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4 私の妖精さん 1

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 ルイストールの顔を意識してマジマジと見たのは何歳の頃だったか…?シェラインは赤子の時から事あるごとにルイストールと顔を合わせ共に過ごしてきたのだから、それが当たり前で改めて隣にいるルイストールの容姿に気を取られてジッと見つめることなんてそれまでなかった様に思う。

 真正面にルイストールを見つめ、そのキラキラ光るエメラルドの瞳に吸い込まれそうになる感覚は嫌じゃなかった。物凄く綺麗で何度か賞賛の言葉が出たのでは無いだろうか。今よりももっと柔らかくふんわりとしたパールピンクの髪から光が溢れ出ている様に見えて、本当に人間かしらと小首を傾げたものだ。その様はシェラインが幼い頃大好きだった絵本の中の妖精に瓜二つ。甘えん坊で寂しがり屋、でも底抜けに優しい、シェラインが想像していた妖精の姿に。
 その日からシェラインは大好きになったのだ。空気の様な存在のルイストールが大好きな人に。その気持ちは今日まで引き続いてちっとも薄れることなどなかった。憧れの様な更には何かもっと尊い物を崇めるかの様に、ルイストールの一挙手一投足を見逃すまいと王城への日参に拍車をかける様にもなったのだった。

 全てが可愛い、全てが尊い、全てが愛しい……婚約者なのだから人として好きになる事、愛する事はおかしなことではなかったし、仲睦まじまい姿を見る者達からは優しく微笑ましい対応をしてもらえるし、シェラインがルイストールを愛でる事はちっともおかしなことでは無いとシェライン自身に刷り込まれてしまってから、シェラインはルイストールの秘密を知るようにもなった。

 ルイストールは非常に大人しい子供だった。同じ年頃の子供達を集めて遊ぼうにも、シェラインの陰に隠れてモジモジしていて、自分から子供達の輪に入っていけない様な内気な子供だ。何人もが王子とお近づきになりたくてあの手この手で遊びに誘う。けれど誰にも靡かずにルイストールはジッと周囲を窺っていた。周りにいる子供達は一人また一人と離れていって好き勝手に遊び始める。そんな様を遠目で見ているのが好きな子供だった。そして、シェラインも勿論そんなルイストールに付き合って子供達の輪を見ているのだった。そんな王子につきっきりでちっとも遊ぶことができないシェラインを心配して、侍女達が何度も遊びに誘ってくれた事はある。が、シェラインは全て断ってきたのだ。

 だって、ルイストールの隣にいたかったから。何も言わず、子供達をジッと見つめているだけのルイストールだけど、良く見ると時折表情が変わるのだ。それはほんの少しの変化で良く良く見ていなければちっともわからないものだが、ルイストールの全てを見てしまいたいと思っているシェラインにとっては、その一つ一つが新しい宝物を発見するが如くに喜ばしかった。


……いつでもどこでも、どんな所ででも見ていたいくらいだわ……


 オドオドする姿も、笑顔も、真剣さも一つも逃さずに……


 その願いが行きすぎてシェラインは夜も明けぬ前から身支度をし、ルイストールが起きる時間を狙っては王城に参じ、王子を起こし身支度を手伝う…そんなシェラインの姿は益々仲睦まじやかなお二人としてすっかりと城内にも定着していき、王もシェラインの好きにする様にと早朝より王族を訪ねるなどの無作法を綺麗に流していたものだ。
 シェラインはまるで通い妻の如くに自分の時間を使いルイストールの元に通い詰めた。
 その行動の全ては、シェライン自身の欲望を満たすため、だったのだが……

 10歳の誕生日を超えた頃だろうか。いつもの様に王城に行き、ルイストールを起こし朝食を食べさせ、王に謁見して城を辞する。シェラインの日課が今日も始まろうとしていた。ルイストールの元に行くためならば、早起きしても眠さも気にはならない。シェラインは足取りも軽くあどけない顔で寝入っているルイストールの寝室へと歩を進めていく。

 いつもと同じ朝。可愛らしい寝顔を堪能したら、優しくルイストールを起こそうと寝台の横に来た時に、シェラインはそれを発見した。

 光が弾ける様な色使い、躍動感に溢れる者達の動き…吸い込まれる様に、シェラインは一枚の絵に引き込まれてしまった。

 朝日が入る部屋の中は、目を細めたくなる様な眩しさに溢れる事があるけれど、シェラインが絵画を見てそんな気分になったのは今日が初めてだった。

「………う~~ん……」

 まだモゾモゾと寝返りを打って起きそうも無いルイストール…相変わらずに可愛らしい顔にシェラインの口角は自然に緩んでいく。

「殿下が?これを描かれたのですか?」

 思わず、まだ起きてもいない相手に疑問をぶつけてしまうほどにはシェラインは驚いていたのだろう。案の定ルイストールからの答えはない。スゥスゥという規則正しい寝息だけがその部屋に響いている。

「凄い!凄いですわ!!私の殿下はこんな才能をお持ちなのね?」

 外見だけでなく、ルイストールのその人となりをも全て受け入れるほどルイストールの事が好きなシェラインは、その場で一人歓喜に小躍りしたという。







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