども城内に漂う緊張感が、否が応でも常軌を喫している事をフリージアにも突きつけてくるのだ。
「失礼します!!」
バッ!!と何の遠慮もなく入ってきたノレッタは既に戦闘用の装備である。
「妃殿下!我が国内に攻め入った者共がございます!先ずは御身大事で避難を!」
状況が分からず、ポヤンとしてしまっていたフリージアに代わってノレッタがフリージアの短鞭を取って差し出し、避難をと告げてきた。
「攻め入った?どこがです?」
「まだ分かりません。けれどあのオアシスの状況からして、あそこは落ちました。」
落とされたオアシスに住む者達がどうなったのか、攻め入ってきた敵は今どこなのか全くの状況が入ってこない。それなのにノレッタは逃げると言う。
「砂漠に住む蛮族共は抜け目ないのです。どこまで敵が進んできているのか、どこに敵が隠れているのか、誰が敵なのか、分からぬままでは城を守れません!」
「どこへ、行くと言うの?王もここに残るのでしょ?」
王が城に残って何かあったらどうするのだ…?
「王が残るのは当然です。それが王としての、王となった者の義務と責任だからです。現に陛下は睡蓮のオアシスを取り返しに出て行かれました!しかし、妃殿下は違います!」
「私だとて王族でしょう!」
なのに、一人で逃げろだなんて…
フリージアも混乱している。ここで逃してもらって帝国にまで送り届けてもらい亡命する事もできるのだが、両国の和平の為と自分を律してきたフリージアなりに、逃げると言う考えには至らないのだ。
「何を馬鹿な事を言っているんです?妃殿下には陛下のお子がいるかもしれないんですよ!?ここが落ちても妃殿下とお子が無事ならばまた再起する事だって可能でしょう!さあ、妃殿下、行きますよ!!」
強引に短鞭を持たされ、フリージアはノレッタに腕を引かれる。
子供…?子供がいるかも知れない?
ノレッタはフリージア付きの侍女である。3日と開けずに王タガードが通って来ているのももちろん知っているのだ。ならばフリージアに子供ができたかも知れない可能性を否定はできなかった。
そっと腹部に手を当てる。体調にも変わりはなく、全くそんな自覚なんてなかった。自分を愛してくれているわけではない、元敵国の王の子供…それでも新しく宿った命ならば、何と愛おしく思えるのだろう…
一人城を離れる事を躊躇していたフリージアはノレッタの先程の言葉で吹っ切れた。
もし、そうであるならば、王の子供でなくとも、母である自分には子供を守る義務がある…!フリージアは意を決して前を向く。ノレッタに引かれるままにではなく、自分の脚でここから逃げ出すために。
階下へ降りようとすると直ぐに騒ぎが聞こえて来た。男達の怒号と、何かしらのぶつかりあう音、物の壊される音に、逃げる様に上がる叫び声。
「ちっ!」
ノレッタは舌打ちする。状況は思った以上に悪いのかも知れない。誰がしか火を放ったのだろうか。階下からは煙の匂いまで漂ってきた。
「上に行きます!」
サッと踵を返してノレッタとフリージアは階段を駆け上がっていく。途中ナイトドレスの裾を踏みそうになって、フリージアはたくし上げられる所まで思い切りたくし上げて、ノレッタに必死について行く。
息が上がっても、髪が乱れに乱れても、汗だくになってもノレッタは止まってはくれなかった。それよりも、上へ上へと上がっていく…
「屋上から階下へとつながる隠し階段があるのです!ですから、妃殿下そこまで一気に参ります!」
階下で上がっただろう火の手は見る見る勢いを増したようだ。微かに臭っていた煙が既に視認できるようになって来た。
「ここです!」
行き着いたのはもう通路もない行き止まりだ。左に折れれば屋上へと出られるようになっている。けれどノレッタが指指したのは目の前の壁。
バンッ!!とノレッタはその壁を思い切り足で蹴飛ばした。厚く、硬いだろうと思っていた壁なのだが、女性が蹴飛ばした力で容易く倒れた。
外は深夜だ。明るい月明かりにのみ照らされた外気は肌を掠めると凍てつく寒さを伝えてくる。足元は暗くよく見えないが、先程倒された壁は足元の足場となったようである。
「ここは普段は外敵侵入禁止のために、足場が崩されているのです。この様に中からでないとこの階段は使えません。」
階下へつながる唯一の階段だ。人2人を優に通せる幅と簡易な手すりで作られている。赤の城の作りで地上6階分くらいの高さはあるだろうか。強風に煽らられればしゃがんで身を守るしかない程簡素な階段でもあった。
「階下では後2名侍女が控えております。さ、急ぎましょう!」
ここからしか城外に出る事叶わないのならば行くしかない。開けた壁の内側からは既に煙が差し迫っているのだから。
「用意が整った者から騎馬にて待機!!動ける者は獲物を持て!!!」
城内の遠くの方で起こっていたざわつきがフリージアの部屋の方にまで聞こえてくる。
「妃殿下の守りを固めろ!ノレッタ頼んだぞ!!」
普段聞き慣れない、気迫漲る戦士の声だ。
守りを固める?敵襲?あそこのオアシスが?
