上 下
6 / 37

第6話 宮﨑要とデートの計画

しおりを挟む
 ラーメン屋を出て、夜の街へ。エリスはしばらくネオンの明かりや行き交う人波、車列を楽しそうに眺めて、それから「ユウキ」と微笑んだ。



「二軒目は?」



「えっ?!」



 予想外の言葉に勇気が驚いていると、エリスも「アレ?」と首を傾げた。



「二軒目からが本番、ユウキ、言ってた」



「俺、何を教えてんだ……。きょ、今日は、ダメだよ。明日も仕事だから」



 ど平日の夜なのだ。何軒もハシゴするわけにもいかないし、したところで酒は飲めないし飲む気も無い。勇気が慌てて説明すると、エリスはとても残念そうな顔をした。その仔犬のようなわかりやすすぎる表情に、勇気はどうも弱い。



「や、ほんと、ごめんな、エル」



「いいの……。じゃあ、休みの日なら、行ける?」



「あ、ああいいよ。今週末は予定も無いし……土曜とかなら……」



「ホント? 嬉しい! ユウキと二軒目!」



 本当に嬉しそうにスマホを取り出して、カレンダーアプリに予定を書き込んでいる。その様子はモデルのような美人にあるまじき子供っぽさで、そのギャップに勇気はなんともたまらない気持ちになる。



 元より、本当の事を言えば、エリスが女性ならドストライクなのだった。ベロベロに酔って彼が男か女かもわからなかったら、間違いなく惚れているだろう。勇気はこの一連の間違いがどうして起こったのか、もうわかってはいた。



「えと……何食べたいか、教えてくれよ。店とか探すから……」



 そう言うと、エリスは「ン、」と一瞬考えて、「ヒヤシチュウカ、ハジメマシタ」と言った。



 店で食べる冷やし中華は夕飯じゃない気がする。これは勇気の個人的な考えであるから、あまり否定する気は無かった。問題はもう冷やし中華には遅い季節で、扱っている店が無いことだった。



 希望のものを紹介できないと伝えると、またエリスはしょんぼりとしている。生えてもない耳と尻尾が垂れているような気がして、「また、今度、時期が来たら行こう」と言ってしまった。



「今度」とエリスが目を輝かせる。次の次がある事が確定してしまった。



「そ、そう、また今度。……他には? 食べたいものある?」



「ン、ん……たくさん、ある。ンー、そうね、うーん」



 エリスは長い時間悩んで、「ナポリタン!」と言った。













 昼休憩は会社の食堂で食べる。今日もコンビニで買ってきた弁当をつつきながら、勇気はスマホをいじっていた。



 せっかくエリスを連れて行くなら、美味しい店がいいよな。



 しかしわざわざナポリタンを食べに店に行くという経験が勇気には無い。あんまり変な店に連れて行っても悪いし、かといってチェーン店では味が落ちそうだし。勇気は延々とスマホをいじっている。



「勇気君、お店探してるの? デート?」



 隣に座っていた社員に声をかけられて、勇気はびくりと顔を上げた。隣には少し垂れ目の男性社員が座っている。ふわりとした黒髪に、大人の余裕と色気を感じる彼の名前は、宮﨑かなめだ。転属でこちらの支社に来たそうだし勇気より年上だが、一応同期入社という扱いになり同じ新人としてよく昼食も食べている。



「ち、違いますよ、ちょっと友達と食事の約束したんですけど、いい店が見つからなくて」



「またまた。いいホテルならいくつか知ってるよ?」



「いやホントに! ホントに違いますから!」



 焦って否定すればするほど怪しまれる気はするが、要は「あはは」と笑ってスマホを覗き込んでくる。そういうことをしても憎めないのが、この男の不思議なところだった。



「イタリアン?」



「そう、なんか、ナポリタンが食べたいらしくて。美味しいところ知りません?」



「ナポリタンかあ。なら古い喫茶店とかのほうがいいかもね。俺も探してみるよ。知り合いに喫茶店好きな子いるから、聞いてみる」



「あー、ありがとうございます、こういうのあんまり慣れてなくて……」



 二人で昼食のついでにナポリタンの美味しい店を探す。途中で「ホテルはいいの?」とまた聞かれたので、大丈夫ですってば! と声を荒げる羽目になった。



「そんなホテルホテルって、ただれてるんだから……」



「勇気君は元ヤンなのに意外と純だよねぇ」



「会社でそれ言わないで下さいよ! あっ、そうだ、何回か一緒に呑みましたよね? その時、私おかしくなかったです?」



 要は「んー?」と首を傾げて、何か思い出すようにしてから、「別に」と否定した。



「いつも通りの勇気君だったよ、記憶を無くす程酔ってるなんて思わないぐらい」



「ホントですか?」



「ホント、ホント。俺は嘘とかつかない主義だから。これ、モテる秘訣」



「さよーですか。そんな調子で彼女とデートしてるんです? 宮﨑さんはどんなお店で食事を?」



 問うと、要はしばらく考えて。



「……夜デートの時はホテルしか行ってないわあ」



 と笑った。



「た、ただれてる……」



「相手も納得してるからいいんだよ」



「大丈夫なんですか? その彼女も……」



「ふふ、すっごくえっちなの。でもめちゃくちゃ可愛くてね」



「はいはい……」



「聞いてよ。あの子ね、みんなの前では怖い顔しかできないのに、俺の前だとすごく可愛いんだよ、俺も嬉しくてついついデレデレになっちゃってさ」



 身に覚えのある話だ。やっぱりみんなギャップに弱いのかもしれない。勇気はそう思いながらスマホをいじる。



「ねえ勇気君、このお店いいんじゃない? 知り合いがお勧めしてくれたんだけど、ネットの評価もいいし、内装も可愛いよ」



「あ、ホントですね……そこ、予約してみようかな」



「あとホテルなんだけど、」



「いやだからホテルはいいんですってば!」



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

にーちゃんとおれ

なずとず
BL
おれが6歳の時に出来たにーちゃんは、他に居ないぐらい素敵なにーちゃんだった。そんなにーちゃんをおれは、いつのまにか、そういう目で見てしまっていたんだ。 血の繋がっていない兄弟のお話。  ちょっとゆるい弟の高梨アキト(弟)×真面目系ないいお兄ちゃんのリク(兄)です アキト一人称視点で軽めのお話になります 6歳差、24歳と18歳時点です

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

俺の推し♂が路頭に迷っていたので

木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです) どこにでも居る冴えない男 左江内 巨輝(さえない おおき)は 地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。 しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった… 推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

処理中です...