45 / 47
ラント外伝 求めているもの
6 不思議な森で
しおりを挟む
歩けども歩けども道は途切れず、随分と奥まで進んできた。途中獣にも遭遇せずその物音さえも聞こえなかった。かなり深い森であるのに、相当な管理態勢を敷いているのかここの領主の素晴らしい手腕が窺える。そろそろ管理小屋なりが現れても良さそうなものなのだが、このままでは獣に襲われるよりも疲労で動けなくなりそうだ。
それでも暫く進むと森を抜けたのか……?鬱蒼としている森に似つかわしくない程に小道は整い歩き易かった。だからか体力もそれ程奪われはしなかった様だ。森を抜けると、少し広々とした所に出た。しかし、それでもまだ目の前に広がっているのは森……鬱蒼とした木々はないが大きな広場くらいはありそうな草原が広がっている奥にはさらに森がある。森の切れ目、ここは丁度そんな場所だった。
水音がする。下草に隠れて泉があった。
「助かった……」
歩き疲れて喉は潤したが、体の渇きが満たされた分顕著に浮き上がって来てしまった心の渇きまでは、この水では癒してはくれなさそうだ。
"何に乾くの?"
「…!?」
声がしたか?ここに来るまで一人として人と会わなかった。この広場にもその奥にも人がいる様な気配はないのだが?
「…乾くと…聞いたのか……?」
"そう。何に乾く?"
確かに!人の言葉だ!!バッと立ち上がって周りを見回す…やはり、いない………!しかし、確かに聞いた!
「誰だ!!どこにいる?」
"お前の求める者が見えない…誰を求める?"
『声』が答えた!
「どこにいるのだ!姿を見せてくれ!」
"私は、ラッキービーナ。お前が求めるものの姿になろう。誰を求める?"
ラッキービーナ………??なんだ、それは?
人の名前か?居るのならば出て来て欲しい。必死で歩いて来たのだから体はくたくたで休む場所も欲しかった。
それに、求める?……誰を…求める?会いたい者のことか?それならばもう居ないだろう……自分はこんなにも深い森の中へ捨て去られたのだから。最初から居なかったのだ、会いたい者も、大切な者も、愛することすら知らない自分には……だがまたもや、心が渇望する…
愛してみたかった……と……
メルルーシェと共に居るだけでかつての腹心は見た事もない様な幸せそうな顔をしていたのだ。メルルーシェもそうだった。愛を知っていれば自分もああなれていたのだろうか?
「……そうだ。愛したいんだ……
心から、愛せる人が欲しい……
心から、人を愛し続けていきたい……」
「それが、お前の望み?」
ハッキリと聞こえた。先程までの朧げな声では無くて目の前からハッキリと……
目を上げると、濃い紫の瞳の少女がそこに立っていた。
それでも暫く進むと森を抜けたのか……?鬱蒼としている森に似つかわしくない程に小道は整い歩き易かった。だからか体力もそれ程奪われはしなかった様だ。森を抜けると、少し広々とした所に出た。しかし、それでもまだ目の前に広がっているのは森……鬱蒼とした木々はないが大きな広場くらいはありそうな草原が広がっている奥にはさらに森がある。森の切れ目、ここは丁度そんな場所だった。
水音がする。下草に隠れて泉があった。
「助かった……」
歩き疲れて喉は潤したが、体の渇きが満たされた分顕著に浮き上がって来てしまった心の渇きまでは、この水では癒してはくれなさそうだ。
"何に乾くの?"
「…!?」
声がしたか?ここに来るまで一人として人と会わなかった。この広場にもその奥にも人がいる様な気配はないのだが?
「…乾くと…聞いたのか……?」
"そう。何に乾く?"
確かに!人の言葉だ!!バッと立ち上がって周りを見回す…やはり、いない………!しかし、確かに聞いた!
「誰だ!!どこにいる?」
"お前の求める者が見えない…誰を求める?"
『声』が答えた!
「どこにいるのだ!姿を見せてくれ!」
"私は、ラッキービーナ。お前が求めるものの姿になろう。誰を求める?"
ラッキービーナ………??なんだ、それは?
人の名前か?居るのならば出て来て欲しい。必死で歩いて来たのだから体はくたくたで休む場所も欲しかった。
それに、求める?……誰を…求める?会いたい者のことか?それならばもう居ないだろう……自分はこんなにも深い森の中へ捨て去られたのだから。最初から居なかったのだ、会いたい者も、大切な者も、愛することすら知らない自分には……だがまたもや、心が渇望する…
愛してみたかった……と……
メルルーシェと共に居るだけでかつての腹心は見た事もない様な幸せそうな顔をしていたのだ。メルルーシェもそうだった。愛を知っていれば自分もああなれていたのだろうか?
「……そうだ。愛したいんだ……
心から、愛せる人が欲しい……
心から、人を愛し続けていきたい……」
「それが、お前の望み?」
ハッキリと聞こえた。先程までの朧げな声では無くて目の前からハッキリと……
目を上げると、濃い紫の瞳の少女がそこに立っていた。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
冒険者歴二十年のおっさん、モンスターに逆行魔法を使われ青年となり、まだ見ぬダンジョンの最高層へ、人生二度目の冒険を始める
忍原富臣
ファンタジー
おっさんがもう一度ダンジョンへと参ります!
その名はビオリス・シュヴァルツ。
目立たないように後方で大剣を振るい適当に過ごしている人間族のおっさん。だがしかし、一方ではギルドからの要請を受けて単独での討伐クエストを行うエリートの顔を持つ。
性格はやる気がなく、冒険者生活にも飽きが来ていた。
四十後半のおっさんには大剣が重いのだから仕方がない。
逆行魔法を使われ、十六歳へと変えられる。だが、不幸中の幸い……いや、おっさんからすればとんでもないプレゼントがあった。
経験も記憶もそのままなのである。
モンスターは攻撃をしても手応えのないビオリスの様子に一目散に逃げた。
竜焔の騎士
時雨青葉
ファンタジー
―――竜血剣《焔乱舞》。それは、ドラゴンと人間にかつてあった絆の証……
これは、人間とドラゴンの二種族が栄える世界で起こった一つの物語―――
田舎町の孤児院で暮らすキリハはある日、しゃべるぬいぐるみのフールと出会う。
会うなり目を輝かせたフールが取り出したのは―――サイコロ?
マイペースな彼についていけないキリハだったが、彼との出会いがキリハの人生を大きく変える。
「フールに、選ばれたのでしょう?」
突然訪ねてきた彼女が告げた言葉の意味とは――!?
この世にたった一つの剣を手にした少年が、ドラゴンにも人間にも体当たりで向き合っていく波瀾万丈ストーリー!
天然無自覚の最強剣士が、今ここに爆誕します!!
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
聖女失格 〜脳死で頼るの辞めてもらって良いですか?〜
嘉幸
恋愛
異世界とか勘弁して!
ある日突如異世界に若返り特典付きで聖女として転移した時岡時枝(ときおかときえ)は、家に帰せと憤怒するも、その方法はないと言われる。
さらに、この世界を救ってほしいと他力本願な願いに、怒りが湧く。
はぁ?失格聖女?上等なんですけど。なんでも良いけど脳死で私を頼るの、辞めてもらって良いですか?
---------------------
短めの長編ですので楽しく読んでいただければ幸いです
ガバガバ設定です。
恋愛なのかファンタジーなのか迷ってます
コロコロ変えてすみません……
たまには元気いっぱいの主人公も良いかなと。楽しんでください。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる