ほの明るいグレーに融ける

さほり

文字の大きさ
上 下
51 / 52
エピローグ(1年後)

4.

しおりを挟む
「さて、行きましょうか。」

きりっとした時佳の声に促されて、和臣と綾人は悠人の墓を後にした。

和臣の前を歩く綾人は、少し右足を引きずっている。
一年前の事故で、綾人の足には軽微な障害が残った。普通に生活していれば気にならない程度だが、疲れた時や坂道では靴底をわずかに地面に擦るような歩き方になる。激しい運動や長時間の歩行は無理だと医師から言われていた。

墓地の不安定な足元や短い階段が、身体に負担をかけただろうか。

「綾人。」

和臣が声をかけると、綾人は振り向いて弱く微笑んだ。

「ありがとう。」

そう言って、差し出された杖を受け取る。
綾人の杖は折り畳み式で、大きめのかばんになら収納できるサイズに作られている。とはいえ意外に重量があるので、常に杖をついて歩くのは嫌だという綾人のために、一緒にいるときには和臣が持ち歩くことにしている。
和臣が必要だと判断して差し出したときには、意地を張らずに使うという約束になっていた。

「帰ったらマッサージしよう。」

和臣は優しい顔でそう言うと、

「足じゃないところもね。」

綾人の耳元でそう付け足した。

「ば…… っ!」

横目で姉を見ながら口を開けた綾人の表情を見て、和臣の脳裏にナギサの顔がよぎる。

髪と肌の色は自然に戻し、ピアスの穴はわずかな跡を残してすべてふさがった。整形してつった大きな目はそのままだけれど、外見はほぼ昔の綾人の姿に戻っている。
それでも、綾人のささいな言動や表情に、ナギサがふわっと重なって見えることがよくあった。ほんの3日間一緒にいただけのナギサが、綾人の変装で、しかも生霊だったらしいことは理解しているものの、その違いすぎる二人の印象が重なると、和臣はいつもどきっとしてしまう。

「脳には異状なかったんだって、よかったな。」
病院で、頭の包帯が取れた綾人にそう言ったら、
「オレの頭なんて、とっくにいかれてるよ。」
ニヒルに笑った姿に度肝を抜かれた1年前を思い出す。
綾人とナギサが融合している、と、その時は思ったが、もともと綾人にもそういう部分があったというだけの話だ。

かっこ悪いと言って杖をつくのを嫌がる綾人だって、昔の彼からは想像できなかった。
いろんな表情をみせてくれるようになった綾人を、和臣は心から愛しいと思った。

「あとで無理させるから、いまは身体休めとけよ。」

時佳に聞こえないように、綾人の耳元で、和臣はささやく。

「ちょ……っ、だからもお、そおいうの、やめろよ…… っ」

和臣は、わずかに身をよじって嫌がる綾人の脇に手を伸ばした。そこにある留め具を外すと、綾人のボディバッグがするりと外れて確かな重量感とともに手におさまる。
和臣はそれを自分のかばんにしまうと、指のはらで綾人の頬をひとなでしてから、ゆっくりと歩き出した。


白い花びらを乗せた強い春風が、境内を吹き抜ける。
弟の声が聞こえた気がして、綾人は振り返った。
そこにはただ、彼の墓前に供えられた青やピンクの鮮やかな花が揺れているだけだったけれど。

悠人の手が背中を押してくれているような気がして、綾人は追い風に背筋を伸ばし、一歩を踏み出した。

【了】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

アステリズム

結月みゆ
BL
ルビーとサファイアの瞳の奥底に眠る運命────その運命が少しずつ二人を照らしだす…… 俺様な次期魔王×健気な美少年の禁断の物語。 ・fujossy様で公開してました『絵師様アンソロジー』企画参加作品です。 尚こちらは、加筆、後日談を書き下ろしての再掲載となってます。 ・美麗な表紙は水城るり様からの描き下ろしを使わせていただいてます。

猛獣のツカイカタ

怜悧(サトシ)
BL
■内容:調教師(オネエ)×ヤクザ 更迭を言い渡された久住組若頭工藤甲斐は、組長に刃を向け破門となりかける。 組長の右腕佐倉は、工藤の躾をすることを条件に彼を預かり、知り合いの調教師へと預けることにした。 監禁/調教/ヤクザ受/スカトロ/SM/玩具/公開/輪姦/ ◇工藤 甲斐  (くどう かい) 年齢:25歳  身長:183cm 指定暴力団久住組 (元)若頭 久住組前組長 四代目 工藤 武志(むさし)の長男 硬い髪質の黒髪、少し角張った輪郭と鼻から頬にかけて刃傷 がある。研ぎ澄まされた目つきは獰猛。 恫喝、はったり、度胸は生まれついてのヤクザ者の風格。 ◇串崎 一真  (くしざき かずま) 年齢:28歳 身長:178cm UnderBordeauxというボンテージ専門店の店主。 裏の顔として調教師、人身売買にも手を染めている。 緩いウェーブのかかった黒髪、鼻筋が高く彫りの深い美青年 口調はオネエだが、女装などはしておらず、大抵がスーツ姿。 ◇佐倉 虎信  (さくら とらのぶ) 年齢:40歳 身長:188cm 指定暴力団久住組 若頭 工藤が子供の頃からの教育係、兼補佐。 久住組の懐刀と呼ばれるほどの武闘派だが頭も切れる。 工藤が更迭された後は、跡目にと見込まれている。 表紙は藤岡るとさん作

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

【BL】齢1200の龍王と精を吸わないオタ淫魔

三崎こはく
BL
人間と魔族が共存する国ドラキス王国。その国の頂に立つは、世にも珍しいドラゴンの血を引く王。そしてその王の一番の友人は…本と魔法に目がないオタク淫魔(男)! 友人関係の2人が、もどかしいくらいにゆっくりと距離を縮めていくお話。 【第1章 緋糸たぐる御伽姫】「俺は縁談など御免!」王様のワガママにより2週間限りの婚約者を演じることとなったオタ淫魔ゼータ。王様の傍でにこにこ笑っているだけの簡単なお仕事かと思いきや、どうも無視できない陰謀が渦巻いている様子…? 【第2章 無垢と笑えよサイコパス】 監禁有、流血有のドキドキ新婚旅行編 【第3章 埋もれるほどの花びらを君に】 ほのぼの短編 【第4章 十字架、銀弾、濡羽のはおり】 ゼータの貞操を狙う危険な男、登場 【第5章 荒城の夜半に龍が啼く】 悪意の渦巻く隣国の城へ 【第6章 安らかに眠れ、恐ろしくも美しい緋色の龍よ】 貴方の骸を探して旅に出る 【第7章 はないちもんめ】 あなたが欲しい 【第8章 終章】 短編詰め合わせ ※表紙イラストは岡保佐優様に描いていただきました♪

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

処理中です...