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手を取る喜び

3 雪溶け 3

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…公主であるトライトスです…

 神官ホートネルの言葉が公妃シャイリーの頭から離れない。

(まさか、そんな……でも、)

 自分の中で納得できるまで、心は右往左往しながら揺れていく。
 
 けれど、全て腑に落ちるのだ。ホートネルの言葉が真実だとしたら……

 毎夜の霊廟通い、苦しそうな表情や視線に切なそうに呼ぶ声。素朴なお花の捧げ物や、再三にわたる側妃の拒否……

(私の事を…?思っていて、下さった?)

 閉氷地ナーラスからの帰城後もフワフワと浮き立つ様な心を抱えたシャイリーは公主トライトスの側にいる。






「どうしてすぐに言わなかった………!」

 吉兆が見えたというのに、帰城してきてからのトライトスは機嫌が悪い。機嫌の悪さは主に兄である神官ホートネルに対してだ。

「ですから、私の方でも確信を得られぬうちはおいそれとこの様な話ができなかったのです。」

 もう何度目になるだろうか、この言い合い。白狐の件から事情を全て聞いたトライトスは時折この様に臍を曲げる。

「最初から知っていれば……」

「知っていたら、どうされました?いずれ何とかなるだろうと、あの方の元に参ずる事を辞めましたか?」

「馬鹿な事を。知ってたとしても辞めるわけは無いだろう?俺が望んだ正妃なのに…」

 一度も墓に行かないなんて、そんな薄情な事が出来るわけはない。

「だ、そうですよ?妃殿下。」

(や、もう、やめて下さいません?恥ずかしすぎて………)

 不思議な事に、ナーラスから帰った後、シャイリーは子狐達の所に行く事ができなくなってしまった。行けるところは、トライトスの元か、神殿になるわけだが、こんな辱めを受けながらもまだシャイリーがトライトスの元を離れていかないのには訳があるのだ。

 神官ホートネルは最初から全てを公主トライトスに話した。シャイリーの魂が常に共にいて、ホートネルと相談しながらも過ごしてきたことも今やトライトスは知っている。そして、狐の件を受けてホートネルから相当量の魔力を注ぎ込まれているシャイリーが目覚め間近なことも……






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