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 あれからテンは本当に性的嫌がらせをしなくなった。
 時折物欲しそうにチラッチラッと見てくるが、実害は無いから良しとしている。どうやらちゃんと一人で何とかしているらしいが、その分寂しさが込み上げてくる様子だ。一人にしてると背中から哀愁が漂っていて、被害者の筈の俺が居た堪れなくなってくる。

 「平和だ……」

 野菜ちゃん達も日々スクスク元気に育っている。最近は余裕が出来たから果実農園の充実化に力を入れ始めた。
 今までは一人でお世話してたからそんなに増やせなかったんだよな。

 「ユタが幸せそうで我も嬉しく思う」
 「っ」

 不意に横合いから魔王が、魔王なのに慈愛に満ちた穏やかな微笑みで俺の頬に触れてきた。
 魔王の指が頬に掛かる髪をサラリと撫で上げ、俺の鼓動がドクンと跳ねた。乙女かっ!って感じな反応衝動を起こしそうになったけど、慌てて息を飲んで耐えた。
 ……俺は最近困っている。

 「ユタ……。顔が赤い、少し休むか?」
 「へ、平気だっ。夏だしな、こんなん普通だ、普通」

 魔王が甘い。
 やたらと俺を気に掛け、少しの変化も見逃さない。嬉しいが、今は困る。
 何故なら俺は……。

 魔王に惚れてしまっていたから!

 絶対恋愛対象にならないって思ってたのにな。何せ相手は魔王である。しかも四大魔王である。転生勇者ホイホイである。百害あって一利ないと思ってたんだけどなぁ。
 クソイケメン爆ぜろだし。エロい事大好きなテクニシャンだし。体疼く様になっちゃうし。
 でも我慢してくれてる。俺の事慮ってくれるし。優しいし。暖かいし。側にいて落ち着くし。何より野菜ちゃん達を大切に扱ってくれる!ここ大事!天元突破でポイント高いんだよ!
 触れられても平気なのは魔王だけだ。それがテンとの事で気付かされた。
 極めつけは絶体絶命の場面を助けてくれて俺の思いは更に膨れ上がっていた。いつの間にか俺にとってなくてはならない存在になってた。
 ただなぁ。魔王に気持ちを伝えても、魔王が俺を好きになってくれない限りは最後の一線は死守したい。
 今の魔王なら俺の気持ちを汲んでくれそうだけど、基本が淫魔も顔負けのエロ好き魔王だからなー。俺の気持ちを伝えても我慢出来るかどうか……。
 だから俺は迷う。

 気持ちを伝えるか。

 気持ちを隠し通すか。


 ◇魔王サイド◇

 ユタが今日も可愛い。
 小さく縛った後ろ髪をピョンピョン跳ねさせ良く動いている。
 テンの事もそれ程トラウマにはならなかった様で一安心だ。ユタは心が広く強い。そこが少し心配でもあるが、きちんとテンへの警戒はしている様だから大丈夫だろう。
 テンの奴め。ユタが嫌がると思い命だけは奪わずにいてやったが、あれからユタを見る目に腹が立つ。完全に横恋慕ではないか。
 ユタの可愛さは留まる事をしらない故、惚れてしまうのは致し方ない。が、腹は立つ。
 さり気無くユタの横に寄り添い牽制してやっているから近寄りはせんがな。

 そう。我は「愛しい」という感情を知った。

 何故あれ程までにユタに拘ったのか。今思えば簡単な事だったのだ。
 ユタを抱きたいと思うのも。でも本気で嫌がる事をしたくないのも。大切に扱いたいと思うのも。好いて欲しいと思うのも。他の誰かに触れさせたくないと思うのも。他の誰かを抱く気にならなくなったのも。
 全ては我がユタを愛していたからだったのだ。
 これが愛。とてもワクワクして、ソワソワして。ドキドキする。
 ユタが幸せそうな顔をするだけで、幸せになれる。ユタの全てを大切にしたい。
 それをユタを危険に晒して初めて気付かされるとはな……。

 だから我はもうユタに手を出せない。

 ユタが我の想いに応えてくれるまでは。



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