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第29話 最低の夜
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「どうして……クリスマスイヴに、こんな……よいしょ……、ほら、透夜さん! ここですか?!」
日付も変わろうかという頃。酔い潰れた透夜に肩を貸して、勇気はようやっと透夜のアパートらしき場所に辿り着いた。そこはエリートである事を誇っていた彼に似合わず、極普通のワンルームアパートに過ぎなかった。
酔い潰れた透夜をタクシーに放り込んで、無事に帰宅できるか不安になった勇気は彼からなんとか自宅の場所を聞き出し、送る事にしたのだ。
何号室ですか! と大きな声で聞いて、むにゃむにゃと寝惚けている透夜が答えたので、ズルズルと引きずっていく。鍵は、と尋ねればポケットから出したので、「開けますよ!」と宣言してから玄関を開いた。
手探りで電気を付ければ、そこは勇気の部屋とそう変わらない極普通の、一人暮らしのアパートといった様子だった。お邪魔しても大丈夫ですか? と尋ねながら、透夜を引きずって部屋に入れる。「うー」とか「んー」とかしか答えない彼のブランドものの上着を脱がしてやりながら、奥へと向かう。
ワンルームには目立ったものはベッド、パソコンデスクとノートパソコン、それに山のような英字の本や新聞だ。教材のようなものや辞書も、テーブルのそばにいくつも転がっている。ものすごい勉強家なんだな……と思いながら、勇気はとりあえずベッドに透夜を押し込んで、見つけたハンガーに服をかける。
「透夜さん、透夜さん、大丈夫ですか? 吐きそうとかないですか?」
耳元で大きな声で聞いたが、「うー」としか答えない。ホントに大丈夫なのか心配になって、こういう時はどうしたものかとスマホを開いていると、唐突に「井之上勇気ぃ……」と名を呼ばれた。
見れば、布団をかぶった透夜が、こちらを見つめている。
「僕は、お前を、許さない……」
「……」
「僕からエリス君を奪ったお前を、許さない……」
恨めしい声。それはそうだろう。こんなに努力していたのだ。ただ、エリスと初めての友達になるというそれだけのために。友達も作らないと、こじれた操立てまでして。
それ自体がなんとも歪んでいるので問題ではあるが、そこに至るまでの思考はあまりに純粋で、簡潔だ。であればこそ、どんなに理由を、理屈を重ねたところで、透夜は勇気を許せないだろう。それは、仕方のないことだ。
「……そう、ですか……」
「でも……」
透夜は小さな声で続ける。
「僕の尊敬するエリス君が好きな人のことを……、僕は理解したい、知りたい、僕も好きになりたい……」
「……透夜さん……」
その言葉に勇気は苦笑いをした。悪い人ではないのだ、本質的に。憧れの人と同じ場所に立ちたいと思った、そばにいたいと思った、中学生時代の勇気と同じように、ただ一人の人が全てになっているだけで。
そこまで考えて、中学時代の自分と同レベルで止まってるとかやばいな、と改めて透夜のこじれ具合になんとも言えない気持ちになった。
「……困ったものだ……もう少し……もう少し時間をくれ、エリス君……」
もごもごと言いながら、布団を被った透夜が、「もういい」とか「帰れ」とか呟いているから、勇気はため息を吐いて「帰りますけど」と答える。
「俺のことは、好きになれないならそれでいいと思いますよ。友達だからって、相手の好きなもの全部を好きになる必要は無いですから……。俺は帰りますけど、……あー、玄関、鍵かけてからポストに入れておきますよ?」
声をかけたが、生返事しかない。「もし何かあったらご家族やエリスに連絡してくださいよ?」と念を押しながら、勇気は部屋を出る。
酔っ払いというのは困ったものだ。溜息を吐きながら部屋に鍵をかけて、ポストに放り込む。それからスマホを取り出すと、エリスにニャインでメッセージを送った。
『透夜さん、今日めちゃくちゃに酔っ払ってたから、部屋に送った。悪いんだけど、気にかけておいてくれる?』
そして、少し考えてから、続けてメッセージを打った。
