せめく

月澄狸

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全否定の最上級は全肯定

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「そうじゃないよ」
「そうじゃないよ」

誰かの声が付きまとう

誰だ?
世間か
幻聴か


「そうじゃないよ」
「そうじゃないよ」

私の一挙手一投足
邪魔をする気か
否定する気か
忌々しい

「そうじゃないよ」
「そうじゃないよ」


リアルな生活では
そこそこおとなしく振る舞いつつ
内に怒りを溜めた

何もかもが気に食わない

一体何なんだ
どいつもこいつも
世界は薄暗く汚れていて
ちらつく影は見苦しいものばかり


「そうじゃないよ」
「そうじゃないよ」


いい加減にしろ!

顔を上げると
誰かが泣いていた

他人か?
私か?


「本当はすべてが嫌いなんじゃなくて
 すべてが好きなんでしょう」


んなわけあるか
大嫌いだよ
弱肉強食の定めも
命を踏み潰す日常も
戦争に麻痺した感覚も
美しいと言われる景色も
地球上のすべての生き物も

金で回っていることを
嘘臭く隠しやがる人間界
力しか通じない
救いのない野生世界
命だ多様性だと言いながら
贔屓ばっかりしやがって
こんな混沌の中
よくみんな平気で演じられるな

滅べ
消えろ
醜い限りだ
文句を垂れ流すだけの自分も嫌いだ
全部消えちまえ


「そうじゃないよ」
「そうじゃないよ」

「本当はすべてが嫌いなんじゃなくて
 すべてが好きなんでしょう」


同じことしか言えないのか?
馬鹿か?


「何度だって言う」

「本当はすべてが嫌いなんじゃなくて
 すべてが好きなんでしょう」





光転

ふっと感覚が柔らかく途切れ
空の上にいたような気持ちになる

ここはどこ?
生まれる前?
私の話し方こんなんだっけ?


温かで愛おしい命のすべてを見渡す
誠に誰もが脅かされない世界

目には見えない世界にいた
微生物たちまではっきり見える

生きているよ
可愛いね

ありがとう
大好きだよ……





暗転

夢から覚めると
いつも通り
最悪の世界よおはよう
クソ性格悪い自分におはよう





「ねぇ、誰だってね
 無条件にすべての命を愛していたよ
 思い出せるよ
 引っ張られちゃダメだよ

 もしも君がそれを思い出したなら
 できない人
 分からない人を否定するんじゃない
 何度でも導くんだ
 ただし人じゃなく自分自身を
 ……引きずられないようにね」





暗転

涙を流しながら目覚める
おはようますますブスな私
おはようルッキズムの世界
テレビ付ければ美男美女

何気なくスマホいじって
油断すると脳に食い込むネガティブワード

「嫌い」だの
「キモい」だの
「駆除」だの


そんな言葉求めてねーんだよ
もうちょっとマシなこと言えないのかよ

おいおいそうじゃねーだろ
笑えねーよ
ストレス発散になんねーよ

悪気がないのは分かってんだけど
どうにも相容れねーな

何より自分自身の不完全さ
有言不実行 矛盾


『私この程度か』って
諦めて落ちぶれて

けどねぇ……


「本当はすべてが嫌いなんじゃなくて
 すべてが好きなんでしょう」


んーまぁ
絶対ないとは
言い切れなくなってきたな
案外そうかもしれない

こっちが好きだからなんだ
って話だけど


明るく声をかけてくれる人がいる
優しくしてくれる人がいる
仮に偽りの親切だったところで
世界のどこにも真実の愛なんてなくたって
別にもう良いじゃない?

仮だろうとルールだろうと嫌いだろうと
殺さずに温かく接してくれる
それってもう愛かも


人も可愛いんだよ
毛並みを気にする鳥や獣や
一生懸命生きる虫のように


嫌い嫌いも好きのうちってね……


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