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ラント外伝 求めているもの

2 何とか近付きたくて

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 ラントの婚約者はメルルーシェと言った。対して興味も持てなかったからそれ以上の事は知らないし聞かされようとしても断っていた。

「ラント……?あなた、まさかどなたか心に留めた方でも?」

 優しい母はメルルーシェの様に責めることもせず静かに聞いて来る。幼い頃から言い聞かせて来た婚約であり成人した今となっては両人共に乗り気であったと見て取れたのだが?蓋を開けて見てみたら、メルルーシェの方はこの婚姻に積極的だがラントの方はこの所彼女を避けている様にしか見受けられなかった。だから他に思う人が居るのか、我慢できないほどその人が好きなのか、と母は問うた。幼い事から我儘など言わない子供だったラントが頑なにメルルーシェを避けている事から、思い人がいないならばメルルーシェが何かしたと思わなければならなくなる。

「いいえ、母上。彼女に何も望みたいと思わないのです。そんな相手と共に何十年といられますか?」

「何を言うのか、ラント。望むべき事がないと言う事は非の打ち所がないという事ではないか。この婚約は進めて良いな?」

 隣で聞いていた父上の勘違いな発言に首を傾げたくもなるのだが、結婚とはその様なものなのか?メルルーシェは毎日屋敷に来るし、その為こちらは望んでもいない者の顔を見ているのだが、これは非の打ち所がないという事なのか?
 側近に聞いてみても、結婚してから愛情を育てるご夫婦もいますよ?と柔らかく微笑まれるだけであった。

「愛情?愛情とは何だ?」

「人を愛しく思う心でございます。」

「愛しく……?」

「親子の情の様なものだと言われましたらお分かりになられますでしょうか?」

 側近の者も大いに困ったに違いない。愛情と聞いた瞬間に思いっきり嫌な顔をした主人に対し、これくらいしか答えようがなかっただろう。親子の情…両親を敬うと言うことか…?相手を立て、敬い、尊重する事が夫婦の愛情を作る事?それだけで両親のように仲睦まじく見える様になるのか?

 ならば、それに倣ってみよう。なるべく共に過ごすようにし、相手を立て望むことを尊重し、敬って来たつもりだった。が、相変わらず自分の心は動かず、メルルーシェには少しの感情も動かず愛だの恋だのとは分からないままだったが……
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