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公主の求めた者
17 地魔力 2
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(ここ……?)
目の前に広がるのは太陽の下で見る真っ白の雪原…だったはずなのだが、今、周囲は自然の陽光に比べると酷く暗い……そしてシャイリーにとっては良く知っている場所だ。
(…霊廟?)
地下に洞窟の様に掘られているバルビス家代々の墓だ。
(戻って…来た、のですか?)
自分で戻ろうと思ってもどこにも移動できなかったシャイリーはまたここに強制的に戻されたらしい。
(ここにいると言うことは……)
眼下には懐かしい黒髪が……
(殿下…?)
辺りはまだ陽が高かったはずだ。いつもならシャイリーの夫であるトライトスは仕事が全て終わった深夜に霊廟に訪れていた筈であるのに…
そのトライトスがいつもの様に厳しい顔つきのままじっと見つめているのはシャイリーが入っている氷の棺だ。殺風景なこの霊廟の中で一番奥にシャイリーの氷の棺は安置されている。見慣れたとはいえ、自分の死に顔を再度見る事になろうとは少しばかり心穏やかではいられない。が、シャイリーにとってはそんな異様な空間にも、ふと目を引く物があった。
シャイリーの氷の棺の前にはいくつもの氷の塊が並んでいる。
(何かしら?)
等間隔で綺麗に並ぶ、シャイリーには見慣れない氷の塊。よく見るとその一つ一つの中に懐かしい花が入っているのが見えた。
(まぁ!アールストの花ね?)
このバルビス公国では決して育てることのできない常夏の国の花。アールスト王国から送って貰った物か、トライトスがアールスト王国から持って帰った物だと思われる。
(わざわざ…?私の為に?)
状態の良い花は綺麗に氷に収められていて丁寧に扱ってもらっていた事が手に取る様にわかる作りだった。そんな物が自分の棺の前に備えられている事がシャイリーには不思議だった。
(貴方様はもう…次の妃をお迎えにならなければ…)
後継を残す事は義務なのだから。その為の妃は何人いてもいいのだから。シャイリーは身の置き所なく文字通りふらふらした状態だが、トライトスは違うのだ。生きている限り、当主としての務めは果たさなければならないだろう。
(私の事は、もう…お忘れくださいね……)
何度かそう語りかけて来たがそのいずれもトライトスには届かない。唯一会話ができる神官ホートネルにそう伝えても、トライトスには伝わっていない様だからシャイリーはほとほと困ってしまう…
目の前に広がるのは太陽の下で見る真っ白の雪原…だったはずなのだが、今、周囲は自然の陽光に比べると酷く暗い……そしてシャイリーにとっては良く知っている場所だ。
(…霊廟?)
地下に洞窟の様に掘られているバルビス家代々の墓だ。
(戻って…来た、のですか?)
自分で戻ろうと思ってもどこにも移動できなかったシャイリーはまたここに強制的に戻されたらしい。
(ここにいると言うことは……)
眼下には懐かしい黒髪が……
(殿下…?)
辺りはまだ陽が高かったはずだ。いつもならシャイリーの夫であるトライトスは仕事が全て終わった深夜に霊廟に訪れていた筈であるのに…
そのトライトスがいつもの様に厳しい顔つきのままじっと見つめているのはシャイリーが入っている氷の棺だ。殺風景なこの霊廟の中で一番奥にシャイリーの氷の棺は安置されている。見慣れたとはいえ、自分の死に顔を再度見る事になろうとは少しばかり心穏やかではいられない。が、シャイリーにとってはそんな異様な空間にも、ふと目を引く物があった。
シャイリーの氷の棺の前にはいくつもの氷の塊が並んでいる。
(何かしら?)
等間隔で綺麗に並ぶ、シャイリーには見慣れない氷の塊。よく見るとその一つ一つの中に懐かしい花が入っているのが見えた。
(まぁ!アールストの花ね?)
このバルビス公国では決して育てることのできない常夏の国の花。アールスト王国から送って貰った物か、トライトスがアールスト王国から持って帰った物だと思われる。
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状態の良い花は綺麗に氷に収められていて丁寧に扱ってもらっていた事が手に取る様にわかる作りだった。そんな物が自分の棺の前に備えられている事がシャイリーには不思議だった。
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後継を残す事は義務なのだから。その為の妃は何人いてもいいのだから。シャイリーは身の置き所なく文字通りふらふらした状態だが、トライトスは違うのだ。生きている限り、当主としての務めは果たさなければならないだろう。
(私の事は、もう…お忘れくださいね……)
何度かそう語りかけて来たがそのいずれもトライトスには届かない。唯一会話ができる神官ホートネルにそう伝えても、トライトスには伝わっていない様だからシャイリーはほとほと困ってしまう…
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