『もしエルの都合が良ければ、これから年末まで毎晩会わない? 俺、帰省するからしばらくいないんだ』
日付も変わろうかという頃。酔い潰れた透夜に肩を貸して、勇気はようやっと透夜のアパートらしき場所に辿り着いた。そこはエリートである事を誇っていた彼に似合わず、極普通のワンルームアパートに過ぎなかった。
酔い潰れた透夜をタクシーに放り込んで、無事に帰宅できるか不安になった勇気は彼からなんとか自宅の場所を聞き出し、送る事にしたのだ。
何号室ですか! と大きな声で聞いて、むにゃむにゃと寝惚けている透夜が答えたので、ズルズルと引きずっていく。鍵は、と尋ねればポケットから出したので、「開けますよ!」と宣言してから玄関を開いた。
手探りで電気を付ければ、そこは勇気の部屋とそう変わらない極普通の、一人暮らしのアパートといった様子だった。お邪魔しても大丈夫ですか? と尋ねながら、透夜を引きずって部屋に入れる。「うー」とか「んー」とかしか答えない彼のブランドものの上着を脱がしてやりながら、奥へと向かう。
ワンルームには目立ったものはベッド、パソコンデスクとノートパソコン、それに山のような英字の本や新聞だ。教材のようなものや辞書も、テーブルのそばにいくつも転がっている。ものすごい勉強家なんだな……と思いながら、勇気はとりあえずベッドに透夜を押し込んで、見つけたハンガーに服をかける。
「透夜さん、透夜さん、大丈夫ですか? 吐きそうとかないですか?」
耳元で大きな声で聞いたが、「うー」としか答えない。ホントに大丈夫なのか心配になって、こういう時はどうしたものかとスマホを開いていると、唐突に「井之上勇気ぃ……」と名を呼ばれた。
見れば、布団をかぶった透夜が、こちらを見つめている。
「僕は、お前を、許さない……」
「……」
「僕からエリス君を奪ったお前を、許さない……」
恨めしい声。それはそうだろう。こんなに努力していたのだ。ただ、エリスと初めての友達になるというそれだけのために。友達も作らないと、こじれた操立てまでして。
それ自体がなんとも歪んでいるので問題ではあるが、そこに至るまでの思考はあまりに純粋で、簡潔だ。であればこそ、どんなに理由を、理屈を重ねたところで、透夜は勇気を許せないだろう。それは、仕方のないことだ。
「……そう、ですか……」
「でも……」
透夜は小さな声で続ける。
「僕の尊敬するエリス君が好きな人のことを……、僕は理解したい、知りたい、僕も好きになりたい……」
「……透夜さん……」
その言葉に勇気は苦笑いをした。悪い人ではないのだ、本質的に。憧れの人と同じ場所に立ちたいと思った、そばにいたいと思った、中学生時代の勇気と同じように、ただ一人の人が全てになっているだけで。
そこまで考えて、中学時代の自分と同レベルで止まってるとかやばいな、と改めて透夜のこじれ具合になんとも言えない気持ちになった。
「……困ったものだ……もう少し……もう少し時間をくれ、エリス君……」
もごもごと言いながら、布団を被った透夜が、「もういい」とか「帰れ」とか呟いているから、勇気はため息を吐いて「帰りますけど」と答える。
「俺のことは、好きになれないならそれでいいと思いますよ。友達だからって、相手の好きなもの全部を好きになる必要は無いですから……。俺は帰りますけど、……あー、玄関、鍵かけてからポストに入れておきますよ?」
声をかけたが、生返事しかない。「もし何かあったらご家族やエリスに連絡してくださいよ?」と念を押しながら、勇気は部屋を出る。
酔っ払いというのは困ったものだ。溜息を吐きながら部屋に鍵をかけて、ポストに放り込む。それからスマホを取り出すと、エリスにニャインでメッセージを送った。
『透夜さん、今日めちゃくちゃに酔っ払ってたから、部屋に送った。悪いんだけど、気にかけておいてくれる?』
そして、少し考えてから、続けてメッセージを打った。
『もしエルの都合が良ければ、これから年末まで毎晩会わない? 俺、帰省するからしばらくいないんだ』
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