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お腹が膨れたテンが旧俺の家に帰って行った。
ほんの数時間程度の事なのに濃い時間だった。これから魔王と転生勇者が一つ島の中で居る事を考えれば予断は許されないけど。
それより俺は、無駄に気を張った空間から解放されて安堵の息を吐いた。
「あー。やっと魔王と二人に戻った。疲れた」
魔王とだって知り合ってそんなに経ってないけど、何だかんだ一緒にいて気疲れしない相手になってたんだなー。
玄関の戸締りをしっかりして振り返った俺は、訝しんだ。
いやだって、俺に手を伸ばしてワキワキさせた状態の魔王が、何故か頬と耳を赤くして停止してたんだぜ?そりゃ意味不明で眉根もよるわ。
「魔王?どうした?」
「い、いや。ユタ……?」
「ん?」
友達としてスルーするのもなんだし、取り敢えず聞いてみたものの、魔王は俺を注視したり、かと思えば視線を彷徨わせたりして挙動不審も甚だしい。しかも口も開けたり閉じたりと、何か言い淀んでいるような、上手く言葉に出来ていないようなだし。
傲岸不遜。世界は自分を中心に回してる系の魔王にしては珍しい。
そういや、エロい事しなくなったと思ったのも勘違いだったし、な……。
うわああああ!思い出すな俺えええっ!
温泉以来久し振りとはいえ、体が、う、疼いて、あ、あんなっっっ!俺から魔王の胸に縋りつくとか!有り得ねぇだろ、俺!いいいいいやっ。く、空中で抵抗出来なかっただけだっ。そうだ、別に俺が男なんか求める筈無いんだっ。
だ、大体っ、魔王がいけないんだ。散々俺の体弄繰り回しときながら、いきなりキスしかしなくなったから。対応出来なかったんだ。
うぅくそう。キス。とか考えただけで何で顔熱くしてんだよ俺ぇ……。
「ユタは、テンより我と二人のが、安心か?」
魔王が真面目な顔で聞いて来た。
どうやら俺が葛藤している間に魔王も何やら考えていたらしい。いつもの斜に構えた立ち姿じゃ無く、普通の立ち姿で、しかもエロさの欠片も出していない。
「そりゃ。魔王は友達だし。テンは、他人だし」
俺も率直な思いを口にして、なのに自分の言葉に何かが違うと感じた。それがどこか後ろめたくて、落ち着かない。
真面目に聞かれたのに視線を逸らすのも悪い気がして。ただ魔王の出方をじっと待つ。気分は断頭台に上った感じだ。
「友達……。ただの友達か」
意気消沈とした風情で漏らす魔王。
そりゃ俺で性欲解消したがってるんだ。それが遠のけば嫌だろう。でもそれとも違う気もした。どこか寂し気に見えたから。
「友達。俺達知り合ってまだそんなに経ってないだろ。友達じゃ不満かよ」
言いながら胸がズキリと軋んだ。
「友などいたことが無いからわからんな」
おっと。魔王は孤高だった。
そうか。王様業って部下や臣民は多いけど、どうしたって対等の存在って同じ立場でないと難しいんだな。かといって四大魔王が友達やってるかっていえばそんなの聞いたこともないし。っていうか最恐の魔王が四人も宜しくつるんでいたら全世界が叫喚するわ。
自嘲気味に笑みを見せる魔王が悲しい。
「じゃあ俺が最初の友達ってことで良いじゃん」
「我はユタには愛して欲しいのだが」
口を尖らせて言えば、魔王は今更何を言わせるのだと言わんばかりに素面で返してきた。
「うぁ!?愛!?いやいやいやいや。それ言うなら先ずは魔王だろっ。魔王が俺をあ、あ、あ~っ、す、好き。っになってからだってば」
愛して欲しいとか言えるかっ。っていうか欲しいって何!?望んでないっ。望んでないからな!?
全身赤面させて狼狽え捲し立てれば、魔王は言葉を噤んでしまった。口に手を当てて物思いに耽っている様だ。
「そ、それに。恋人を前提に友達から始めるって常套手段だろ。
お互い深く知れば「あ。なんか違った」って事も有るんだし」
「恋人が前提。ユタも前向きに考えてくれていたのだな」
うあ。魔王がイケメンスマイルで空間掌握と俺の人心破壊攻撃をしてきた。
え。何そのキラキラ。なんなの。誰を堕とす気なの。俺か。俺だったなっ、コンチクショウ!嫌な気がしない俺が嫌だ!
