三日坊主の幸せごっこ

月澄狸

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生きる価値など

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 もし私が兵士だったら。誰も「生きて帰ってきてね」なんて言ってくれないかもしれない。
 言ってくれたとしても、「死なないで」と言われながら、死に場所に送り出されるなんて、世界が狂っている。

 みんなが私を死なせようとする。そんな人生だった可能性があり、時代や国がちょっと違えば、誰も私を生かそうとか、人権がどうとか言ってくれないかもしれない。


 私はどことなく、居場所がなく感じてきた。どこにいても、飯を食ってウンコして寝るだけの、役立たずの邪魔者である気がして。何か私が生きていていい理由が欲しかった。

 幸い、人に愛してもらえた。けれど、それが私が生きていていい理由になるか? もし恋人に捨てられたら、私の生きる価値はなくなるの? あるいは恋人がちょっと狂った人で、「君には最高潮に愛し合っている今のうちに死んでもらいたい、その方が美しい思い出になるから」とか言う人だったら? または「君が死んだら死んだで別にいいよ」とか言う人だったら?

 誰かに「私が生きる意味」を肯定したり、決めたりなどしてもらえないかもしれない。「死なないで」と言われたいがために人に縋る、そんなことしたって思い通りにはいかないかもしれない。


 誰かに「生きる価値」を囁いてもらおうったって、時代や国が狂えば、まわりの人にいとも簡単に「死ね」と言われるかもしれないのだ。実際そんな世界があるのだ。私の命を軽んじられる世界。それもさほど遠くないし、ほんの身近なことかもしれない。

 そう思うと、誰かが私に「あなたに生きていてもらいたい。生きていていいよ。あなたの命はかけがえのない、大事なものだよ」などとは言ってくれなくたって、そんなこと、この狂った世界において当然なのである。

 生きるお許しなど、もらわなくたっていい。たとえ世界に死ねと言われても、自分が生きたきゃ、生きることにしがみついてやる。
 そんなふうに思うしかないのである。


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