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第36話 ふさわしいこと
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「……ユウキ……ユウキ……」
侵入を果たした勇気に伸ばされた手を、自分の背中に回してやって、エリスの白い身体を抱き返す。はぁ、と熱い吐息が漏れた。エリスの胎内はいつも熱く、きゅう、と勇気を受け入れてくれる。その感覚に震えながら、彼が慣れるまでの間、抱き合って過ごす。
あれからベッドに入って、性急に求め合った。久しぶりの逢瀬はたまらなく情熱的で、エリスはずっと勇気の名を呼んでキスをしてきた。それがたまらなく愛おしく、どちらともなく抱き合い、一つになった。
何度こうして体を重ねただろう。そのうち2回は、知らないうちに。酔った勢いで犯すなんて、とんでもないことをしてしまった後悔は強くて、それでも、自分が何をしたのか怖くて、聞けなかったのだ。
ぎゅ、とエリスの胸に耳を当てて、目を閉じる。トクトクと、少し早い鼓動が、温もりが心地良い。しっとり汗ばんだ体は、確かに快楽を得ている。それは、初めての夜もそうだったのだろうか。怖い思いを、痛い思いをしたのに、好きだからと我慢したのではないのか。
「……エル、……あのさ……」
「ン?」
「……俺、初めての時、酔ってただろ? ……エルも、終わった後、バイオレンスって言ってた。……怖くなかった? 痛いとか……俺、酷いことしなかった?」
それがずっと気にかかっていたのだ。ずっとずっと。そんな酷いことをした男なのだということが。
「ううん」
エリスはあっさりと、首を振って否定した。
「ユウキ、いつも、優しいよ?」
「でも……二回目なんか、口を塞いだり……」
「アレは、私が、自分で」
「えっ」
それはそれで驚きだ。思わず顔を上げると、うっとりと蕩けた表情のエリスが、勇気の顔を見上げている。
「あのね、ユウキ……。心配しないで。ユウキ、いつも、優しい、いつも、かわいい」
私ね、そんなユウキに、好きになって欲しかったの。外国人の声、独特。ユウキ、そう言った。私、それが嫌なのかと、思った。だから、塞いだ。練習した。でも、ユウキ、それでもいいって、言ってくれた。
エリスは恥ずかしそうに言って、勇気の頬に触れる。
「私、愛されたくて、色々した、だけど、ユウキ、私のこと、そのまま好き、してくれた。私、幸せ者、オヨメサン」
「エルぅ……」
「だから、心配ないよ。私ね、ユウキに嫌なこと、されてない。……あ、……でも、ふさわしくないとか、自分で言うの、もう、や、だよ」
めーだよ。エリスが誰かを(恐らくママンを)真似して笑う。優しい。それに、愛らしい。勇気はたまらなくなって、キスを落とした。
「んん、ン、ユウキ、好きだよ」
「ん、俺も。俺もエルが好きだ……」
「寂しく、させて、ごめんね?」
「俺こそ、いつも……ほんと、ごめんな……」
エルに甘えてばっかりだ。ぎゅうと抱きしめると、エリスはクスクス笑った。
「お互い様。ふふ、ユウキ、かわいい。大好き」
私のこと、オヨメサンにしてね?
ちゅ、と額にキスをされる。それがどういう意味なのかは未だによくわからない。けれど、勇気は「うん」と一つ頷いて、それから「動くよ」と囁いた。エリスも静かに頷いて、二人は熱を分かち合った。
「……ところで、またビザ取ったのか?」
熱が収まると、二人を心地良い睡魔が襲ってくる、ぎゅうぎゅうと仔犬が狭い場所に固まって眠るように、シングルベッドに収まって抱き合っている時、ふと気になって尋ねる。眠そうなエリスは「そうだね」とのろのろと答えた。
「しゅーろービザ、とった」
「就労ビザ……。じゃあ、やっぱりお父さんの会社を?」
継ぐのかなと思って尋ねたので、勇気は次の言葉に目が覚めることになった。
「ン、私、ヒラシャイン。トウヤ君の部下、なる」
「……へ?!」
ど、どうして。思わず声がひっくり返りそうになった。
社長の息子で、エリートもエリートなエリスが、どうして平社員、しかも透夜の部下になるなんてことになったのか、全くわからない。勇気が困惑していると、エリスはまたクスクス笑って、のんびり答えた。
「あのね、ユウキと知り合って、私、考え方、変わった。パパンは、ジューギョーインは、使うものって、言ってたけど。私は、色んな人と、オトモダチしたい。みんな、違って、おもしろい。だからね、会社やる前に、みんなを知りたい、思った」
「それで……平社員……」
「ン。まあ、でも、ホントの、ヒラシャインには、なれない、思う、パパンもトウヤ君も、カホゴ。でも、みんなと同じもの、見ることはできる。そしたら、私が、ユウキの、もっとふさわしい、なれるでしょ?」
「ふえ……」
勇気は何とも言えなくなった。つまり。エリスは自分が勇気に近づこうとしているのだ。相応しくないとか言って逃げ出そうとした、勇気に。それこそ、相応しい自分になろうと。
「……エル、お前、ほんと……」
「ン?」
「……ほんと……できすぎた子だよ……」
ぎゅう、と抱きしめると、エリスははにかんで言った。
「ふふ。ユウキ、私は、ユウキのふさわしい、がんばる。だから、ユウキも、私のふさわしい、がんばろ?」
そしたら、不安、無い、きっとすぐ同じ、なれるよ。
エリスの言っていることはよくわからないが、言いたいことはわかる。勇気はじんわりと涙ぐみながら、うん、とエリスを抱きしめた。
