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持ち込まれた記憶

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「ところで……」

「ん?」

「『ごめんね』ってどういう意味だったんですか?」
 観覧車が少女に質問しました。

「いつの?」
 少女が聞き返します。


「現実の世界で、あなたが最後に乗車したときのですよ」

「ああ、最後の……ね」


 少女は少し考え込むようなそぶりを見せたあと、観覧車の質問に答えました。
「念がこもっちゃったかと思って」


「念?」
 よく分からないといった様子で観覧車が聞き返します。


「うん。あなたのことが好きだから」

「え」


 ……。
 しばらくしんとしたあと、観覧車が沈黙を破りました。


「一瞬回転が止まるかと思いましたよ」

「なんで?」

「いや別に……。ところで念って何でしょう」

「うん……それが私にもよく分からないんだけどね」


 少女は腰から小さなゲーム機を取り外し、観覧車に見せるように少し持ち上げました。

「この子が壊れて動かなくなったときのことなんだけどね……。私が公園で泣いていたら、急に知らないお姉さんが話しかけてきたの。『あなたは物を大切にしすぎる。念がこもるからやめた方がいいよ』って」

「そうなんですか」

「うん。だからあなたにも念がこもっちゃったかと思って」

「なるほど……」


 ここにいる時は表の世界のことをあまり思い出せないらしい少女が、珍しく現実世界の記憶について触れました。


「お姉さんとは他に何か話したんですか?」

「それがあの一言以外よく思い出せないの。他にももう少し話したはずなんだけど」

「そうですか……」


 少女はうつむいて話を続けます。

「念かどうかは分からないけど、私があなたに話しかけたせいで辛い思いさせちゃったかもしれないね。元の世界で取り壊されることになったとき、あなたはきっと怖かったよね。物にはいつか終わりが来るのに、私は無責任に思いを込めてしまった。そのせいであなたが感情を持つことになったかもしれない。だから謝ったの。今だってここに一人で取り残されているし……」


「……それはきっと私が選んだ道ですよ」

「でも……。もう一つ謝らなきゃいけないことがあるんだ。最後の時、不安だっただろうに……もっとちゃんと向き合ってあげられなくてごめんね」

「こちらこそ、あなたの思いを認識できず、無視してすみませんでした」

「私、あなたと再会した時に思ったの。あの時が永遠のお別れじゃなくて良かったって。あなたが消えていなくて、また会えて本当に良かったって……」


 少女はなんだか悲しそうです。

 観覧車は、少女が純粋に会いたいと思ってくれることは嬉しかったのですが、責任感で一緒にいなくてはいけないと思われているのならば、止めないといけないように感じました。


「念の話……確かにそういうこともあるかもしれません。しかしあなたの意識の流れがどう影響したかなんて、考えすぎてもしょうがないですよ。存在は影響し合うものです」

「……うん」

「物事はすべて、いつか終わるようで続きがあります。私は私できっと自由なのですから、あなたも自由にしてくださいね」

「うん」


 意を決したように観覧車は言いました。

「あなたがここに来てくれることは嬉しいです。私もあなたを呼びました。でもあなたにとって大事な世界があるなら、私のことなんて忘れていいんですよ。忘れて、終わって、いつかまた巡り会う……世界はその繰り返しですから」
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