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 「な、なんで……」

 広く、広大な自家菜園。
 俺は丹精込めて育て上げた可愛い野菜ちゃん達に起きた惨状に、佇み静かに涙を流して呆然としていた。

 無残に潰された野菜ちゃん達、その上には見た事の無い。けれどその存在だけは嫌って程知っている者が、満身創痍の状態で倒れていた。
 彼は何もない空から突然……いや、今は消えゆく転移陣だけが微かに残る空から降ってきたのだ。

 「折角ここまで逃げて来たのに……っ!
 なんでよりにもよって魔王なんて一番厄介な存在が現れるんだよ……!!」

 ここは外界から閉ざされた秘島だった筈なのに。
 海は周囲を荒れ狂う渦が行く手を阻み、空は絶えず前が見えない程の嵐が吹き荒れて、転移魔法でその先に行く事すら出来ないと伝承にさえ残っていた、来る者を拒み続ける無人の島な筈なのに。

 だから俺は安心して、苦労の末ここまでやって来たのに。

 逃げ続けて来た者達の中でも厄介な存在が現れてしまった。

 それも俺の可愛い野菜ちゃん達を踏み荒らすという暴挙を行って!

 「どちくしょうっ!神なんていない!いや神すら厄介な者達に含まれてたけども……!」

 俺の慟哭は空の彼方に溶け消えた。



 ここで俺の過去を振り返ろうと思う。
 俺の人生はそりゃ幸薄い、とは言わないけど、周りの人達と同じ位には理不尽な世の中に翻弄されてきた。
 この世界では、神も魔王も勇者も数多くいる。
 けどそれ以上に多いのが所謂【転生者】と呼ばれる者達だ。因みに俺は違う。普通の村人Aだった。
 本当に平凡な農家の家庭に生まれ、俺自身も農民として生きて来た。
 小さな集落だったから猟も漁も一通りこなせた。何もなければそのまま平凡に生き、その内可愛い嫁さん貰って出来れば子供は三人は欲しいしそんで年老いて愛する子供達や孫達に見送られながら人生の幕を閉じた事だろう。
 なのに!そんなささやかな夢さえ笑って打ち砕く者達がいた!
 転生者達である!
 彼ら彼女らは前世の記憶とやらの恩恵で得た力で、好き勝手に世の中を蹂躙している。
 かくいう俺も過去に二度程魔王と転生勇者一行の戦乱に巻き込まれ田畑を壊滅させられ、一度は邪神と転生勇者一行の戦乱に以下略、特に多かったのが魔獣との戦闘に巻き込まれて以下略な事など最早日常茶飯事だった。
 村人達は先祖代々起きて来た事象故に災害と割り切って逞しく村の再興に尽くしてきたが、俺は納得がいかなかった。

 なんで丹精込めて育て上げたピーマンちゃんにナスちゃんにトウモロコシちゃんetc……を良くわからん者達の良くわからんイザコザに巻き込まれて収穫前に踏み荒らされにゃならんのじゃっ!!
 もう転生者達に振り回されるのは懲り懲りだ!

 だから俺は幼心な時から一大決心をして鍛錬に鍛錬を重ねて操舵技術に天候予測技術、その他諸々を己の物にしてきた。

 こうして俺は荒れ狂う大海原を踏破出来るだけの一隻の船に乗り、持ち得る全ての力と運と何より命を懸けて理想郷へと辿り着いたのだった。
 はっきり言って最後に辿り着けたのは奇跡以外の何物でもなかった。それだけこの隠れた秘島は来る者を拒み続けたのだから。

 それなのにっ!苦労して命からがら辿り着いたこの秘島、他に住人のいなかった俺だけの無人島にっ!丹精込めて一から住みよい島に変えた俺の理想郷にっ!

 なんで魔王が降ってくるんだよぉぉぉぉぉぉっ!!

 しかもなんでマッパなんだよっ!?変態!?変態なの!?大事なトコロ見せびらかして悦ぶ社会不適合者デスか!?畜生!俺よりデカいもんぶら下げやがって切り落としてしまいたいっ……!後が怖くて出来ないけどっ。ていうか俺の一撃なんて掠り傷にもならんだろうけどっ。

 混乱に混乱をきたした俺は、相手が気を失っているのを良い事に思う存分悪態を吐いた。

 「とはいえ、流石に怪我人ほっとくってのもな」

 人類皆助け合い精神な村人気質は一応俺にもある。
 菜園被害は甚大だが(何せクレーターになってる)、人的被害は今のところ無い。
 それなのにここで見捨ててこの魔王が死んだら半ば俺のせいじゃね?いや魔王なんて百害あって一利なし。中には良い魔王もいるみたいだが過去俺にもたらせてくれたのは破壊のみなのでやっぱり一利なし。だけど人を助ける理由ってそういうんじゃないしな。人じゃないけど。
 葛藤は激しいが、俺は一先ず魔王を自室に運ぶことにした。だって俺しかいないから寝れる場所なんて自室しか用意してないし。
 俺は俺のベッドに魔王を寝かせ、傷の手当てを済ませると、可哀そうな菜園場の整備に向かうのだった。

 それが俺の運命の別れ道だったなんて知らずに。

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