これから。何もかも、これからなのだ、変わろうと思えば変えられる。近付こうと思えば、近付ける。諦めなければ、そこに愛があれば、必ず人は、変われるのだ。
侵入を果たした勇気に伸ばされた手を、自分の背中に回してやって、エリスの白い身体を抱き返す。はぁ、と熱い吐息が漏れた。エリスの胎内はいつも熱く、きゅう、と勇気を受け入れてくれる。その感覚に震えながら、彼が慣れるまでの間、抱き合って過ごす。
あれからベッドに入って、性急に求め合った。久しぶりの逢瀬はたまらなく情熱的で、エリスはずっと勇気の名を呼んでキスをしてきた。それがたまらなく愛おしく、どちらともなく抱き合い、一つになった。
何度こうして体を重ねただろう。そのうち2回は、知らないうちに。酔った勢いで犯すなんて、とんでもないことをしてしまった後悔は強くて、それでも、自分が何をしたのか怖くて、聞けなかったのだ。
ぎゅ、とエリスの胸に耳を当てて、目を閉じる。トクトクと、少し早い鼓動が、温もりが心地良い。しっとり汗ばんだ体は、確かに快楽を得ている。それは、初めての夜もそうだったのだろうか。怖い思いを、痛い思いをしたのに、好きだからと我慢したのではないのか。
「……エル、……あのさ……」
「ン?」
「……俺、初めての時、酔ってただろ? ……エルも、終わった後、バイオレンスって言ってた。……怖くなかった? 痛いとか……俺、酷いことしなかった?」
それがずっと気にかかっていたのだ。ずっとずっと。そんな酷いことをした男なのだということが。
「ううん」
エリスはあっさりと、首を振って否定した。
「ユウキ、いつも、優しいよ?」
「でも……二回目なんか、口を塞いだり……」
「アレは、私が、自分で」
「えっ」
それはそれで驚きだ。思わず顔を上げると、うっとりと蕩けた表情のエリスが、勇気の顔を見上げている。
「あのね、ユウキ……。心配しないで。ユウキ、いつも、優しい、いつも、かわいい」
私ね、そんなユウキに、好きになって欲しかったの。外国人の声、独特。ユウキ、そう言った。私、それが嫌なのかと、思った。だから、塞いだ。練習した。でも、ユウキ、それでもいいって、言ってくれた。
エリスは恥ずかしそうに言って、勇気の頬に触れる。
「私、愛されたくて、色々した、だけど、ユウキ、私のこと、そのまま好き、してくれた。私、幸せ者、オヨメサン」
「エルぅ……」
「だから、心配ないよ。私ね、ユウキに嫌なこと、されてない。……あ、……でも、ふさわしくないとか、自分で言うの、もう、や、だよ」
めーだよ。エリスが誰かを(恐らくママンを)真似して笑う。優しい。それに、愛らしい。勇気はたまらなくなって、キスを落とした。
「んん、ン、ユウキ、好きだよ」
「ん、俺も。俺もエルが好きだ……」
「寂しく、させて、ごめんね?」
「俺こそ、いつも……ほんと、ごめんな……」
エルに甘えてばっかりだ。ぎゅうと抱きしめると、エリスはクスクス笑った。
「お互い様。ふふ、ユウキ、かわいい。大好き」
私のこと、オヨメサンにしてね?
ちゅ、と額にキスをされる。それがどういう意味なのかは未だによくわからない。けれど、勇気は「うん」と一つ頷いて、それから「動くよ」と囁いた。エリスも静かに頷いて、二人は熱を分かち合った。
「……ところで、またビザ取ったのか?」
熱が収まると、二人を心地良い睡魔が襲ってくる、ぎゅうぎゅうと仔犬が狭い場所に固まって眠るように、シングルベッドに収まって抱き合っている時、ふと気になって尋ねる。眠そうなエリスは「そうだね」とのろのろと答えた。
「しゅーろービザ、とった」
「就労ビザ……。じゃあ、やっぱりお父さんの会社を?」
継ぐのかなと思って尋ねたので、勇気は次の言葉に目が覚めることになった。
「ン、私、ヒラシャイン。トウヤ君の部下、なる」
「……へ?!」
ど、どうして。思わず声がひっくり返りそうになった。
社長の息子で、エリートもエリートなエリスが、どうして平社員、しかも透夜の部下になるなんてことになったのか、全くわからない。勇気が困惑していると、エリスはまたクスクス笑って、のんびり答えた。
「あのね、ユウキと知り合って、私、考え方、変わった。パパンは、ジューギョーインは、使うものって、言ってたけど。私は、色んな人と、オトモダチしたい。みんな、違って、おもしろい。だからね、会社やる前に、みんなを知りたい、思った」
「それで……平社員……」
「ン。まあ、でも、ホントの、ヒラシャインには、なれない、思う、パパンもトウヤ君も、カホゴ。でも、みんなと同じもの、見ることはできる。そしたら、私が、ユウキの、もっとふさわしい、なれるでしょ?」
「ふえ……」
勇気は何とも言えなくなった。つまり。エリスは自分が勇気に近づこうとしているのだ。相応しくないとか言って逃げ出そうとした、勇気に。それこそ、相応しい自分になろうと。
「……エル、お前、ほんと……」
「ン?」
「……ほんと……できすぎた子だよ……」
ぎゅう、と抱きしめると、エリスははにかんで言った。
「ふふ。ユウキ、私は、ユウキのふさわしい、がんばる。だから、ユウキも、私のふさわしい、がんばろ?」
そしたら、不安、無い、きっとすぐ同じ、なれるよ。
エリスの言っていることはよくわからないが、言いたいことはわかる。勇気はじんわりと涙ぐみながら、うん、とエリスを抱きしめた。
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