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揺蕩い行く公主の妻

1 アールストからの手紙 1

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 バルビス公妃シャイリーの実兄アールスト国王ケイトルからバルビス公主宛に手紙が届く。
 ケイトルの第3側妃ルシュルー妃の為に、シャイリーと共に慰問に訪れてはくれないかというものだ。ルシュルー妃はバルビス公主トライトスの実妹であり、シャイリー公妃もルシュルー妃とアールストにいる時には仲良くしていたのだから、伏せりがちの妃のために、と心を尽くす国王の愛情故から出る招待の様にも受け取れる。

 が、相手は一国の王なのだ。そしてアールスト国はバルビス公国と比べ物にもないほどに大国で有る。たかだか1人の妃のために公主を呼びつけることはまずないだろう。

(国交がらみですのね?)

「十中八九、左様でしょうね。」

 アールスト国王は大層第3側妃ルシュルーを大切にしていると聞く。それはこの国にとっても実兄の公主にとっても喜ばしいことでは有るが、純粋な愛情故と考える方が多少なりとも無理があるのだ。

 ルシュルー妃の慰問のためと、シャイリー妃を伴う様にと手紙には書かれていたそうだが、果たしてその真の目的は何であろうか。

(お兄様はルシュルー様を大切になさっていると思ってましたわ。)

「少なからず表面上はそうでなければ成り立たない婚姻ですから…」

(そうなのです…それは、私にも言えることですもの…)

 だから、今回シャイリーを連れて行けないバルビス公国側は大きな瑕疵を背負う事になる。

「一国の王であるとしても、お互い親族を優先する事は叶いませんしね…」

 何か心配事があったとしても、お互いに駆けつける事も、時にはそうと知っていて見捨てなければならない事もままあるのだ。

(……充分に存じておりますわ…ですから、余計にルシュルー様が心配なのです。)

 たった1人で嫁いで来たルシュルー妃の姿は、今の自分が通るであろう道だったから。


 








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