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7 虫除けが必要ですね

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 シェラインの覚悟は生半可なものではない。幼い頃からの王城詣は城中の者達を認めさせ、国王にさえも口出しをさせなかったのだから。
 が、ルイストールの夢は一人の覚悟だけではどう考えてもなし得なかった。だから良く策を練る必要があったのだ。  

 表向きには今まで通り。シェラインはルイストールの婚約者として足繁く城へと通う。そして自分の立場をしっかりと守り強固とするべく立ち回った。

 王太子となるのは気の弱そうで、押しに弱そうなルイストールである。自分の周りには極親しい侍女か侯爵令嬢シェラインしか寄せ付けない様な…
 パッセンテージ王国の王の妃となる者は一人だけとは限らない。次代の国王が産まれれば良いわけで、産まれなければ新たに妃を迎え入れる事もあり得る。前国王は賢王と謳われるに相応しい人物で、それは自分の妃に対してもであった。前王の場合、王子を望めなければ、国王の義務として側妃も致し方なしと言う姿勢であったが、幸いな事に前王妃はルイストールを授かった。周囲の者達は更に他国からも側妃を迎える様にと再三たる進言を上げたのだが頑としてそれには首を縦には振らず、政略結婚の中であったとしても王妃に誠実に対応していたのだ。
 そして現国王はそのルイストールに遠慮してか、ルイストールが王太子となって成人し、成婚するまでは自分の妃を娶らないと言う。
 これを聞いた臣下達は何と思うだろうか?何としてでも国王の気持ちを動かして自分達の娘を王妃の座へと着かせるべくあの手この手を使ったそうな。が、国王はそんな輩をことごとく冷たく足らい目の端にも入れなかった。だとしたら、次は扱いやすそうなルイストールに目が行くわけである。人見知りをする様な内気な王子だが、侯爵令嬢には良く懐いている。では、シェライン嬢に似た娘ならばどうか?コールテン侯爵家も王城で好き勝手をして王子を独り占めにしているのならば、同等の家の者が同じようにしても良いではないか、との理由で年を追うごとにルイストールの周囲が煩くなってきたのである。我こそはと言う家の娘又は息がかかった者をルイストール王子の側妃として指名してもらうために。シェラインがしてきた様にルイストールの部屋に訪室してきたり、許可されていない者が世話係の侍女として紛れていたり、明らかに公の場でシェラインに対し苦言を呈してくる家もあった。
 まだ子供であるから間違えは起きないだろうが、それでも何か弱みを握られてしまえばそれを材料に交渉してくる様な輩もいるだろう。だから、なるべくならば次期王太子側妃運良く行けば王太子妃になると言う欲に目が眩んだ者達からの接触は絶対に避けたい所であるのだ。

 気の弱いルイストールでは言葉巧みに言い寄ってくる令嬢やら侍女やらをあしらうことなど至難の業だろう。だからその役をシェラインが買って出たのである。シェラインは自他共に認めるルイストールの婚約者だ。だから、王子の隣にいる権利は自分が一番先であると、いつでも、どこでも、どんな時でも主張し始めたのだ。

 ルイストールの参加する茶会でルイストールが令嬢達に囲まれていれば、その人垣を強引に割ってでも崩しにかかる。少しでも他の令嬢が親しみを込めてルイストールを呼ぼうものならば、その場で叱責した。それ位ならばまだ良い方で、親しげに話しかけるだけでは治らず、あろうことかルイストールの身体に触れようとする者がいたならば、触れようとするその手を扇で叩き落とし、侍女としてルイストールの部屋へ侵入しようとする者がいたならば容赦なく近衛に引き渡し手引きした家名を晒した。また足繁くに国王とも謁見し、王家との関係は良好であり国王もシェラインを酷く可愛がっていると言う様を周囲に見せつけたのだ。

 一見、シェラインのこの姿は独占欲と嫉妬に駆られた狭量な対応として一部の貴族達から陰口を叩かれ、この様な無情な令嬢が次期王妃にはそぐわないとまで騒がれる様にもなる。が、分別がある貴族達からはシェラインの立場上当たり前のことであって、身分と立場の違いははっきりと隔てるべきであるとの理由でシェラインの行動を後押しする声もあった。
 なかなかに自分達の思惑が進まない貴族達はこれも非常に面白くはない。せめてもの意趣返しにとシェライン侯爵令嬢自身の評判を落とす為に悪評をばらまくのだった。

 酷い悋気持ちの癇癪玉。侍女や目下の者をゴミの様に扱う傲慢で無慈悲な令嬢。まるで最早城の中は我が物の如くに好き放題に振る舞っているとか。すっかりと令嬢の尻に敷かれた王子は勿論何も言えず、既に重鎮達をもシェライン侯爵令嬢の尻に敷かれているとか。この状態の令嬢に何も苦言を呈さない国王も令嬢の奸計にはまり何か弱みでも握られているのではないか。と言いたい放題の悪評が飛び回った。悪評がシェラインばかりではなく王子や国王までも飛び火すれば自然と王の耳にも入るというものだが、シェラインは一向に気にする様子もなかったのである。





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