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Gallina
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「晴れた空のような瞳ではないか……美しい。こちらに来て、よく見せなさい」
アゼルがバッコス神の寝室に呼ばれたのは、彼の神殿に連れて来られて三日目のことだった。
「この金の髪も、地上に実った麦穂のようだ。お前、名はなんという?」
「……アゼルです」
名乗ると、バッコスは豊かなあご髭を撫でながら、ふむ、と唸った。
「お前が後宮で雌鶏と呼ばれているのを知っているか? 明け方になると泣くからだそうだよ」
そんな噂が立っているのかと、アゼルは驚いた。大声で泣き叫んでいるわけでもないのに。しかも、男の自分が雌鶏とあだ名されているなんて。神の稚児として後宮に入った男をメスと呼ぶ侮蔑を、ひどく不快に感じた。
「そんな顔をするな。みな退屈しているだけだ」
バッコスが鷹揚に笑う。アゼルは彼を傲慢で好色な神だろうと思っていたが、豪華な寝室で葡萄酒のグラスを傾けるその姿は、穏やかな智慧者に見えた。
「この神殿はよいぞ。葡萄酒も果実も美味い。つらいことなどすぐに忘れよう。命は長いのだから、愉しく生きなければな」
神と天使に寿命はない。兵士に守られた安全な神殿に住まう彼は、摂取する必要のない酒や果物を常に寝室に置き、娯楽としてそれらを味わっているのだった。
「そうだ、お前のことはガジーナと呼ぶことにしよう。なかなか可愛い名前ではないか? どうだ?」
「……御意」
「閨ではよい声で鳴いて愉しませてくれ」
バッコスはアゼルの細い喉を撫でてそう言うと、髭の奥でくつくつと笑った。
アゼルがバッコス神の寝室に呼ばれたのは、彼の神殿に連れて来られて三日目のことだった。
「この金の髪も、地上に実った麦穂のようだ。お前、名はなんという?」
「……アゼルです」
名乗ると、バッコスは豊かなあご髭を撫でながら、ふむ、と唸った。
「お前が後宮で雌鶏と呼ばれているのを知っているか? 明け方になると泣くからだそうだよ」
そんな噂が立っているのかと、アゼルは驚いた。大声で泣き叫んでいるわけでもないのに。しかも、男の自分が雌鶏とあだ名されているなんて。神の稚児として後宮に入った男をメスと呼ぶ侮蔑を、ひどく不快に感じた。
「そんな顔をするな。みな退屈しているだけだ」
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「この神殿はよいぞ。葡萄酒も果実も美味い。つらいことなどすぐに忘れよう。命は長いのだから、愉しく生きなければな」
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「そうだ、お前のことはガジーナと呼ぶことにしよう。なかなか可愛い名前ではないか? どうだ?」
「……御意」
「閨ではよい声で鳴いて愉しませてくれ」
バッコスはアゼルの細い喉を撫でてそう言うと、髭の奥でくつくつと笑った。
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