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3、相容れぬ二人 2
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その後の事は勿論覚えてはおらず意識を失ってから先程目が覚めたばかりだ。
「婚姻はどうなりました?」
本来であったらゲルテンに着いたその日に婚礼を上げる手筈であったはず。フリージアもゲルテンに赴いた直後に婚礼をあげよと言い含められていた。自分が国王の前で倒れてしまうなどの失態を犯してしまったことも信じられないが、国事である王の婚姻はそのまま中止になったのだろうか?
「恙無く……終わりまして……」
「終わった…?」
なんとも言いにくそうなマルクスの言。少しフリージアから視線を外した所も、あまり良い結果にならなかった事を示唆しているに違いない。
「あの…終わったとは……?」
「フリージア様がお倒れになった後…その、婚姻の取り交わしだけは済ませましたので…」
誰が……?フリージアの覚えている限り結婚式はあげてはいない。倒れたフリージアを式場にでも運んで見せかけだけでも整えたのだろうか?それとも誰か他の花嫁を立てて代役とした?
「証書の取り交わしだけで済まされたそうです…」
非常に申し訳ないと視線を外してマルクスは続ける。タガードとフリージアの結婚式はフリージア欠席のまま婚姻証書の取り交わしのみ両国の代表者が行ったと言うのだ。仮にも一国の王の結婚であるのに、それも花嫁を迎える立場であるのになんとも簡素な物ではないか。
フリージアは奴隷であった。なので貴族と同じ待遇をせよとはいえない立場だ。けれども政略結婚といえどその家々の威厳を表し形だけでも取り繕うのが普通の事と思っていたのに…
「私は……その場に要らなかったのですね…」
倒れた自分がきっと悪かったんだろう。公式な場にも出られなかったのだから…けれども結婚初日の結婚式で花嫁不要とは一体全体どう言うことか…
「旦那様は何と?…陛下は何と言っておられました?」
結婚の証書が取り交わされてしまったのならば契約は成ったのだろう。だとしたらゲルテンの国王タガードはフリージアの夫となった。挨拶の場だけで見たタガードは今どこにいるのだろうか。
「勝手に寝かせておけと…」
今、見えている外の景色から夕刻であろうことがわかる。昼間に着いたことからゲルテンに着いて既に数時間が経っていた。そしてすぐの結婚式に花嫁は要らず…結婚が成ったのならばきっと今夜は話に聞く所の初夜となるはず。
それを寝ておけと………?
フリージアは信じられなさすぎて頭が真っ白になる。花嫁には祝福も花嫁衣装も無く、初夜の褥には来なくて良いと…
いくらフリージアが奴隷であったとしても夫なる者からこんな侮辱を受けなければならないものだろうか?ましてやタガードはフリージアの身分を知らないのでは?主人と代わった事を知らないのならばそれは貴人に対して許し難い暴挙を働いたことと同じであるのに。
「なんで、こんな侮辱を………」
怒りと驚愕で手が震えてきてしまう。結婚式で花嫁が必要とされずに放って置かれた、それも幌が被せてあるだけの外にである。要らない花嫁と聞いたゲルテンの家の者達からはなんと言われるだろうか?
格式と品格と礼節を非常に重んじる帝国で育ったフリージアに取っては非常に耐え難い屈辱である。だからといって主人の命に逆らって自害などもっての他であろう。フリージアの矜持よりも国と国の安寧に重視すべきであろうと言う事も理解できるから。
「フリージア様まずは、お食事をお取りください。これからの事はそれから考えましょう。」
ワナワナと震えているフリージアに心なしか血色の良くないマルクスが食事を進める。
「………分かりました……」
やっとの事、怒りも何もかも無理矢理に呑み込んで、マルクスの言葉に従おうと空腹を満たすべく晩餐の席に着こうとフリージアは立ち上がる。
「マルクス、晩餐の場所はどこです?」
「ございません。」
「…………食卓は…?」
「………ございません。」
「ここで、食べるのですか?」
ここ、フリージアが寝かされていた場所はかろうじて砂地の上に厚手の敷物が何枚か重ねて敷かれているもののようだ。そこに寝台ならぬ寝所に代わる厚手の敷物が敷かれていたのだ。四方には木製か金属製の支柱が何本か地に刺して立てられている。それに幌が張ってあり陽と僅かな風とを防いでいる作りだ。なのでほぼ外である。
「フリージア様、こちらに。」
マルクスがスッと差し出してきたのは布が掛けられている大きな盆だった。
「こちらが本日の晩餐になります。」
かけ布を取ると彩り良く盛り付けされた数種の料理が並んでいた。どうやらフリージアの為にここまで持って来てくれた様である。
「卓は無いのですか?」
奴隷であっても皆食卓に着くのが慣わしであろう。主人の所には奴隷であっても専用の食堂、食器、浴室に寝室。生活に必要なものは全て揃っていたのだ。それなのにここでは地にそのまま座って食べろと言う…
すぐそこは地面だ。風が吹き込めば砂埃も入ってくる。
ここには石で造られた壁も大理石の床もない。磨き込まれた机や椅子に食事毎に使い分けるカテラリーも…晩餐だと言うのに妻と共に食事を取ろうとする夫もおらず華やかな楽師達の音色も無い。ありとあらゆるものが違ってフリージアはただただ呆然とする…
「婚姻はどうなりました?」
本来であったらゲルテンに着いたその日に婚礼を上げる手筈であったはず。フリージアもゲルテンに赴いた直後に婚礼をあげよと言い含められていた。自分が国王の前で倒れてしまうなどの失態を犯してしまったことも信じられないが、国事である王の婚姻はそのまま中止になったのだろうか?
