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揺蕩い行く公主の妻

18 ルシュルー妃の決意 8

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 しかし平静を装ってはいても上がってくる息遣いは隠しようも無く…たった数メートルの距離であっても今のルシュルー妃にとって困難なものに思えた。
 兄であるトライトスは少し眉を寄せるが何も言わず、歩調を極ゆっくりとさせてルシュルー妃をエスコートする。

「………」

 顔は穏やかな微笑みを絶やさないルシュルー妃だが、トライトスに握られている華奢な手は小刻みに震えていた。

「ありがとう存じます。」

 周囲から見てもやっとの思いでルシュルー妃は席に着いた。

「第3側妃殿…お加減がお悪いのでしたら無理をなさらず休んでいてもよろしいのでは?」

 ルシュルー妃が席に着いた途端に王妃ミレジューから声がかかった。

「いいえ…王妃殿下。私の常が休んでいる様なものですもの。お役に立てる時に、その場にいなくては私がここにいる意味がありませんわ。」

「殊勝ですわね?病弱な其方にできる事は多くはないでしょうに…」

「ええ…左様です、王妃殿下。ところで兄上、シャイリー様はお元気にしておられますか?」

 ピクっとトライトスの眉が動いたのは気のせいでは無いだろう。

「すまないが此度はこちらにお連れする事ができなかったのだ。」

「えぇ。そうでございましょうね。私の所にも詫び状が届いておりましてよ?」

「詫び状?」

「ん?ルシュよ、シャイリーからか?」

「はい。陛下左様にございます。こちらに来られない旨を甚く悲しんでおられましたわ。」

「おかしいですわね?第3側妃殿?シャイリー様は利き手を怪我されたとか。こちらには返礼状一つ来ておりませんのよ?」

 先ほどまでの話では、シャイリーは手紙が書けないとアールスト国王に伝えたばかりであった。けれど、ルシュルー妃の元には手紙が来ているという。

「まぁ!利き手を?それはご不便でしょうね。だからなのですわね?シャイリー様の御自筆に間違えはないでしょうけれど、妙に字体が乱れておいででしたもの。」

「ほう、そうか。なんと言ってきていた?」

「…こちらに来られないことの謝罪と………」

 少しだけ、ルシュルー妃はその後を言い淀む。

「ルシュ?」

 言い淀み、言葉を止めてしまったルシュルー妃にアールスト国王はその先を促した。

「………自分の役目を、しっかりと果たしますので…はお忘れください、と……」

(義姉上……)

 自分の役目は供物姫としてその国に留まる事だからだ。
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