繋がる想いを

無月

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恋人編

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何度かの花火が打ち上がり、そして何度目かのアナウンスが流れる。
その間も俺は響也から目が離せないでいた。

「次が大玉か」
「いよいよね」

周囲のざわめきでやっと固まった体が動き出した。

真ん中に座る尊の後ろから響也の腕を掴む。
気付いた響也が惚けた顔のまま俺を見る。

その顔があまりにも綺麗で。

「っ」

口付けをした。

ビクリと肩を震わせた響也は瞬間目を見開くが、俺と目が合うなり揺れ動いてそっと閉じた。
その唇は薄く開き俺を優しく招き入れる。
深くなる口付けに、自然と手を重ねていた。
花火に夢中の尊は気付かない。
その後ろで行われていた事に。

ヒュルルと音が鳴り、ゆっくりと離れた唇。
暗がりでもわかる赤い顔にフッと笑みが零れた。
別の意味で惚けた響也に空を指さす。視線がそちらに向くのと同時に夜空に大輪の花が咲き誇った。
その花の出した一際大きな音は、けれど俺の鼓動の音を消すには至らないのだった。



花火が全て打ち終われば足早に立ち去る人でざわつき始めた。

「あれ?どうしたの父さん。顔赤いよ」
「……花火に感動したのだよ」

やっと俺達を見た尊が訝し気な顔をしたけど、響也は素知らぬ顔で嘯く。それに俺がクスクスと笑うと非難めいた目をされた。

「凄かったなー尊」

ビシビシと痛い視線を甘んじて受けつつも尊に話の主導権を持っていけば、尊は嬉しそうに顔を輝かした。

「胸を打つ音が凄かった!ドォンって震えたよっ」
「そうだろう。また花火見に行こうな」
「うん!絶対だよ!」

無表情が多い尊が子供らしいはしゃいだ顔を見せる。最近表情が豊かになりつつある尊に、響也も感慨深い思いがあるのだろう。俺への非難の目は止み、代わりにん慈愛の目で尊を見ていた。

帰り道も混むのを見越して時間をずらしたら尊は帰りの電車の中で寝てしまった。いっぱい遊んで疲れたんだろう。

「君の所為で忘れられない花火になったよ」

尊の耳も人気も無いのもあってムスリとした顔で言われてしまった。若干眉間に皺が見える。

「忘れてなかったか」
「忘れる訳もなかろう。……好きな者きみとの事だぞ」

う。呟くように言われた最後の言葉に胸を撃たれた。

「これから花火の度に思い出したらどうしてくれるのだね」

うぐ。それを頬を染めて言われると下半身にくる。響也はそのつもりが無いんだろうけど地味に煽ってくるんだよな。
こっちは我慢してんのに暴走したら困るのは響也だぞ。

「それは良いな。その度に響也の綺麗な顔が見れる」

冷静装って笑って見せれば呆気に取られたのか、響也はパカリと口を開けて、そして引き結んだ。

「こんなおじさんにそんな事を言うものではないよ。本気にしたらどうするのかね」
「俺も本気だからいいんじゃないか?」
「な」

あ。また口開いた。
人目無いし吸い付いて良いかな?あ、ダメ?そうですか。

「…………侑真は一度眼科に行った方が良い」
「両目とも1.5だけど」
「それは目が良いな」
「響也はたまに眼鏡してるよな」
「見えなくもないが運転をするには少々の不安がある」

上手く話が逸れたのか、それとも照れた響也が逸らしたのか。恐らく後者だろうな。
だってまだ耳が赤いままだから。

響也の家に着いても寝たままの尊をベッドに寝かし、俺はそのまま泊まる事にした。

「なあ、今日は一緒に寝たい」

風呂を借りてホカホカになった体でリビングのソファに座る響也に迫る。
だってその為に泊まりたかったんだ。この昂りのまま独り寝は寂しい。
背もたれに手を衝いて響也の動きを阻害しているが壁ドンではない。ソファだし。だからそんな無理くり後ろに下がろうとしないで欲しい。地味に傷付くから。

「それは、どう、いう……」

あ。どうやら夜の営み的な事想像してないかコレ。
え?もしかしてワンチャン有る?行ける?行けるか俺。

「抱き締めて寝たい」

それでも敢えてその言葉を避けて言えば、響也は明らかにホッとしている。それなのにその響也の目からは確かに落胆の色が見て取れた。
響也も、その先の事を考えてくれているんだろうか。

そう思うと愛しさが込み上げて、自然と響也を大事にしようと思えた。

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