「恙無く……終わりまして……」
「終わった…?」
なんとも言いにくそうなマルクスの言。少しフリージアから視線を外した所も、あまり良い結果にならなかった事を示唆しているに違いない。
「あの…終わったとは……?」
「フリージア様がお倒れになった後…その、婚姻の取り交わしだけは済ませましたので…」
誰が……?フリージアの覚えている限り結婚式はあげてはいない。倒れたフリージアを式場にでも運んで見せかけだけでも整えたのだろうか?それとも誰か他の花嫁を立てて代役とした?
「証書の取り交わしだけで済まされたそうです…」
非常に申し訳ないと視線を外してマルクスは続ける。タガードとフリージアの結婚式はフリージア欠席のまま婚姻証書の取り交わしのみ両国の代表者が行ったと言うのだ。仮にも一国の王の結婚であるのに、それも花嫁を迎える立場であるのになんとも簡素な物ではないか。
フリージアは奴隷であった。なので貴族と同じ待遇をせよとはいえない立場だ。けれども政略結婚といえどその家々の威厳を表し形だけでも取り繕うのが普通の事と思っていたのに…
「私は……その場に要らなかったのですね…」
倒れた自分がきっと悪かったんだろう。公式な場にも出られなかったのだから…けれども結婚初日の結婚式で花嫁不要とは一体全体どう言うことか…
「旦那様は何と?…陛下は何と言っておられました?」
結婚の証書が取り交わされてしまったのならば契約は成ったのだろう。だとしたらゲルテンの国王タガードはフリージアの夫となった。挨拶の場だけで見たタガードは今どこにいるのだろうか。
「勝手に寝かせておけと…」
今、見えている外の景色から夕刻であろうことがわかる。昼間に着いたことからゲルテンに着いて既に数時間が経っていた。そしてすぐの結婚式に花嫁は要らず…結婚が成ったのならばきっと今夜は話に聞く所の初夜となるはず。
それを寝ておけと………?
フリージアは信じられなさすぎて頭が真っ白になる。花嫁には祝福も花嫁衣装も無く、初夜の褥には来なくて良いと…
いくらフリージアが奴隷であったとしても夫なる者からこんな侮辱を受けなければならないものだろうか?ましてやタガードはフリージアの身分を知らないのでは?主人と代わった事を知らないのならばそれは貴人に対して許し難い暴挙を働いたことと同じであるのに。
「なんで、こんな侮辱を………」
怒りと驚愕で手が震えてきてしまう。結婚式で花嫁が必要とされずに放って置かれた、それも幌が被せてあるだけの外にである。要らない花嫁と聞いたゲルテンの家の者達からはなんと言われるだろうか?
格式と品格と礼節を非常に重んじる帝国で育ったフリージアに取っては非常に耐え難い屈辱である。だからといって主人の命に逆らって自害などもっての他であろう。フリージアの矜持よりも国と国の安寧に重視すべきであろうと言う事も理解できるから。
「フリージア様まずは、お食事をお取りください。これからの事はそれから考えましょう。」
ワナワナと震えているフリージアに心なしか血色の良くないマルクスが食事を進める。
「………分かりました……」
やっとの事、怒りも何もかも無理矢理に呑み込んで、マルクスの言葉に従おうと空腹を満たすべく晩餐の席に着こうとフリージアは立ち上がる。
「マルクス、晩餐の場所はどこです?」
「ございません。」
「…………食卓は…?」
「………ございません。」
「ここで、食べるのですか?」
ここ、フリージアが寝かされていた場所はかろうじて砂地の上に厚手の敷物が何枚か重ねて敷かれているもののようだ。そこに寝台ならぬ寝所に代わる厚手の敷物が敷かれていたのだ。四方には木製か金属製の支柱が何本か地に刺して立てられている。それに幌が張ってあり陽と僅かな風とを防いでいる作りだ。なのでほぼ外である。
「フリージア様、こちらに。」
マルクスがスッと差し出してきたのは布が掛けられている大きな盆だった。
「こちらが本日の晩餐になります。」
かけ布を取ると彩り良く盛り付けされた数種の料理が並んでいた。どうやらフリージアの為にここまで持って来てくれた様である。
「卓は無いのですか?」
奴隷であっても皆食卓に着くのが慣わしであろう。主人の所には奴隷であっても専用の食堂、食器、浴室に寝室。生活に必要なものは全て揃っていたのだ。それなのにここでは地にそのまま座って食べろと言う…
すぐそこは地面だ。風が吹き込めば砂埃も入ってくる。
ここには石で造られた壁も大理石の床もない。磨き込まれた机や椅子に食事毎に使い分けるカテラリーも…晩餐だと言うのに妻と共に食事を取ろうとする夫もおらず華やかな楽師達の音色も無い。ありとあらゆるものが違ってフリージアはただただ呆然とする…
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