窓から見えるオアシスの灯りには以前変化はない。けれども城内に漂う緊張感が、否が応でも常軌を喫している事をフリージアにも突きつけてくるのだ。
「失礼します!!」
バッ!!と何の遠慮もなく入ってきたノレッタは既に戦闘用の装備である。
「妃殿下!我が国内に攻め入った者共がございます!先ずは御身大事で避難を!」
状況が分からず、ポヤンとしてしまっていたフリージアに代わってノレッタがフリージアの短鞭を取って差し出し、避難をと告げてきた。
「攻め入った?どこがです?」
「まだ分かりません。けれどあのオアシスの状況からして、あそこは落ちました。」
落とされたオアシスに住む者達がどうなったのか、攻め入ってきた敵は今どこなのか全くの状況が入ってこない。それなのにノレッタは逃げると言う。
「砂漠に住む蛮族共は抜け目ないのです。どこまで敵が進んできているのか、どこに敵が隠れているのか、誰が敵なのか、分からぬままでは城を守れません!」
「どこへ、行くと言うの?王もここに残るのでしょ?」
王が城に残って何かあったらどうするのだ…?
「王が残るのは当然です。それが王としての、王となった者の義務と責任だからです。現に陛下は睡蓮のオアシスを取り返しに出て行かれました!しかし、妃殿下は違います!」
「私だとて王族でしょう!」
なのに、一人で逃げろだなんて…
フリージアも混乱している。ここで逃してもらって帝国にまで送り届けてもらい亡命する事もできるのだが、両国の和平の為と自分を律してきたフリージアなりに、逃げると言う考えには至らないのだ。
「何を馬鹿な事を言っているんです?妃殿下には陛下のお子がいるかもしれないんですよ!?ここが落ちても妃殿下とお子が無事ならばまた再起する事だって可能でしょう!さあ、妃殿下、行きますよ!!」
強引に短鞭を持たされ、フリージアはノレッタに腕を引かれる。
子供…?子供がいるかも知れない?
ノレッタはフリージア付きの侍女である。3日と開けずに王タガードが通って来ているのももちろん知っているのだ。ならばフリージアに子供ができたかも知れない可能性を否定はできなかった。
そっと腹部に手を当てる。体調にも変わりはなく、全くそんな自覚なんてなかった。自分を愛してくれているわけではない、元敵国の王の子供…それでも新しく宿った命ならば、何と愛おしく思えるのだろう…
一人城を離れる事を躊躇していたフリージアはノレッタの先程の言葉で吹っ切れた。
もし、そうであるならば、王の子供でなくとも、母である自分には子供を守る義務がある…!フリージアは意を決して前を向く。ノレッタに引かれるままにではなく、自分の脚でここから逃げ出すために。
階下へ降りようとすると直ぐに騒ぎが聞こえて来た。男達の怒号と、何かしらのぶつかりあう音、物の壊される音に、逃げる様に上がる叫び声。
「ちっ!」
ノレッタは舌打ちする。状況は思った以上に悪いのかも知れない。誰がしか火を放ったのだろうか。階下からは煙の匂いまで漂ってきた。
「上に行きます!」
サッと踵を返してノレッタとフリージアは階段を駆け上がっていく。途中ナイトドレスの裾を踏みそうになって、フリージアはたくし上げられる所まで思い切りたくし上げて、ノレッタに必死について行く。
息が上がっても、髪が乱れに乱れても、汗だくになってもノレッタは止まってはくれなかった。それよりも、上へ上へと上がっていく…
「屋上から階下へとつながる隠し階段があるのです!ですから、妃殿下そこまで一気に参ります!」
階下で上がっただろう火の手は見る見る勢いを増したようだ。微かに臭っていた煙が既に視認できるようになって来た。
「ここです!」
行き着いたのはもう通路もない行き止まりだ。左に折れれば屋上へと出られるようになっている。けれどノレッタが指指したのは目の前の壁。
バンッ!!とノレッタはその壁を思い切り足で蹴飛ばした。厚く、硬いだろうと思っていた壁なのだが、女性が蹴飛ばした力で容易く倒れた。
外は深夜だ。明るい月明かりにのみ照らされた外気は肌を掠めると凍てつく寒さを伝えてくる。足元は暗くよく見えないが、先程倒された壁は足元の足場となったようである。
「ここは普段は外敵侵入禁止のために、足場が崩されているのです。この様に中からでないとこの階段は使えません。」
階下へつながる唯一の階段だ。人2人を優に通せる幅と簡易な手すりで作られている。赤の城の作りで地上6階分くらいの高さはあるだろうか。強風に煽らられればしゃがんで身を守るしかない程簡素な階段でもあった。
「階下では後2名侍女が控えております。さ、急ぎましょう!」
ここからしか城外に出る事叶わないのならば行くしかない。開けた壁の内側からは既に煙が差し迫っているのだから。
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