背徳のアルカディア

さほり

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Emmett

3.

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「助けて、兄さんっ!」

 明け方にエメットの鼓膜を揺らしたのは、弟の悲鳴だった。ハッと目を覚ますと、裸の弟が見知らぬ天使に羽交い締めにされている。その隣には、屈強な兵士が冷たい視線と剣の切っ先をエメットに向けていた。

(掟の番人……!?)

 近親相姦は重罪。体液にまみれた裸体を晒し、言い逃れできないこの状況で、どうしたら弟を助けられるだろう。エメットが逡巡していると、弟を拘束した男が無言で純白の羽を広げた。

「待て!」

 反射的に追いすがったエメットに、兵士の剣が容赦なく振り下ろされた。肩から胸にかけて焼けるように痛み、自分の血が目の前に吹き出す。剣圧に倒されたエメットは立ち上がることもできず、彼らの翼が起こす風を地面で感じた。

「いやだ! 兄さん! 兄さんっ!!」

 泣き叫ぶ弟の声が、失血で朦朧とする意識の中でこだましていた。


 気がついた時、エメットは自宅のベッドに寝かされていた。目を覚ました息子に微笑みかけた母親は、五日も眠ったままだったと安堵のため息を吐いた。

「神殿兵に逆らうなんて、どうしてそんなバカなことをしたの」

 悲しげな目でそう責められ何があったのかを思い出したエメットは、弟を探して目を泳がせた。

「アゼルは……?」
「あの子は豊穣神バッコス様の神殿でお仕えすることになったのよ」

 母は満面の笑みを浮かべ、大変な栄誉だと弾んだ声で言った。
 神殿に住み込み、神の身の回りの世話をする仕事。美貌で評判だった息子が何のために召し抱えられたのか、母には察しがつかないのだろうか。
 エメットは喜ぶ彼女に何も言えず、ただ黙って目を閉じた。
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