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3.監禁③

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 スマホを眺めていたが、特に「女子高生失踪」という文字は出てこなかった。彼女を拉致、監禁してから既に12時間以上が経過しているのに、何も起こらない。

 彼女はまさか、家出少女じゃないだろうか。という疑問が湧いた。だが、バイトの面接で住所不定の者を雇うだろうか。それなら、最近家出をしたというセンはないだろうか。そんな事を考えながら、おれは普段の自分を装う為、普通なフリをするためにバイトに向かった。

 もちろん麗良は自宅に監禁したままだ。ただ、昨日よりは拘束は緩めたし、風呂場に食べ物も水も置いてきた。風呂場からは容易には逃げ出せないが、猿ぐつわも何もしていないので、叫ぼうとすれば叫べるだろうし、助けを呼ぼうとするならそれも可能だ。

 バイト先に着くと、店長がおれの顔を見るや否や、バックヤードに来いと手招きしてくる。

「……春野さんのさあ」

 ついに来た。麗良の事だ。おれは少しだけ鼓動が早くなっていた。

「つけまわしていた、ストーカーいたでしょ」

「あ、はい、そっちですか」

 おれは危うく墓穴を掘りそうになった。店長は頭を傾げていたが、おれの変なリアクションは無視してくれて、話を続けてきた。

「……あの人だと、思うんだよね。今朝、水死体で発見されたの」

「は?」

 麗良に絡んできたクレーマー兼ストーカーのオヤジが水死体で発見されたらしい。

「春野さん、大丈夫かなあ……」

「大丈夫だと思いますけど」

「え!なんで断言できるの?」

 しまった、と思ったが、つい言ってしまった。

「オマエ、もしかして」

「……」

「……付き合ってるんだろ?」

「……はい?」

「わかってるって!オマエら良い感じだったもんな」

 店長はそう言うと、おれの肩をバシバシと叩いてきた。いや、違うんだが、まあいいか。店長はそれから、おれたちの関係を勝手に想像して、いろいろ話かけてきたが、適当に相槌を打っていたら、次のシフトの横井さんが来て、交代したらそのままどこかに行ってしまった。

 水死体の件が気になっていたが、おれは夕方5時に交代の小林さんが来ると、適当に弁当を2つ買い、家路についた。小林さんに、おまえ2つも食うのかよとか言われたが、明日の朝飯ですよ、と適当に言い訳しておいた。

 誰もおれを疑わない、そもそも麗良の親はどうした、娘が心配じゃないのか。まさか、捜索願いすら出されていないのではないのか。

「なんで、おれがそんな心配をしているんだろう」

 帰宅すると、おれは風呂場のあるキッチンを素通りして、そのまま奥の部屋へ向かいパソコンの画面を見た。

「……何やってんだ、あいつ」

 手足はロープで縛ってあるが、昨日の夜ほどしっかりとは固定しておらず、足はさすがに歩けるとまずいので立てないように縛っているが、手は「ロープで作った手錠」みたいな形で結んであるので、ある程度自由はきく。

 しかも、口は全く塞いでいない。正直、家に着くや否や警察官に捕まるかも、という想定もしていたのだが、そんな気配は微塵も無かった。

 彼女はまた壁に向かって、何か話をしているように感じた。置いてあった食べ物はきれいに、とはいかないが、ほぼ食べ切ってあり、水も半分以上飲んであった。

「……普通に生活しているように見えてしまう」 

 おれはとりあえず目出し帽と狐の面を被ると、風呂場に向かう。風呂場の扉を開けると、彼女がこっちを振り向いた。

「おかえりなさい」

 少し、寒気がした。なんで、おれが怖いと思うんだ。立場が逆だろう。おまえがおれを怖がらないとおかしいじゃないか。なんで、おかえりなさい、なんだ。

 おれは何だか急に彼女が不気味なモノに見えてきた。どう考えたって、拉致されてる女の言動じゃない。おかしくなってしまったのか。

「……またご飯買ってきてくれたんだ」

「……は?」

「優しいね、君は」

「……おれがおまえに危害を加えないとでも思ってるのか?」

 そう言いながらも、鼓動が早くなって、背中に冷や汗をかいていたのはおれの方だった。

 彼女は笑っていて、仮面の下のおれと目が合っていた。

 それが、どうしようもなく怖かった。

 気付いたら、おれは彼女を風呂場から引っ張り出して、部屋に連れて行き、ベッドに押し倒した。

 
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