一夜の関係

なずとず

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第2話 勇気の問題

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 俺たちは裸のまま、とりあえずベッドの上に移動していた。



 悠は困ったように正座して、俯いていた。俺は頭を押さえて、「あー、だからつまり」と呟く。



「悠は、自分がゲイだと気付いてたけど、長い間セックスするところまで関係が進む出会いが無かった、と」



 悠がこくんと頷く。ここに移動するまでの間、悠はとても申し訳無さそうに事情を説明してくれた。つまりは、そういうことらしい。



「でもいい加減我慢できなくなって、セックスの相手を探して来たものの……実際やるとなったら急に怖くなった、と」



「……ちょ、直前までは、本当にする気だったんです、その、キスも、気持ち良かったし……」



「でも今は、する気が出ない?」



「そ、うは、言ってません……ただ、その……少し勇気が出るまで待ってほしいだけで……」



 その言葉に溜息を吐く。処女を相手にしたことが無いわけでもないが、このケースは稀だ。本人はしたいのに勇気が出ないと言う。



 下手に手を出したらレイプになるわけで。俺はそういうのは好みじゃないから、しない信条だ。つまり、彼が諦めるか、勇気を出すまで待つしかない。



「……その、自分でした事は有るの?」



 それによっても難易度は大きく変わってくる。まず完全に未開通の状態からセックスまで行くなら、これから長い時間をかけて開発するところからだ。



 セックスはお互い気持ちよくなってこそだと思う。慣れてない男をいきなり犯すよりは、快感を知ってる奴を抱いたほうがお互い楽しめていい。



 悠は「う」と一度言い淀んでから、「あります……」と小さな声で答える。男同士なんだから、恥ずかしがること無いだろうに。ただ、そうして恥じらっているのを見るのは、ちょっと楽しい。



「どれぐらいの太さまでやった事あるの? それで、その時気持ち良かった?」



 ズカズカとプライバシーに土足で踏み込む。だいたい、これからしようとしていることは、こんな質問よりもっと恥ずかしいことだ。これぐらいで根を上げるようなら、見知らぬ男と寝るもんじゃないと思う。ちゃんとお付き合いでもして清純な関係から築き上げたほうがいい。絶対。



 悠は少ししてから、「普通の、オモチャぐらいなら」と呟いて、「それで、その、あの、気持ち、よかった、ので……」と消え入りそうな声で説明してくれた。



 はあ、ということは処女としてはやりやすい。問題は、指を入れたぐらいであんなに逃げたことだ。要は彼の言う通り、勇気の問題だろう。



「なあ、悠。悪いことは言わない、ちゃんとした恋愛をしてから、しかるべき時にその人とセックスしなよ。悠は真面目そうだし、その方が、」



「い、いえ、今日、檜山さんと、しますっ」



 止めるように促してるのに、言ったそばから拒否する。なんでそんなに意固地になるのかね、と思っていると、悠は恐る恐る俺を見て言う。



「僕、もうすぐ、誕生日で……30代になるんです……」



「あ、そうなの……もっと若いのかと思ってた」



 それは本音だ。俺の目には、悠は大学生か新入社員ぐらいの年代に、つまり年下に見えていたから、意外だった。



「このまま、恋愛もろくにできない、セックスもしたことないで、30になるのは、どうしても、我慢できないんです……」



 結婚できない女みたいなこと言ってる。俺は一瞬思ったけど、まあそこまで思っているなら、俺も手助けしてやってもいい。好みの男ではあるし、この真面目そうで恥じらいのある男が、一人で自分を慰めていた事を考えるとなんとなく興奮もする。



「じゃあ、頑張ろうか、悠」



 そう言って手を伸ばす。悠はびくっと俺を見たけど、怯えているというより、期待と不安の混ざったような目をしていた。これなら、ゆっくりやれば流されてくれるだろう。さっきと同じように髪を梳いて、それからまずは頰にキスをする。



「檜山さ、」



 名前を呼ぼうとする唇を塞ぐ。んん、とくぐもった声を上げている彼の腰に手を回して、キスを繰り返しながら、そっとベッドに倒していく。ちゅ、くちゅ、と水音を立てながら、何度も深いキスを繰り返す。次第に悠の表情が蕩けていく。



「俺に任してなよ、大丈夫、最高の夜にしてあげっから」



 耳元で囁いてやると、悠はそれだけで「は、」と熱い吐息を漏らした。ちゅ、ちゅ、と軽く肌を吸いながら、まずは胸に辿り着く。ここはあまり触っていないのか、ちろりと舌で舐めてもあまり反応は無かった。たっぷり可愛がってもいいけど、満足いく反応を得られるまでには数回はセックスしたほうがいい。俺たちのような関係ではそんな時間は無いから、少し弄んだらそのまま下へ下へと愛撫する対象をずらしていく。



「あ、檜山さん……」



 悠が不安そうに俺を見つめている。悠は太ももをぎゅっと閉じていたから、それを決して乱暴にではなく、開かせると、彼はいよいよ恥ずかしそうに俺の名を呼んだ。それは無視した。

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