背徳のアルカディア

Emmett

1.

　弟が生まれたのは、エメットが七歳のときだった。
　天使はみな母親が生んだ卵から孵る。篭の中で日々大きくなる卵はとても不思議で、じっと見ていてもなぜか飽きることがなかった。

　卵から顔を出した小さな天使は金色の髪に大きな碧い目をしていて、エメットは一目見たときから彼に夢中になった。神殿で働く両親に代わり、幼い弟の世話は兄の仕事。エメットはその役得で一日のほとんどを彼と一緒に過ごした。

「兄さん、兄さん！」

　弟はエメットに懐き、いつでも兄について歩く。その愛らしさは近所でも評判だった。
「仲のいい兄弟」
「いいお兄ちゃん」
　そう評されるたびに笑顔で応えながら、エメットはずっと、誰にも明かせない秘密を抱えていた。生まれた瞬間から兄を魅了した弟。彼が美しく成長するに従い、エメットの心にあった純粋な愛情は独占欲と劣情に変わってしまったのだ。

　エメットは自分の気持ちを必死に抑え込んだ。弟にも両親にも、誰にも気づかれてはならない。
　天上界において、近親相姦は大罪だからだ。

　古の神々が繰り返した過ちを省みた神は、親子きょうだいでの姦淫を厳禁した。違反者は掟の番人に厳しく罰せられ、二度と会えぬよう引き離される。
　己れの欲望に弟を巻き込むことはできない。エメットはそう自分を律し、ひたすらに良き兄を演じ続けた。