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31 泥だらけの私

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 親子が連れ立って歩いていく。朝露に濡れて少しぬかるんだ道に足を取られない様に気を付けながら…

「ねぇ、私…いいえ、ラッキービーナ。私は何を思い出してはいけなかったの?まだそれは思い出せないの?」
 
 両手は泥だらけのまま地べたに座っているものだから着てる服も勿論泥だらけ…折角早起きしてウエストを直したと言うのに。明日の朝はまた別のスカートを直さなくては……

「「もう少し…もう少しだけ。私にも時間を頂戴?ラーシャ、まだここに……」」

 なんだろう?思い出せそうで思い出せない。思い出したいけど思い出したくない…

 太陽が午後の日を注ぎ出して、やっと地面から立ち上がる。

 まだ、だ……まだ、ここにいることができる。手に付いた泥は殆どが乾いていてポロポロと剥がれ落ちていく…
 パンパン、パンパン!目につくところの泥を払って家に入る前に服を脱ぎ捨てる。もう、事が分かっているから出来る事よ?なんで分かるのかは追求したくないけど……帰って来る皆んなに心配させない様に服を着替えて洗濯をして、夕食の準備をする。

 木の実と芋と鳥の煮込みシチュー、パンも焼いてお腹を空かせて帰って来る子供達とラントに。後何度、ご飯を作ってあげられる?
ふっとそんな疑問が頭に浮かんで急に物凄く寂しくなってしまった…

 カディナの感情に触れたから?自分も引きずられてるのかしら?カディナの中のドロドロの感情に流されそうになるのは本当に恐ろしいものだった…自分も憎しみに囚われて復讐を果たそうとしてしまいそうな程に生々しくて、逃げる事ができなくて…
 記憶が戻れば戻るほど、ラッキービーナが持っているであろう力?も思い出して、見えない物も聞こえない物も感じない物もいっぺんに覆いかぶさって来て、逃げる事ができなかった。もし、あの場から逃げたら?あの感情の渦から逃げられたら?私は楽になったのかしら?こんなに心が騒つかずに穏やかに家族を待つ事が出来たかしら?

 囚われてしまえば逃げることなど不可能だと分かるあの状況で、楽になどなれた…?いいえ。不可能だわ…
 ……





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