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後章

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 「ようこそお越しくださいました」

 平凡村人顔、しかもソバカスだらけな俺が一生縁が無かった筈の服に身を包んでいる。
 それだけでも異様な光景なのに、そんな俺が四大魔王を出迎えている異常事態。それもエントランスでも玉座でも賓客室でもないただの廊下で。

 メイド達が良い仕事した顔満載で送り出してくれたのに、アクセルからのお呼びが一向に掛からなかった。どうしたのかと思い様子を見に行こうと廊下を歩いていたら、なんと向こうも向かって来ていたのだ。
 でも待って。ここ、私的なエリア。通常他所の人が出歩く場じゃない。少なくとも俺はそう聞いてた筈。
 停止する思考の中、何とか先生に教わった通りに礼をした俺。偉いと思う。頑張ったと思う。だからこの状況説明してくれアクセル。
 困惑を隠せない俺は視線だけでアクセルに助けを求めた。けれどアクセルの姿は東西南の魔王達の近くには無く、半泣きになりそう。そう思った矢先に視界が覆われた。

 「我のユタを視界に入れるな怖がらせるな要件があるなら部屋で聞くと言っているだろう」

 背中に安心する温もりを感じてほっと安堵の息を吐いた。

 「何度も言うが我等の目的はそこな人の子だ」
 「かの色ボケ大魔神が到頭身を固めたと聞いたんやで」
 「それは飛んで来てその様を具に見にもくるわよ」

 色ボケ大魔神。世界共通の認識だったのか。
 たしかに出会った当初のアクセルは淫魔顔負けのエロエロしい性欲の塊だったな。
 でも、今は俺だけにしか手を出していない。その事に胸が熱くなる。

 「ふん。ユタの愛らしさをその目に映したいのはわかるが、ユタは我の最愛の妻だ。不躾な視線に晒すわけなかろうが」

 ひ、人前で……!しかも四大魔王の三角に……!嬉しいと恥ずかしいがない交ぜになって居た堪れない。なんかすみません。このイケメン大魔王の相手が平凡村人で。どんな顔してるか視線が遮られてるからわからんけど。

 「ぶっ!わっはっはっは!!こりゃ傑作や!ワイが北のに笑かされるとはのう!」

 この声は多分西の大魔王だろう。独特なイントネーションに喋り方。間違いない。
 西の大魔王は笑いに貪欲だから多分腹を抱えて笑っている今は、きっと上機嫌な顔をしてるだろう。

 「君は笑い過ぎじゃないかな。北のが一人に落ち着くなら喜ばしいことじゃないか」

 落ち着いた線の細い声音のこの人は東の大魔王。着ていた服装や立ち居振る舞いも静々としていたからきっと西の大魔王の言に眉を顰めてるに違いない。

 「あら、沢山の子達に愛を注ぐのはいけないことかしら」

 色っぽい言葉遣いに反して熱く猛々しい雰囲気を放つこの人が南の大魔王。ムキムキの筋肉に良く焼けた肌が合っている。南の人達も愛に奔放だって聞いたことがあるけど、もしかしたら本当なのかもしれない。

 「南のは相変わらずだな」

 アクセルは慣れた様子で軽くあしらってる。あんなに大笑いしてる西の魔王に対しても淡々と返してる。まるでそうなるって解っていた様に。

 「うふふ。だってあたしは情熱を司る灼熱の魔王よ?燃え盛る炎は分け隔てしないのよ」

 しなを感じる笑い声。少し前のアクセルも性に奔放だったし、もしかして二人は……。

 「南のとは一線を越えた事なぞないぞ」

 ちょっと嫉妬にチクリとしてた事なんて見通されてた。
 クルリと体を反転させられたかと思えば心外そうな顔で俺の頬を挟んでくる。眉根を寄せて口をへの字に曲げる姿が可愛い。

 「それは安心した。四大魔王相手じゃ俺は歯が立たないからな」

 挟まれたままへにょりと笑ったら、苦笑したアクセルが口にチョンとキスをした。

 「~~~!人前……!」
 「今のは愛らしすぎるユタが悪い」

 人の所為かよ。
 怒る俺に対してそっぽを向くのに視線は外さないのが可愛くて怒る気が失せていく。

 「ああもー……」

 脱力してると、背後でクスクス、がはがは三者三様の笑い声がした。
 顔だけで振り返ると、東西南の魔王が平和そのものの顔して笑ってた。

 四大魔王って交流なさそうだったのに、何だか仲良さげなんだな。

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