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第6話 宮﨑要とデートの計画
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ラーメン屋を出て、夜の街へ。エリスはしばらくネオンの明かりや行き交う人波、車列を楽しそうに眺めて、それから「ユウキ」と微笑んだ。
「二軒目は?」
「えっ?!」
予想外の言葉に勇気が驚いていると、エリスも「アレ?」と首を傾げた。
「二軒目からが本番、ユウキ、言ってた」
「俺、何を教えてんだ……。きょ、今日は、ダメだよ。明日も仕事だから」
ど平日の夜なのだ。何軒もハシゴするわけにもいかないし、したところで酒は飲めないし飲む気も無い。勇気が慌てて説明すると、エリスはとても残念そうな顔をした。その仔犬のようなわかりやすすぎる表情に、勇気はどうも弱い。
「や、ほんと、ごめんな、エル」
「いいの……。じゃあ、休みの日なら、行ける?」
「あ、ああいいよ。今週末は予定も無いし……土曜とかなら……」
「ホント? 嬉しい! ユウキと二軒目!」
本当に嬉しそうにスマホを取り出して、カレンダーアプリに予定を書き込んでいる。その様子はモデルのような美人にあるまじき子供っぽさで、そのギャップに勇気はなんともたまらない気持ちになる。
元より、本当の事を言えば、エリスが女性ならドストライクなのだった。ベロベロに酔って彼が男か女かもわからなかったら、間違いなく惚れているだろう。勇気はこの一連の間違いがどうして起こったのか、もうわかってはいた。
「えと……何食べたいか、教えてくれよ。店とか探すから……」
そう言うと、エリスは「ン、」と一瞬考えて、「ヒヤシチュウカ、ハジメマシタ」と言った。
店で食べる冷やし中華は夕飯じゃない気がする。これは勇気の個人的な考えであるから、あまり否定する気は無かった。問題はもう冷やし中華には遅い季節で、扱っている店が無いことだった。
希望のものを紹介できないと伝えると、またエリスはしょんぼりとしている。生えてもない耳と尻尾が垂れているような気がして、「また、今度、時期が来たら行こう」と言ってしまった。
「今度」とエリスが目を輝かせる。次の次がある事が確定してしまった。
「そ、そう、また今度。……他には? 食べたいものある?」
「ン、ん……たくさん、ある。ンー、そうね、うーん」
エリスは長い時間悩んで、「ナポリタン!」と言った。
昼休憩は会社の食堂で食べる。今日もコンビニで買ってきた弁当をつつきながら、勇気はスマホをいじっていた。
せっかくエリスを連れて行くなら、美味しい店がいいよな。
しかしわざわざナポリタンを食べに店に行くという経験が勇気には無い。あんまり変な店に連れて行っても悪いし、かといってチェーン店では味が落ちそうだし。勇気は延々とスマホをいじっている。
「勇気君、お店探してるの? デート?」
隣に座っていた社員に声をかけられて、勇気はびくりと顔を上げた。隣には少し垂れ目の男性社員が座っている。ふわりとした黒髪に、大人の余裕と色気を感じる彼の名前は、宮﨑要だ。転属でこちらの支社に来たそうだし勇気より年上だが、一応同期入社という扱いになり同じ新人としてよく昼食も食べている。
「ち、違いますよ、ちょっと友達と食事の約束したんですけど、いい店が見つからなくて」
「またまた。いいホテルならいくつか知ってるよ?」
「いやホントに! ホントに違いますから!」
焦って否定すればするほど怪しまれる気はするが、要は「あはは」と笑ってスマホを覗き込んでくる。そういうことをしても憎めないのが、この男の不思議なところだった。
「イタリアン?」
「そう、なんか、ナポリタンが食べたいらしくて。美味しいところ知りません?」
「ナポリタンかあ。なら古い喫茶店とかのほうがいいかもね。俺も探してみるよ。知り合いに喫茶店好きな子いるから、聞いてみる」
「あー、ありがとうございます、こういうのあんまり慣れてなくて……」
二人で昼食のついでにナポリタンの美味しい店を探す。途中で「ホテルはいいの?」とまた聞かれたので、大丈夫ですってば! と声を荒げる羽目になった。
「そんなホテルホテルって、ただれてるんだから……」
「勇気君は元ヤンなのに意外と純だよねぇ」
「会社でそれ言わないで下さいよ! あっ、そうだ、何回か一緒に呑みましたよね? その時、私おかしくなかったです?」
要は「んー?」と首を傾げて、何か思い出すようにしてから、「別に」と否定した。
「いつも通りの勇気君だったよ、記憶を無くす程酔ってるなんて思わないぐらい」
「ホントですか?」
「ホント、ホント。俺は嘘とかつかない主義だから。これ、モテる秘訣」
「さよーですか。そんな調子で彼女とデートしてるんです? 宮﨑さんはどんなお店で食事を?」
問うと、要はしばらく考えて。
「……夜デートの時はホテルしか行ってないわあ」
と笑った。
「た、ただれてる……」
「相手も納得してるからいいんだよ」
「大丈夫なんですか? その彼女も……」
「ふふ、すっごくえっちなの。でもめちゃくちゃ可愛くてね」
「はいはい……」
「聞いてよ。あの子ね、みんなの前では怖い顔しかできないのに、俺の前だとすごく可愛いんだよ、俺も嬉しくてついついデレデレになっちゃってさ」
身に覚えのある話だ。やっぱりみんなギャップに弱いのかもしれない。勇気はそう思いながらスマホをいじる。
「ねえ勇気君、このお店いいんじゃない? 知り合いがお勧めしてくれたんだけど、ネットの評価もいいし、内装も可愛いよ」
