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バルビス公国への旅立ち

6 バルビスの花嫁 2

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「私、ぜひとも白ギツネに会ってみたいです!」

 バルビス公国に対して良い印象を持っていなかったマリーンだが、シャイリー王女の話を聞いて数日過ごした後にはすっかりとバルビス公国の魅力にはまってしまった様だ。特に、アールスト国では見られない雪国ならではの動物達の姿には心打たれた様で是非とも雪原で一度本物を見たいとまで言い出す。

「ね?魅力ある国でしょう?」

「えぇ…左様ですわ。でも、それだからこそ、口惜しうございますわ。」

 楽しそうに笑い合っていたマリーンの顔が再び曇る。どうしても、きっと王女シャイリーにとっては、これは幸せな結婚にはならないだろうから…兄王の第3側妃であるルシュルー妃が健在であったなら、意中の相手とは言わなくとも国内で婚姻し、ある程度の幸せだって望めたかも知れなかったのに、バルビス公国に嫁いだなら………
 シャイリーは自分の為にしゅん、としてしまった侍女マリーンの手を両手で握りしめた。

「良いのよマリーン。私はきっと公主様に愛されることはないでしょうから。」

「殿下!?そんなことはございませんわ!殿下はいつもお優しく明るくおいでで、愛らしくあられますもの!お仕えしている私共もそんな殿下ですから、心から心配しているのです!」

「ありがとう。でも良いのです。義姉上の事もありますし、私はきっと歓迎されはしないでしょう。表面上は良くしてくれるとしても公主様は正妃をお迎えになって私は隅に追いやられるはずです。」

 バルビス公主は未だ妃を迎えておらず今年26歳になると記憶している。アールスト国でもそうである様に、必ずしも他国から嫁いでくる妃が正妃である必要はないのである。シャイリーとの結婚は悪魔でも両国の和平の手段には必要不可欠のものであって、そこに愛情は必要はないのだから。

「そんなことはございません!ええ、絶対に!必ず、私達の王女殿下は幸せになりますとも!ええ、必ず!!」

 マリーンはシャイリーの手をしっかりと握り返しながら、大きく何度も肯いた。マリーンのそれはまるで祈りをこめるかの様に何度も何度も…

「ありがとうマリーン。最後まで付いてきてくれたのが貴方で良かったわ。私の事なら本当に良いのよ?初めからもう結果が見えている様な結婚ですもの。だから、思い切り楽しむことにしましたの!」

「シャイリー殿下…?」

 すっきりと吹っ切れた様なシャイリーの表情は今の言葉が本心である事を物語っていた。

「ふふふ。アールスト国ではほとんど城の中でしか過ごせなかったのだもの!物語の中でしか見られなかった雪遊びに、氷菓も自分で作りたいし。氷の上も滑って進んでみたいし、雪の中に佇む逞ましい動物達も見るの!」

 公主の妻となる身としてどこまで実現できるのか、どこまでの自由があるのかわからないながらも、シャイリーは自分の夢を口にする。これは第3側妃として嫁いできたルシュルーもしていた事で、まだ元気であった婚姻直後は2人で楽しんでいたりしたものだった。

「ね?だから私は大丈夫!現金にも私はこの婚姻を楽しもうとしているのだから。お兄様国王陛下も皆も心配しすぎなのだわ。ね?」

 首を傾げて微笑むシャイリーの柔らかな蜂蜜色の髪が日を受けてキラキラと光った。愛されなくても大丈夫。煌めく様な眩しいその笑顔はまだ希望は失っていないと語っている様だった。

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