26時の狂気

あすたりすく

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5話

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「複数の警察官が、事件現場となっている住宅を取り囲んでいます。

 今、警察官と共に誰か出てきました。数人の警察官に囲まれて、容疑者と思われる男性が姿を見せました。

 まだ、少年のようです。自力で歩行するのが困難な状況なのでしょうか、がっちりと警察官に両脇を抱えられて歩いてきます、今、警察車両に入っていきました。

……以上、現場から田村たむらがお伝えしました」



 某テレビ局内でニュース番組の生放送が行われていた。現場のリポーター田村から内容を引き継ぎ、司会者である楠木くすのきアナウンサーが話し始めた。

「今回、痛ましい事件の現場になった家屋から、容疑者と思しき少年が警察に連行されました。本日は犯罪心理学の研究者である東宝大学教授の御堂みどう先生にお越しいただいてます。御堂先生、今回の事件、どのようにお考えでしょうか?」

「はい、今回の事件で少年は、ここ一ヶ月ほど自宅から外出しておらず、近所の住民も彼の姿を見ていないという話がありました。時々、家の方から声がしていたという近隣住民の証言もありましたが、女性の声とおそらく容疑者とされている男性の声だったのだと思われます」

「えー、こちらの少年ですが、5年ほど前にご両親が再婚されていますね。元々は、既にお亡くなりになられている母親の静流さんの長男である少年と、静流さんの再婚相手であった今回の被害者である将之さんとその娘の弥沙さんの四人家族であったと。家族の仲は以前から問題があったのでしょうか?」

「仲の良い家族だったとは近隣の住民の方々は仰ってますね。気落ちよく挨拶をされたり、地域の活動にもご家族で参加されたりと。少年の母親である静流さんが不慮の事故でお亡くなりになってから、家族で外出したりする姿はあまり見かけなくなったとの事です」

「少年の自宅から発見された成人男性の遺体はリビングの床下から発見され、死後一ヶ月程は経過していたという事ですが、この男性は行方がわからなくなっていた須山将之すやままさゆきさんという事でしょうか?」

「鑑識からの正確な回答が無いのでまだ未確定ではありますが、おそらく行方不明になっていた将之さんではないかと思われます」

「2階の容疑者の個人部屋から搬出された女性のご遺体は死後数時間経過していたとのことですが、こちらは同居していた弥沙さんで間違いないという事なので、成人男性のご遺体が将之さんである可能性は高いという事ですね。事件の詳細は追って詳細が分かり次第、発表されるとの事です。さて、次のニュースは……」


* * *


 駿斗は暗い留置所の一室の中で膝を抱え座っていた。目は虚ろで焦点が合っていない。留置所の壁にある小さな窓から漏れる月明かりを眺めては独りごとを呟いていた。

「母さん、遅いな…。早く帰って来ないかな」

 その姿を見ていた警察官はため息を漏らすと、仲間の警察官のいる部屋に向かい、ゆっくりと椅子に腰を下ろす。年配の警察官である荻野おぎのはため息を漏らした若い警察官の園村そのむらに話しかけた。

「園よお、須山駿斗すやまはやとみたい奴は日本でも結構いるんだぜ?いちいち気にかけてたら身がもたねえぞ」

「荻野さん、彼からの通報を受けたのは自分です。なんで彼は自分で自分を通報したんですかねえ」

「わかんねえけど、あれだろ、良心の呵責ってやつじゃねえのか?自分でしたことに耐えられなくなって、自首する奴も多いからな」

「被害者の女性は何度か性的暴行を受けています。一度や二度じゃありません。顔も原型を留めないぐらいに損傷がありました。髪の毛もハサミか何かで乱雑に切られていますし、須山はかなり凶暴な人間だと思うのですが、今のあいつの状態を見ていると、とてもそんな奴には見えないんですよね」

「犯罪者なんて、普段は大人しくて人畜無害そうな奴が、急変していきなりやらかしちまうなんざ、よくある話だぜ」

「被害者の女性は再婚相手の連れ子だったみたいで、血のつながりがない妹なんですよ。年もひとつ下で。まあ、何というかやりきれない事件ですよ。顔に酷い損傷を受けていましたが、何故か服を着せられていたんです。浴衣なんですかね。まあ適当ではあったんですが、人形みたいに、着飾っていて」

 そこにまた別の警官が現れ、荻野にスマホを手渡した。

「よ、ご苦労、斎田さいた。スマホの解除できたか?」

「はい、ようやく。須山が自分ではロックを解除しようとしないんで、結構手こずりましたよ」

 斎田はスマホの画面を横から操作して、あるアプリを起動させた。

「日記みたいだな」

「そうですね、ちょっと内容確認しちゃったんですけど、これは物証になるかと思います」

 

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