「あ、ホントですね……そこ、予約してみようかな」
「あとホテルなんだけど、」
「いやだからホテルはいいんですってば!」
「二軒目は?」
「えっ?!」
予想外の言葉に勇気が驚いていると、エリスも「アレ?」と首を傾げた。
「二軒目からが本番、ユウキ、言ってた」
「俺、何を教えてんだ……。きょ、今日は、ダメだよ。明日も仕事だから」
ど平日の夜なのだ。何軒もハシゴするわけにもいかないし、したところで酒は飲めないし飲む気も無い。勇気が慌てて説明すると、エリスはとても残念そうな顔をした。その仔犬のようなわかりやすすぎる表情に、勇気はどうも弱い。
「や、ほんと、ごめんな、エル」
「いいの……。じゃあ、休みの日なら、行ける?」
「あ、ああいいよ。今週末は予定も無いし……土曜とかなら……」
「ホント? 嬉しい! ユウキと二軒目!」
本当に嬉しそうにスマホを取り出して、カレンダーアプリに予定を書き込んでいる。その様子はモデルのような美人にあるまじき子供っぽさで、そのギャップに勇気はなんともたまらない気持ちになる。
元より、本当の事を言えば、エリスが女性ならドストライクなのだった。ベロベロに酔って彼が男か女かもわからなかったら、間違いなく惚れているだろう。勇気はこの一連の間違いがどうして起こったのか、もうわかってはいた。
「えと……何食べたいか、教えてくれよ。店とか探すから……」
そう言うと、エリスは「ン、」と一瞬考えて、「ヒヤシチュウカ、ハジメマシタ」と言った。
店で食べる冷やし中華は夕飯じゃない気がする。これは勇気の個人的な考えであるから、あまり否定する気は無かった。問題はもう冷やし中華には遅い季節で、扱っている店が無いことだった。
希望のものを紹介できないと伝えると、またエリスはしょんぼりとしている。生えてもない耳と尻尾が垂れているような気がして、「また、今度、時期が来たら行こう」と言ってしまった。
「今度」とエリスが目を輝かせる。次の次がある事が確定してしまった。
「そ、そう、また今度。……他には? 食べたいものある?」
「ン、ん……たくさん、ある。ンー、そうね、うーん」
エリスは長い時間悩んで、「ナポリタン!」と言った。
昼休憩は会社の食堂で食べる。今日もコンビニで買ってきた弁当をつつきながら、勇気はスマホをいじっていた。
せっかくエリスを連れて行くなら、美味しい店がいいよな。
しかしわざわざナポリタンを食べに店に行くという経験が勇気には無い。あんまり変な店に連れて行っても悪いし、かといってチェーン店では味が落ちそうだし。勇気は延々とスマホをいじっている。
「勇気君、お店探してるの? デート?」
隣に座っていた社員に声をかけられて、勇気はびくりと顔を上げた。隣には少し垂れ目の男性社員が座っている。ふわりとした黒髪に、大人の余裕と色気を感じる彼の名前は、宮﨑要だ。転属でこちらの支社に来たそうだし勇気より年上だが、一応同期入社という扱いになり同じ新人としてよく昼食も食べている。
「ち、違いますよ、ちょっと友達と食事の約束したんですけど、いい店が見つからなくて」
「またまた。いいホテルならいくつか知ってるよ?」
「いやホントに! ホントに違いますから!」
焦って否定すればするほど怪しまれる気はするが、要は「あはは」と笑ってスマホを覗き込んでくる。そういうことをしても憎めないのが、この男の不思議なところだった。
「イタリアン?」
「そう、なんか、ナポリタンが食べたいらしくて。美味しいところ知りません?」
「ナポリタンかあ。なら古い喫茶店とかのほうがいいかもね。俺も探してみるよ。知り合いに喫茶店好きな子いるから、聞いてみる」
「あー、ありがとうございます、こういうのあんまり慣れてなくて……」
二人で昼食のついでにナポリタンの美味しい店を探す。途中で「ホテルはいいの?」とまた聞かれたので、大丈夫ですってば! と声を荒げる羽目になった。
「そんなホテルホテルって、ただれてるんだから……」
「勇気君は元ヤンなのに意外と純だよねぇ」
「会社でそれ言わないで下さいよ! あっ、そうだ、何回か一緒に呑みましたよね? その時、私おかしくなかったです?」
要は「んー?」と首を傾げて、何か思い出すようにしてから、「別に」と否定した。
「いつも通りの勇気君だったよ、記憶を無くす程酔ってるなんて思わないぐらい」
「ホントですか?」
「ホント、ホント。俺は嘘とかつかない主義だから。これ、モテる秘訣」
「さよーですか。そんな調子で彼女とデートしてるんです? 宮﨑さんはどんなお店で食事を?」
問うと、要はしばらく考えて。
「……夜デートの時はホテルしか行ってないわあ」
と笑った。
「た、ただれてる……」
「相手も納得してるからいいんだよ」
「大丈夫なんですか? その彼女も……」
「ふふ、すっごくえっちなの。でもめちゃくちゃ可愛くてね」
「はいはい……」
「聞いてよ。あの子ね、みんなの前では怖い顔しかできないのに、俺の前だとすごく可愛いんだよ、俺も嬉しくてついついデレデレになっちゃってさ」
身に覚えのある話だ。やっぱりみんなギャップに弱いのかもしれない。勇気はそう思いながらスマホをいじる。
「ねえ勇気君、このお店いいんじゃない? 知り合いがお勧めしてくれたんだけど、ネットの評価もいいし、内装も可愛いよ」
「あ、ホントですね……そこ、予約してみようかな」
「あとホテルなんだけど、」
「いやだからホテルはいいんですってば!」
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