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揺蕩い行く公主の妻

13 ルシュルー妃の決意 3

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 クスリ……

 ほんの少し表情を崩してバルビス公主トライトスが微笑んだかの様に見えた。

(あら、殿下…今笑われて……?)

 嫁いでからちゃんと顔を合わせて話したのは最初の結婚式の時のみだ。この様になってトライトスの側にずっといる今も微笑んだ顔なんてここ最近見てさえもいなかった。

 少し悲しい様な、懐かしい様な、ふとしたら泣いてしまうんじゃないかと思える様なそんな弱々しいトライトスの笑顔。

「元気ならばそれで良い、と思っていたのだが…」

「陛下?」

「バルビス公に提案がある。」

 唐突なアールスト国王の提案。

「何でございましょう?」

「シャイリーを里帰りさせてはどうか?」

「は…?何ですと…?」

 妃を里帰り…?まだ婚姻を結んでより数ヶ月しか経っていないのに?

(お兄様?)

 これにはシャイリーも首を傾げてしまう。まだ両国の間は全き安寧というわけでは無い。何かと理由をつけてバルビスを完全にアールスト国の傘下に置きたいと公言している貴族達は多いのだ。そして呪われた地と言われているバルビス公国の人々を冷たい目で見るもの達もまだ多い。

 それは王族の中でも例外はなくバルビス公国を呪われた地として意味嫌い、国王の第3側妃ルシュルー妃に対してもよく思っていない妃や臣下もいる。シャイリーが嫁ぐ前は、シャイリーがルシュルー妃に懐き親しくしていたが為に、表立ってルシュルー妃に辛く当たる者達が少なかっただけであった。

 アールスト国王の提案はルシュルー妃とシャイリーの里帰りである。体調も思わしく無いであろう両者の為に、しばし祖国で療養を取ったらいかがか、というもの。両妃の為を思えば素晴らしい提案ではあった。

 が…バルビス公国側にはこれに答えられないがある。

「陛下。嫁に出した妹が惜しくなられましたか?」

 シャイリーの輿入れはバルビス公国側、トライトスからの強い要望であった。しかし、大事な最後の妹を過酷な地へと嫁がせた自責の念に一国の王ともあろう者が耐えられないとでもいうのだろうか。

「なに。離縁して帰ってこい、というのでは無い。シャイリーにもルシュルーにもお互い辛い所にいるのだ。数年に一度くらいは体調改善の名目で帰ってくれば良いと思ったのだが?」

 真面目な話をしているのだが、それは到底、無理な話だろう…



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