この夜。終始ニッコニコの魔王に、やたらと優しいキスをちゅっちゅとされて、なのにエロい事は一切しないという生殺しの甘々しさを身を以って体験することになった。
そしてやっぱりベッドは二つ。寝る場所は一つだった。
魔王の体温が暖かいよ……。
◇テンサイド◇
見てしまった。
貰った家の風呂は狭くて、しかも石鹸が無いから露天風呂を借りようと思った。でも玄関は鍵が閉められているし、呼んでも来ないから寝室の窓を探して飛んだら……見てしまった。
魔王に寄り添い抱き着くユタ(注:健やかに寝ているだけです。)と、ユタにキスをしまくる魔王(注:それは毎晩のことです。)を。
え?何?魔王とユタってやっぱりそういう関係なの?男同士なのに気持ち悪い。
それともユタが凄いのか?四大魔王の一角を虜にするくらい抱き心地最高なのか?いや俺はそれでも男とか有り得ないけど。
でも凄いのか?気持ちいいのか?前見なきゃ男ってわかんないしな?戦闘で俺の息子も高ぶってるしな?ちょっと試すくらい……良いのかもしれない。
ほんの数時間程度の事なのに濃い時間だった。これから魔王と転生勇者が一つ島の中で居る事を考えれば予断は許されないけど。
それより俺は、無駄に気を張った空間から解放されて安堵の息を吐いた。
「あー。やっと魔王と二人に戻った。疲れた」
魔王とだって知り合ってそんなに経ってないけど、何だかんだ一緒にいて気疲れしない相手になってたんだなー。
玄関の戸締りをしっかりして振り返った俺は、訝しんだ。
いやだって、俺に手を伸ばしてワキワキさせた状態の魔王が、何故か頬と耳を赤くして停止してたんだぜ?そりゃ意味不明で眉根もよるわ。
「魔王?どうした?」
「い、いや。ユタ……?」
「ん?」
友達としてスルーするのもなんだし、取り敢えず聞いてみたものの、魔王は俺を注視したり、かと思えば視線を彷徨わせたりして挙動不審も甚だしい。しかも口も開けたり閉じたりと、何か言い淀んでいるような、上手く言葉に出来ていないようなだし。
傲岸不遜。世界は自分を中心に回してる系の魔王にしては珍しい。
そういや、エロい事しなくなったと思ったのも勘違いだったし、な……。
うわああああ!思い出すな俺えええっ!
温泉以来久し振りとはいえ、体が、う、疼いて、あ、あんなっっっ!俺から魔王の胸に縋りつくとか!有り得ねぇだろ、俺!いいいいいやっ。く、空中で抵抗出来なかっただけだっ。そうだ、別に俺が男なんか求める筈無いんだっ。
だ、大体っ、魔王がいけないんだ。散々俺の体弄繰り回しときながら、いきなりキスしかしなくなったから。対応出来なかったんだ。
うぅくそう。キス。とか考えただけで何で顔熱くしてんだよ俺ぇ……。
「ユタは、テンより我と二人のが、安心か?」
魔王が真面目な顔で聞いて来た。
どうやら俺が葛藤している間に魔王も何やら考えていたらしい。いつもの斜に構えた立ち姿じゃ無く、普通の立ち姿で、しかもエロさの欠片も出していない。
「そりゃ。魔王は友達だし。テンは、他人だし」
俺も率直な思いを口にして、なのに自分の言葉に何かが違うと感じた。それがどこか後ろめたくて、落ち着かない。
真面目に聞かれたのに視線を逸らすのも悪い気がして。ただ魔王の出方をじっと待つ。気分は断頭台に上った感じだ。
「友達……。ただの友達か」
意気消沈とした風情で漏らす魔王。
そりゃ俺で性欲解消したがってるんだ。それが遠のけば嫌だろう。でもそれとも違う気もした。どこか寂し気に見えたから。
「友達。俺達知り合ってまだそんなに経ってないだろ。友達じゃ不満かよ」
言いながら胸がズキリと軋んだ。
「友などいたことが無いからわからんな」
おっと。魔王は孤高だった。
そうか。王様業って部下や臣民は多いけど、どうしたって対等の存在って同じ立場でないと難しいんだな。かといって四大魔王が友達やってるかっていえばそんなの聞いたこともないし。っていうか最恐の魔王が四人も宜しくつるんでいたら全世界が叫喚するわ。
自嘲気味に笑みを見せる魔王が悲しい。
「じゃあ俺が最初の友達ってことで良いじゃん」
「我はユタには愛して欲しいのだが」
口を尖らせて言えば、魔王は今更何を言わせるのだと言わんばかりに素面で返してきた。
「うぁ!?愛!?いやいやいやいや。それ言うなら先ずは魔王だろっ。魔王が俺をあ、あ、あ~っ、す、好き。っになってからだってば」
愛して欲しいとか言えるかっ。っていうか欲しいって何!?望んでないっ。望んでないからな!?
全身赤面させて狼狽え捲し立てれば、魔王は言葉を噤んでしまった。口に手を当てて物思いに耽っている様だ。
「そ、それに。恋人を前提に友達から始めるって常套手段だろ。
お互い深く知れば「あ。なんか違った」って事も有るんだし」
「恋人が前提。ユタも前向きに考えてくれていたのだな」
うあ。魔王がイケメンスマイルで空間掌握と俺の人心破壊攻撃をしてきた。
え。何そのキラキラ。なんなの。誰を堕とす気なの。俺か。俺だったなっ、コンチクショウ!嫌な気がしない俺が嫌だ!
この夜。終始ニッコニコの魔王に、やたらと優しいキスをちゅっちゅとされて、なのにエロい事は一切しないという生殺しの甘々しさを身を以って体験することになった。
そしてやっぱりベッドは二つ。寝る場所は一つだった。
魔王の体温が暖かいよ……。
◇テンサイド◇
見てしまった。
貰った家の風呂は狭くて、しかも石鹸が無いから露天風呂を借りようと思った。でも玄関は鍵が閉められているし、呼んでも来ないから寝室の窓を探して飛んだら……見てしまった。
魔王に寄り添い抱き着くユタ(注:健やかに寝ているだけです。)と、ユタにキスをしまくる魔王(注:それは毎晩のことです。)を。
え?何?魔王とユタってやっぱりそういう関係なの?男同士なのに気持ち悪い。
それともユタが凄いのか?四大魔王の一角を虜にするくらい抱き心地最高なのか?いや俺はそれでも男とか有り得ないけど。
でも凄いのか?気持ちいいのか?前見なきゃ男ってわかんないしな?戦闘で俺の息子も高ぶってるしな?ちょっと試すくらい……良いのかもしれない。
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